1話
「ユメリア・アマノハラだ。陰陽都市アマノハラから来た。堅苦しいのは苦手だからユメリアでいい。地上の暮らしというものに興味があってここまで来た。留学という形だが1年間よろしく頼む」
「……」
それは突然の事だった。
始業式を終えて2週間。特別クラスが出来てから鍛錬を続けた結果、実習や体術、魔術といった特殊な授業に慣れ始めたころの朝のHR。鉄が留学生を紹介すると言って入っててきたのは修学旅行中に馬皇たちが知り合った由愛そっくりの女の子であった。
「ふふふふふ。驚いたか? 驚いただろ。それを見るためにここまで来たかいがあった」
ユメリアは堂々とした表情で自己紹介を終えると未だ呆然とした様子の馬皇を見て満足そうに笑みを浮かべる。馬皇もそれなりに正気に戻ったのか体を震わせながらユメリアにたずねた。
「なんでここにいるんだよ‼」
「そんなのさっき言っただろ。留学だと」
腰に手を当てて自信満々にユメリアは馬皇の質問に答える。
「国はいいのか? 一応お姫様なんだろ?」
「それについては問題ないからここにいる。それよりも周りを見て見ろ」
「あ」
ユメリアの指摘で馬皇は周りの視線に気が付く。約半分からは馬皇のお姫様という言葉についての疑問の視線。残りの半分から可愛い女の子と仲良くしやがってという嫉妬の視線である。馬皇はユメリアとの会話を一旦止めて気配を消すように静かに自分の席に着く。
「今言ったようにユメリアさんが今日から留学する。留学生に関しては前回の集会で言ったように1年間。修学旅行で行ったアマノハラからの打診があってな。交換留学という形でこのクラスに来ることになった。後、馬皇が言っていたように彼女は今は亡くなられたアマノハラの領主の娘だ。だが、本人の意向もあり生徒以上の対応はしないことになっている。説明は以上だ。交流を深めるためにHR中は質疑応答の時間にするから自由にしてくれ。委員長」
何事もなかったかのように鉄は委員長を呼んでから、教室の隅の方に置いてある予備のパイプ椅子を開いて座ると自由にしてくれと促す。委員長も異論はないのかそのままユメリアの横に並ぶ。
「気になることもあると思いますがとりあえず質問がある人は手を上げてください」
委員長がそう説明するとさっきのやり取りで大人しくなった馬皇以外の一斉にクラス全員から手が上がる。
「はい。遠藤さん」
「はーい。ぶっちゃけ負毛君とユメリアさんってどういう関係なんですか?」
「ぶっ」
いきなりな遠藤 珠子の質問に馬皇は吹きだす。その様子にユメリアは何か面白いことを思いついたのかニヤリと笑った。
「ふむ。馬皇との関係か? 我の恩人であると同時にとても口では言い表せぬ関係と言っておこう。それにキスした仲だ」
「ちょ‼ 説明―」
ユメリアの説明にクラスがざわめく。ユメリアの確信犯的な説明に馬皇は弁解しようとするが、真央とファナに加えて事情を知っているはずの由愛から放たれる謎の威圧感にさえぎられる。そんなざわめきの中から小太郎が追加で質問する。
「はいはい。ぶっちゃけ馬皇のことはどう思ってるんですか?」
「……それは秘密だ」
「くっ‼」
「ちっきしょぉぉぉぉ‼」
「またあいつかぁぁぁ‼」
顔を赤らめて答えるユメリアに質問を聞いていた何人かの男子が絶望した状態で机の上に突き伏して撃沈する。
「はい。他に質問は?」
そんな一部の男子たちの喚きを無視して委員長は話を進める。そんな委員長に小太郎は言った。
「そりゃないぜ。委員長」
「正直言って鬱陶しいわ」
「ぐはっ‼」
委員長は一部の男子のノリを一瞬で切り捨てる。その言葉が胸に刺さったのか心臓をやられた動作をしてそのまま座る小太郎。
「他にはあるかしら?」
「はい」
「負毛君と仲が良いという事は由愛とも知り合いなんですか? それとそっくりなんだけど由愛とは親族なんですか?」
由愛の友人の1人である斉藤 亜紀がそう質問する。
「うむ。ホームステイ先としてお世話になっている。由愛とは血縁関係はないがここまでそっくりなのは我も最初会った時は驚いた。それに由愛とは非常に仲良くさせてもらっているぞ」
由愛の家で一緒に住んでいるという発言に斉藤は由愛に「聞いてないんだけど?」と視線を向ける。その視線に由愛は困った様子でアワアワし始めて視線を送った側の斉藤が困りとりあえず質問の内容を切ってから遊びに行く約束で話をうやむやにする。
「なら今度一緒に遊びに行きましょう?」
「もちろんだ」
「他に何かある?」
「こちらからも質問良いか?」
「それはもちろんよ。ユメリアさんは何かある?」
ユメリアが委員長にこちらから質問してもいいかたずねると委員長はたずね返す。
「ああ。このクラスは戦闘もすると聞いている。我は幼いころから魔物共との戦いがあると知って鍛錬をしているが地上ではそう言うのは最近だと聞いている。怖くないのか?」
ユメリアの質問にさっきまで突き伏した男子を含めて小声でどういう質問をするか相談していた生徒を含めたクラスの空気が止まる。ユメリアはその空気にしまったといった顔をするがその質問は委員長が答えた。
「そうね。確かにこういった戦いを知ったのは最近だしこのクラスも最近できたのものよ。戦いに関して怖いかどうかと聞かれたら怖いわ。でも、それ以上に仲間が、自分の大切なものが傷つくことの方がもっと怖いわ」
「そうか」
委員長の言葉にクラスが一斉にうなずく。その様子を見てユメリアは笑みを浮かべる。
「まぁ、そんな訳だから緊急時に戦えないというのはないか安心して。ところでユメリアさんも戦えるという事だけれど何が得意なの?」
「我か? 私はこれだ」
そう言ってユメリアはポケットから薙刀を取り出す。突然制服のポケットから薙刀が出てきて知っている馬皇たちを除いてクラスの全員が驚く。
「薙刀と陰陽術、いわゆる占いやら術が得意だ」
それだけ説明すると薙刀をもう1回ポケットに突っ込むと抵抗もなくポケットの中に消えて行った。その光景に委員長が呟く。
「ポケットの中はどうなってるの?」
「それは秘密だ」
ユメリアは驚いたクラスメイト達を見て嬉しそうに人差し指を口に当てる。一部の生徒がその姿に見とれているとHR終了のチャイムが鳴る。
「む。時間か。という訳でこれから一緒に授業を受けるから改めてよろしく頼む」
『よろしく』
ユメリアの言葉に馬皇たちは一斉に言葉を返した。
色々あって少しモチベーションが下がってましたが更新しました。読んで下さるのが一番うれしいので今後ともよろしくお願いします




