6話
「ここがギルドの斡旋所よ」
学校を出て20分程度。商店街から外れて20分程度。そこにハンターズギルドの斡旋所はあった。ハンターズギルド自体が出来てからまだ1年も経っていない。真新しい3階建てのビルがあり、その周りには駐車場と広く場所を取っている建物があるくらいである。
「俺はここに来るのは初めてだが思ったよりも広いんだな」
思っていたよりも広く場所を取っているハンターズギルドに馬皇から感想が漏れる。
「それはこの斡旋所の隣は訓練施設になっているわ」
「へぇ。そうなのか。って。なんでそんな事知ってんだよ?」
迷いなく説明した真央はこの場所の事を知っていたかのように答えると馬皇が聞く。
「それはもちろん面白そうな……ちょっと野暮用があったからよ」
「嘘つくんならもっとましな嘘つけよ」
真央の好奇心という分かりやすい理由が口から漏れる。その後にもっともらしい理由に言い直すがほぼ言いきってるために建前が完全に死んでいた。
「失礼ね‼ 嘘はついてないわ‼ 私自身に用は無かったけど、お母さんが用があってここに行くって言ってたからその時に無理に着いて行っただけよ‼」
「そうなのか。ってか、何の用事だよ?」
「仕事関係だから秘密って言われたわ。でも、斡旋所の方には少しだけで残りは訓練所の方に私も一緒に行ったわ」
「そうか。それで一度ここに来たんなら見学させてもらったのか?」
「その時はパンフレット貰って訓練所の隅の休憩スペースでそれ読んだり、保管庫の中にしまい込んだ魔道書を読んだりして時間つぶしてたわ」
真央の言葉で馬皇は真央が1人黙々とパンフレットや本を読んでいる姿を想像出来てしまい何とも言えない顔をする。
「何よ?」
「いや、なんでもない」
疑わしそうに見るが答える気のない馬皇に対して腑に落ちないと言った顔で真央は睨みつける。
「それよりも先に行かなくてもいいのか? ユメリアたちがうずうずしてる」
馬皇がそう言うと一緒に来ていたユメリアたちを見る。ユメリアとサライラは興味津々な様子で早く行きたいが、馬皇と真央を置いて行くのはさすがに悪いと思って待っているというのが顔に出ていた。由愛はそんなユメリアたちと馬皇たちを見てどうすればいいのか分からずにオロオロとしている。
「早く行こう。さっきから我慢しているがそろそろ限界だ」
馬皇たちがユメリアたちの状態にようやく気が付いたのか目を向けるとユメリアは口を開いた。仲間を待つよりも好奇心の方が上回っているのがよく分かる発言だった。
「おう。悪いな」
「そうね。確かに長々と話してたわね」
「よし。行こう」
馬皇と真央がそう言うとユメリアとサライラが先頭に立って言った。ワクワクが抑えきれないのかユメリアは由愛の手を引いて進む。その横にはちゃっかりとサライラがユメリアあの後を着いて行っている。
「はは。楽しそうだな」
「それよりももう入っちゃったわよ。あの3人」
「はやっ‼」
そんな様子を見ていた馬皇がそんな事を言っている間にユメリアたちが斡旋所の中に入る。自然にそれでいて思っていたよりも機敏な動きに馬皇は驚きを隠せない。
「ほら行くわよ」
「おう」
真央はそんな馬皇に呼び寄せるように手で招く。それに反応して馬皇も施設の中に入る。斡旋所の中に入るとすぐに番号札の機械があった。奥には受付があり受付の真上には掲示板がある。それを使って順番に呼び出しているようだった。
「入ったのはいいが思ったよりも人がいるな」
「そうね。でも、それは外の車の数見たら分かるでしょ」
「まぁな」
「由愛たちは……っと。あ」
馬皇の感想に真央が同意して由愛たちを探す。探していると人だかりがいつの間にか出来ており馬皇と真央はそこを覗き込む。
「お嬢さん。よろしければこの後一緒に夕飯とかいかがでしょうか?」
「えっと……。その」
由愛を見つけるとなぜかナンパされていた。直球な言葉と共に跪きながら優男風の男はキザなポーズでは由愛の手を握る。唐突な相手の行動に由愛はあたふたしている。
「むぅ‼ 由愛は我の連れだ。いきなりナンパするのは止めてもらおうか」
