4話
「準備は出来たか?」
「もちろんよ。あんたも準備は出来たようね?」
馬皇と真央が準備を終えて再び屋上で顔を合わせると机を挟んで立つ。
「おう。もちろんだ。そっちは魔力はしっかりこめて来たか?」
「当たり前じゃない。そっちこそ消しゴムと一緒に勝利も粉砕される覚悟はできたかしら?」
「言ってろ」
馬皇と真央はお互いに自身の魔法を施した消しゴムを机の上に乗せる。長方形の机に対角になる様に消しゴムを設置する。両者の消しゴムは見てくれは普通の消しゴムと変わらない。が、どちらも禍々しい圧力を放っていた。
「そう言えばこれするんだったらそれなりに派手になりそうだから安全のために結界貼っておくべきじゃない?」
「おう。そうだな。そうしておかないと危なそうだ」
「魔力は折半ね。物理と魔力はするから認識阻害はよろしく」
「任せろ」
真央の提案に異論はないのか馬皇は同意すると真央は結界をはる。その上に馬皇は何をしても気づかれない様に認識阻害をはる。
「これでよっぽどのことが無い限り問題ないわね」
「おう。それと由愛たちの方にも頼む」
「あ。忘れてたわ」
馬皇の言葉に真央も由愛たちの事を忘れていたのかすぐに衝撃などが来ない様に結界を重ねる。
「あの? これけしばとですよね?」
あまりにも厳重な状態を作り上げている馬皇たちに由愛は顔を引きつらせながらたずねる。
「おう。けしばとだぞ」
「そうね。ただのけしばとよ」
こういう時だけ息ぴったしに答える馬皇と真央に由愛は何かを言い返すことが出来ない。そうこうしている内に準備は整ったとばかりに馬皇と真央はじゃんけん。じゃんけんは馬皇が勝利して宣言する。
「先攻はもらうぜ」
「かかってきなさい」
馬皇が先に仕掛ける。馬皇は消しゴムの前で手をデコピンの形を作る。常人を超えた力の馬皇が気合いを入れて力を溜める。
「おう。喰らえ」
馬皇がそう言うと馬皇は溜めた力を解放する。消しゴムを弾いたとは思えない爆音と共に消しゴムは一直線に真央の消しゴムの元にはしる。速度は銃弾並。普通に視認できそうにない速度で真央の消しゴムにぶつかる。
「甘いわ」
「なっ‼」
真央は予想していたのか馬皇が宣言した直後に言った。馬皇の消しゴムが真央の消しゴムにぶつかる。消しゴム同士が衝突したとは思えないような鈍い音と共に馬皇の消しゴムは斜め上に放り出され真央の消しゴムはわずかに後退する。机には黒い跡が真央の消しゴムの足元に出来ている。
「くっ‼ 戦線復帰」
馬皇がそう宣言すると消しゴムは時間を巻き戻すかのように机の中心に舞い戻ってくる。
「読んでいたわ。最初から全力で仕掛けてくることくらい。だから、どんな衝撃が来てもいいように消しゴムと空気の摩擦を最大にしたの。そうすればまず飛ばない。けど、まさかそれを超えて押し込むとか」
「すげぇだろ」
「そうね。どんだけ脳筋なのよ?」
「シンプルイズベストだからな」
「……物は言いようね。次は私の番ね」
馬皇に動揺を誘うために精神攻撃をするが馬皇に効果はなさそうだった。そんな様子の馬皇に真央は精神攻撃を諦め攻撃に転じる。
真央は馬皇の消しゴムに正確に狙いを定める。
「強化とかしてないがいいのか?」
普通に弾こうとする真央に馬皇はニヤリと笑う。
「ええ。そんな必要ないもの」
狙いを定めると真央は普通に消しゴムを弾く。それなりではあるが明らかに普通の消しゴムを弾いただけの速度。馬皇の消しゴムにぶつかった瞬間。馬皇の消しゴムがはじけ飛んだ。
「は?」
宙を舞う消しゴム馬皇の消しゴム。対照的に真央の消しゴムは馬皇の消しゴムがいた場所で停止している。
「弾いてできた運動エネルギーをあなたの消しゴムに全て倍にして移したの。だから、小さい力でもこれだけ飛ばれるわ」
真央が自慢げに説明する。それを見た馬皇は笑った。
