エピローグ
「…………と、まぁそんな感じで最後の俺と真央の攻撃で空間が崩壊。元となった空間の方にも影響があってあの辺り一帯が更地になってたな。それとサライラとファナもいたがサライラが機転効かせてあの空間からは既に出てたから何事もなかった。ついでに世界同士で繋がっていたラインもさすがに掻き消えたって真央が言ってたな。ただ、結局あの時の戦いじゃ決着が着かなかったことが唯一の不満だな」
「何やってるんですか……」
洋介たちの帰還から最初の月曜日の朝。まるで何事もなかったかのように馬皇が登校すると由愛に戻って来るまでの話をする。馬皇の話に由愛は呆れた様子で溜息をした。
「後は……」
「まだあるんですか‼」
「おはよう。何話してるの?」
まだやらかした事が残っていることを思い出そうとすると呆れていた由愛からツッコミが入る。そんなやり取りをしていた2人を見つけた真央が話しかけてきた。
「あ。真央さん。おはようございます」
「おう。由愛が聞きたがってたからな」
「ああ。あれね。結局決着が着かなかったのが不満なのよね」
馬皇と同じような答えを真央が言った。その答えに由愛はくすりと笑う。馬皇は面白くなさそうな顔をする。
「何よ?」
「いえ。馬皇さんと一緒の事言ってたので」
「嘘っ‼」
真央はしまったという顔をする。不満を持ってるのか馬皇が口を出す。
「それはこっちが言いてぇよ」
「何よ?」
「あん? 何だよ?」
「あ、あの。えっと……ところでファナさんも一緒に来たんですよね? あの後どうなったんですか?」
険悪な雰囲気になりそうになった馬皇と真央に由愛が話題を変えようとファナの事を出す。その事で意識が逸れたのか馬皇が由愛に答える。
「あー。ファナは今は家に住んでる」
「馬皇さんの家に?」
「おう。連れて帰った時に母さんがな。特に知りたくない事実も知ったしな」
疲れた様子で馬皇が言い淀む。
地球へと帰還した後、馬皇はファナを連れて帰った。馬皇は家に戻って両親に説明するとサライラの時と同じく簡単に受け入れられた。
しかし、馬皇の父:負毛亮馬と馬皇の母:負毛アリアがリーングランデで有名な勇者であった事。とあればファナが気付かないはずがない。ファナは2人に会った事でガチガチに緊張したのはある意味で当然の結果であると言える。
それに加えアリアの「そっか~。それなら私の遠い子孫ってことのになるのかしらね。孫とか飛び越えちゃったわ。どうしましょう。お父さん?」という発言にファナと一緒に居た馬皇も思考が停止した。
そんな中でアリアが楽しそうに話をする。遠い昔の勇者が元の世界に帰る時に他の勇者が好きだった女たちを出し抜いてアリアはちゃっかり一緒に地球へと来たと言うのが物語の真実であった。その事にファナが困惑する。話では魔法使いの少女が勇者と戻ったという話であるがその部分がアリアとの言い分が異なっていたらそうなるのは当然の帰結であった。
「私の聞いていた話では魔法使いの少女と元の世界に戻ったという話では?」
「あ。それは間違ってないわよ。あの国から離れる時も魔法とかバンバン使ってたしねぇ。多分お父さん、今の旦那様と駆け落ちしたなんて言えなかったんでしょうね。後を継いだのは1人しかいない私の兄だろうし」
「え?」
「あ。今のはお兄ちゃんに国を出るなら内緒にしておけって言われてたんだった。しーだよ。あれ? でも、かなり時間が流れてたんだっけ? まぁいいわ」
そう言ってアリアは頭をかしげる。ファナはそれを聞いた時にいきなりの事で受け入れきれないのかそのまま倒れたのは馬皇の記憶に新しい。
「何かあったんですか?」
ファナの話からそんなことを思い出して1人苦笑いすると訝しげに由愛が覗き込む。それに対して馬皇は慌てて否定する。
「いや何でもない」