そんな状態の由愛を見かねてユメリアとサライラが優男の前に立ってさえぎる。
「おお‼ 由愛さんというのか‼ そしてさらに女神が2人‼ そちらのお嬢さん方も一緒にどうだい?」
「我たちにも‼」
その反応は予想していなかったのかユメリアは焦る。
「私はお父様一筋ですわ。だからあなたには興味ありませんわ」
「ぐふっ‼」
一方でサライラは塩対応だった。容赦ない言葉に優男はダメージを負う。その言葉に「おおっ‼」と周りが沸く。
「くっ‼ それならそのお父さんに説得させてくれ‼」
土下座しながら謎の粘りを見せる優男にサライラはどうするべきか対応に困る。手を出して無理矢理迫っている訳でもないためにサライラ達も手を出していはいない。それくらいはサライラであってもわきまえていた。
「あ。お父様」
サライラは馬皇が覗き込んできたのを見つけると声をかける。サライラの声をかけた方向がモーゼの割った海のように馬皇と真央を除いて人だかりが割れる。
「お父様。威嚇お願いしますわ」
「おう」
サライラは馬皇に抱き着くと小声でお願いする。馬皇は短くうなずくと馬皇はその相手を気絶しない程度に威圧する。中学生らしからぬ威圧感に辺り一帯の動きが完全に止まる。戦闘になれたハンターが臨戦態勢をとるがそれでも冷や汗をかきながらそれ以上は動くことが出来ない。
「娘が世話になったな。何か用か?」
「なっ‼ ……ばっ‼ ……な‼」
馬皇の威圧感に優男は喋ることが出来ない。馬皇が優男の肩を掴もうと動く瞬間馬皇の肩に誰かが触れた。
「ん?」
馬皇が振り返るとそこには受付の制服を着た女性が馬皇の肩に手を乗せていた。
「うちの者が申し訳ありません。もう反省していると思いますのでそれくらいで許していただけないでしょうか?」
やんわりと馬皇にそう言う。馬皇は前を向くと優男もビビっているのか肩を震わせるともう何もしないと手を振ってこたえる。
「ナンパするのは止めないが場所を考えろよ。それとあんまりしつこいのを今度見かけたら容赦しないからな」
馬皇がそう言うと優男は何度も頭を縦に振る。その様子に馬皇もそれ以上は言う気はないのか後ろを振り向くと女性は前に進み出て優男の耳を引っ張る。
「全く何度言えばわかるんですか? 所長?」
「いたっ‼ 痛いよ‼ 京子君‼」
「話は受付の娘に聞いてます。お説教の時間です」
「い‼ いやだぁぁぁぁぁぁ‼」
京子と呼ばれた女性は慣れているのか平坦な口調で耳を引っ張りながら奥にある部屋に連れて行く。それを見てハンターたちは終わったと各々解散していく。割と日常茶飯事なのか妙に慣れている様子であった。
「何だったんだ?」
「さぁ?」
あまりに突然の出来事に馬皇も反応に困る。そんな馬皇のつぶやきに真央は答える。
「馬皇さん‼」
「助かったぞ」
そんなやり取りをよそに由愛とユメリアが馬皇に跳びつく。その衝撃に馬皇は少し驚く。サライラは既に馬皇の後ろに飛び乗っており我関せずと言った様子である。
「うおっと。大丈夫だったか?」
「はい」
「もちろんだ。ナンパはしつこかったが特段手を出して来たわけではないからな」
「だろうな。それにさっきの周りの反応を見るに割とある事なんだろうな」
すでに何事もなかったかのように通常運航している様子に馬皇が見解を述べる。馬皇の答えにユメリアは困惑気味に言った。
「それはそれで怖いんだが?」
「それについてはご安心を。丁度いい具合にお灸をすえられて良かったのでしばらくはしないと思いますよ」
「うおっ‼ ビックリしたぁ‼」
さっき優男を連れて言った女性が馬皇の背後から突然話しかけてくる。驚いて馬皇は慌てて振り返る。
「これは失礼しました。初めまして。私ハンターズギルドの副所長をしています。長月 京子と申します」
女性:京子は丁寧にお辞儀をする。
「それで京子さんだっけ? どうしてこちらに?」
「鉄様からお話を伺っております。こちらへどうぞ」
鉄の名前を聞いて馬皇たちも納得すると京子に着いて行く。京子の案内で受付の奥に入ってから、さらに奥にある部屋の扉を開けた。
「申し訳ございませんでしたぁぁぁ‼」
その先には土下座をした優男が待っていた。