「かかったな」
「何?」
宙を舞う馬皇の消しゴムは馬皇の言葉と共にまるでゴムに引っ張られるように勢いよく机の中心に戻る。そして、真央の消しゴムにぶつかると両者の消しゴムは最初の位置に戻る。
「っち。仕留めきれなかったか」
「は? 何よ? それ?」
馬皇のしたことが理解できていないのか結局最初の位置に逆戻りした消しゴムたちを見て真央はそう呟く。
「驚いただろ? 相手に何かするのを考えたのはお前だけじゃねぇ。さっきのは机にゴム状にした魔力の糸を引っ付けた。その反動で反撃しただけだ。別に相手のターンで反撃したたら駄目とは言ってないからな」
「考えたわね」
「そりゃな。魔法に関しては細かいことをするのは苦手じゃないがお前程じゃない。だから、発想とパワーで勝負だ」
馬皇は真央の言葉に反応して答える。真央はその発言に笑みを浮かべる。
「そう。なら、より負けられないわね」
「次で決める」
真央がそう言うと馬皇は自信満々に答える。そんな様子の馬皇に真央は不思議そうな顔をする。
「あら? まだ勝負は決まってないのにそんなこと宣言してもいいのかしら」
「ああ。これで決着だ。俺はこの一撃に全てをかける」
「そう。それなら私も宣言するわ。私の防御を崩せるかしら?」
「おもしれぇ」
真央も馬皇の言葉にノリノリで返す。その反応に馬皇も馬皇も燃えてきたのかさっきよりも指に力がこもる。
「行くぜ」
「来なさい」
最初よりもさらに力の溜め込まれる。溜めこまれた力は消しゴムを伝達して移動するエネルギーに変換される。消しゴムは真央の消しゴムの元へ一直線に進む。1秒にも満たない時間の中で真央の消しゴムと衝突する。
「うおっ‼」
「くっ‼」
真央の消しゴムは何かの障壁のようなものを作り出して馬皇の消しゴムの動きを止める。
「行け‼」
馬皇の掛け声で徐々に障壁の中を進んでいく。
「まだまだぁ‼」
真央の声と共に障壁の圧力が増す。それが馬皇の消しゴムの侵攻を阻む。それによって勢いが弱まる。
「ふふん。私の勝ちね」
「それはどうだろうな?」
「何?」
「今だ‼ 点火‼」
「なっ‼」
馬皇がそう宣言すると同時に馬皇の消しゴムの尻の部分が爆発。その勢いで一部が削れた馬皇の消しゴムは真央の消しゴムにヒット。馬皇の消しゴムは跳ね返って机の端で何とか止まる。一方で真央の消しゴムが机から弾き出される。
「俺の勝ちだ」
「……くやしいけど今回は私の負けね」
「いい戦いだったぜ」
「そうね。面白かったわ」
馬皇が勝ち誇った顔をする。真央もくやしそうな顔をするが同時に潔く負けを認める。そして、お互いに勝負をたたえ合う。
「すごいな。地上の遊びは‼」
「違いますからね‼ これは一般的なけしばとではないですからね‼」
そんな場面の端でずっと見ていたユメリアがけしばとを勘違いする。それを由愛が必死に訂正する。
「次は我も混ぜてくれ」
「いいわね。リベンジマッチを兼ねてバトルロイヤルよ」
「受けて立つぜ。そんなこともあろうかと消しゴムはいくつか用意してる」
「おお‼」
嬉々としながらユメリアも馬皇たちに混ざる。
「由愛もするか?」
「……いいえ。私はいいです」
「そうか。疲れてるんだったらサライラの所で休んでてもいいんだぞ?」
馬皇が由愛を誘うが由愛は疲れた様子で拒否した。その様子に馬皇は少し心配そうに答える。
「そうですね。終わるまで休んでるので終わったら教えてくださいね?」
「おう」
それを聞いた馬皇は真央たちの所に戻る。由愛は馬皇にそう言うとそのままサライラの所に行く。
「サライラさんも寝てますね。おやすみなさい」
「むにゃ……。おやすみ」
横になってぐっすりと眠っていたサライラは寝言で答える。それを聞いた由愛はくすりと笑ってから座ったまま穏やかな天候の中で意識を手放した。