「そう? 怪しいわね?」
「ですね」
馬皇が由愛と真央から視線を逸らすと2人は不審な目で見る。
「お父様ぁぁぁ‼」
そんな2人をよそにサライラが教室に入って来てから馬皇の背中に抱き着く。そして、すーはーと馬皇の背中越しで息をする。その様子に来ていたクラスの男子の一部から嫉妬の視線が刺さる。
「おい。さすがにその呼び方は人がいる時にするなって言っただろ。それに背中で変なことするな」
「嫌ですわ」
サライラは止める気はないのか短く馬皇の言葉を拒否する。その様子に馬皇はため息をすると頼んでいたことをたずねる。
「……ファナは職員室に連れて行ったな」
馬皇の言葉にサライラが力強くうなずいた。
「もちろんですわ。お父様の指示であれば例え火の中お風呂の中。それに指示を完遂した私のご褒美にお父様の背中を独占するのは当然ですわ」
「いやいや‼ さすがに風呂の中には入ってくんな‼」
サライラの支離滅裂とした言葉に馬皇も困惑する。それを見ていたクラスの男子がこそこそと隅に集まって話を始める。
「美少女に囲まれやがって……」
「クンカクンカされててうらやましい。いや、妬ましい」
「吊るす? 吊るすの?」
「異世界行って鍛えられた今なら前みたいに邪魔される前に捕まえられるぜ」
「だな。小太郎の言う通りだ」
「うしっ。手伝うぜ」
「俺もだ」
「だが、女子を怪我させないようにな」
「分かってるぜ」
「ああ」
「おう」
『全てはリア充撲滅のために』
と口々に意見が纏められて一斉に決め言葉であろう言葉をそろえてから馬皇に視線が集まる。同時にクラスの女子からの冷たい視線がバカをしようとしているクラスの男子に向けられる。その視線に男子たちの動きが止まる。
「聞こえてるからな‼」
「「「『‼』」」」
なるべく小声で話しているのだろうが狭い教室の中である。馬皇に筒抜けであるのは当然であろう。女子の視線と馬皇が警戒したことで馬皇を捕まえて見えない所に行く機会を逃したのか攻めあぐねる。微妙な雰囲気で時間が過ぎていくと予鈴が鳴った。
『チッ』
さすがに過去に鉄に追いかけられたことを覚えているのか舌打ちだけしてから席に着く男子たち。その様子に前よりも厄介になった他のクラスメイトに追われるという面倒なことにならずに済んで馬皇はほっと息を吐く。予鈴が鳴り終わると鉄が入ってくた。
「あ~。今回の件で安森先生の代わりに私が担任をすることになった。知っていると思うが鉄だ。特別クラスとして今年の残りと来年は勉強とどんなのがやって来てもいいように身を守るための技術をビシバシと仕込んでいくから気合い入れて行けよ」
『え?』
予想していなかった鉄の言葉にクラスの全員が固まる。
「ちなみに親御さん全員には許可を貰っている。このまま何もなかったことにしてもいいがそうなると記憶を消しても恐らく狙われるからな。しっかりと説明したら快くうなずいてくれた」
『……』
鉄が笑顔で答えると馬皇や真央も含めて絶句である。あまりにも突然の宣告に委員長がたずねる。
「あ、あの? いいですか?」
「何だ? 委員長」
「なぜ私たちには伝えられてないんですか?」
「それについては私が口止めさせてもらった。どこから漏れるか分からないからな。ましてや異世界の情報だ。一部の人間からしたらのどから手が出るくらい欲しい物だろう。だからこそ親御さんにはばれない様にしっかりと事情を説明した。ここでは怪しい物があっても私が見つけられるがどこに耳があるか分からんからな。そういう訳だ。黙っていて悪かったな」
「分かりました。ところで先生のいう身を守るためってどの程度ですか?」
「そんなの決まっている。グリフォン程度は何とかできるくらいだ」
『っ‼』
クラスの中で言葉うや音は出ないが衝撃が走る。異世界で色々と経験したとはいっても中学生。そして、中学生であってもこの世界にいるグリフォンのヤバさは馬皇と真央を除く全員が知っていた。最近は職業となっている魔物狩や魔法使い、陰陽師、異能者が共同で作った魔物を外から封印するダンジョンと呼ばれる存在のおかげで街中で魔物に襲われるという被害は少なくなっている。
しかし、それでも魔物が街に出なくなったという訳ではない。魔物にも危険度はあり現状は1~7までが確認されている。人間に危害を加えない種を除いていたずらをする程度の魔物を1。街どころか国に莫大な被害をもたらすであろう存在を7としている。
鉄のいうグリフォンはそのなかでも6。気性の荒さに加えて空を高速で移動する上に縄張りを転々とする。さらに簡単ではあるが風の魔法を使うのである。グリフォンの襲撃で小さい町が少し前に消えたというニュースも存在しているくらいには危険なのである。
また、リーングランデでも手練れの冒険者が複数いないと勝負にならないと言われているために鉄の言っている事にクラスは理解していた。
「あの……本当にするんですか?」
鉄の言葉が信じられないのか洋介がたずねると力強く鉄が答えた。
「なに。慣れれば卒業までには出来る」
「本当ですか?」
「ああ。それにうまいぞ? グリフォン」
『‼』
またしてもクラスに衝撃が走る。魔物の肉というのは一部を除いて高級品である。それに加えてそれだけの価値がある物が多い。テレビでも新種の食材や魔物の肉がいろんなもので宣伝されているのである。うまいものという言葉には逆らえないのかクラスの全員の目が光った。現金なものである
「という訳だが、さすがにすぐにはいかんぞ。一部以外は実力が足りんから最初は訓練からだ」
その言葉に全員がよろける。
「ちなみに訓練って何するんですか?」
クラスの男子が訓練という単語に反応すると鉄は言った。
「それは内緒だ」
『えぇ~』
その訓練の内容も鉄に内緒にされて不満そうに声が漏れる。
「おっと。忘れる所だった。分かっていると思うが転入生を紹介するぞ。入っていいぞ」
思い出したかのように鉄が扉を開けて指示を出すと異世界組のアーシャとファナが入ってくる。
「分かっていると思うがファナリアさんとアーシャさんだ。仲良くするように」
鉄がそう言うと各々が挨拶をする。
「アーシャ。簡単な魔法が出来る。幸太郎とは相思相愛」
「ファナリアよ。別の世界だからファナでいいわ。戦いたかったら言ってね。いつでもお相手するわ」
短く自己紹介すると幸太郎に視線が集まる。
「おい。嫁が言ってるぞ」
「そうよ。佐藤君も何か」
「おいおい。ちゃかすなよ」
ニマニマとした様子で幸太郎に言うと期待しているのかアーシャも期待した眼で見る。それに耐えられなかったのか幸太郎が恥ずかしそうに眼を逸らして言った。
「ア、アーシャ。俺も愛してるぞ」
「幸太郎‼」
感極まってそのまま幸太郎にダイブするアーシャ。それをあっさり受け止める幸太郎。それにクラスが沸く。それに対して鉄が手を叩いてクラスを鎮めると釘をさす。
「祝福するのはいいがそれは後にしろ。アーシャさんは佐藤の隣でいいとしてファナリアさんは山田さんの隣だ。」
「ん。よろしく」
「よろしく頼むわ」
『よろしく』
2人が最後にそう言うとクラスの全員が声をそろえて言った。その言葉にアーシャとファナは笑顔でクラスに混ざっていった。
という訳で第7章はこれで完結です。この方が良いかなと思い戦いは省略。空間が壊れるほどの戦いですが案の定引き分けです。
第8章は時間が少し飛んで馬皇たちは3年になります。そして、あの子もクラスに留学して来てますますにぎやかに。
第8章 3年生と留学生と将来と編。始まります。
といいたいですが、閑話を1つはさみます。
お楽しみに




