37話
「悪かったって。言いたいこと取られたからってそこまで不機嫌になることはねえだろ」
「ふん。せっかくいい所だったのに水を差されるなんて最悪よ」
馬皇は真央に謝るが完全にへそを曲げたのか真央は頬を膨らませる。
「それはそれとして場所はどこなの?」
「場所はガリアン皇国です」
「ケイスケまで」
真央がふて腐れた状態の中でファナがたずねるとケイスケが答える。それが気に入らないのか真央の機嫌は急降下する。
「真央様。真剣な話なのでそろそろ機嫌を直してください。攻め入るのであればそこでストレスを発散できますので」
「でも」
「どうぞ。これでも飲んで落ち着いてください。他の皆さまも」
「ありがと」
「ありがとうな」
「いただくわ」
ケイスケは最初に真央を説得しながら飲み物を渡す。気配りが出来ているのか馬皇達にも飲み物を渡した。それである程度機嫌が直ったのか真央は話を続けた。
「ふぅ。私もいちいち突っかかっていったのは悪かったわ」
「おう。気にすんなよ。話のいいところを奪って行った俺も悪かった」
「それでね。話を続けるけどケイスケが言った場所ガリアン皇国なんだけど少し気になる話を聞いたのよ。ケイスケ」
「はい。話を続けさせていただきます。私が最初に報告に来た時を覚えていますね?」
「ああ。召喚された人間が魔道具の知識を与えた話だろ?」
「はい。ですが、実はクラスの方々ではなかったのです」
「なに?」
ケイスケの発言に思わず馬皇も聞き返す。
「真央様が見つけたのは洋介様たちの形跡ですよ。それはあの後調べていたらフィルガリデ王国内の盗賊のアジト跡地らしき場所に痕跡を見つけました。問題はその後です。どうにもその術式の跡らしきものを回収したんですがどうにも同じような痕跡が他にも見つかったんです」
「それが今回の話にどうつながるんだ?」
「はい。その他の形跡についてなんですが、どうにもいろんな場所で多数発見されています。なので、確証には至りませんでした。そこで真央様と行き詰ったのですが、途中でどうにも話の食い違いがありまして。こちらの魔道具。どう思いますか?」
「これは? 変わった形をしているようだけど?」
ファナがケイスケの取り出した魔道具に頭をかしげる。
「ですよね。これは火種用の魔道具です」
「いや、どう見てもライターだろ」
ケイスケは予想していたのかその魔道具について説明すると地球の方でもなじみ深い名前を馬皇が言った。
「おい。なんでそれが魔道具になって持ってるんだよ?」
「そうです。おかしいのはそこなんです。洋介様方が魔道具を広めるとしてファナ様に報告がいかないと思いますか?」
馬皇の反応にケイスケが声を大きくする。
「確かに。知識を与えて魔道具を作るにしてもファナの所に報告なりなんなりが行くはず」
「ですが、私の元にはそんな魔道具の報告は来てませんよ」
「そうです。それに私はこの形で最初出会ったんですが調べたらこの形に行き着くまでの過程が無いんです。そうなったら怪しいですよね」
ケイスケの言葉に馬皇もファナもさすがにそれは怪しいと納得する。それに便乗する形で真央が会話に入る。
「私もこれを見た時には最初洋介たちが広めたのかなって思ってたのよ。でも、さっき言ったガリアン皇国で見つけたって言われた時に違和感に気が付いたわ。だって、隣ではあるけど全くケイスケ達と関係のない国だったもの。ケイスケが報告に来たと時の異世界の召喚者って実は洋介たちじゃなくって別の人だったのよ」
「それって真央の勘違いしたせいでややこしくなったんじゃないのか?」
真央の言葉に馬皇はもっともなことを指摘する。その指摘に真央は胸を抑えるしぐさをする。
「ぐっ。それを言われると痛いわね。偶然だけど今回は洋介たちの痕跡がリーングランデにあると信じて精査したから見つかったわ。もし他の場所だったらあそこで手詰まりだったわね。でも、それが事態をややこしくした」
「怖いな」
「でしょ? 私も知った時は冷や汗かいたわ」
真央の言葉に馬皇は冷や汗をかく。仮に洋介たちの痕跡が見つからない可能性もあったのだ。そうなると完全にお手上げ状態になる。短い期間で洋介たちが見つかったのは奇跡と言われればそうであるのだが、それは想定よりもずっと低い確率だったのである。
「話を戻させていただきますね。それに加えて決定的だったのはこの魔道具を手に入れた店主の話ですが、召喚された方の知識から国が作ったそうです」
「確定だな」
馬皇がそう言うとファナも異議はないのかうなずいた。
「そうね。さすがにそこまでの情報があると確定でしょうね。隣国なのでそれなりに国交があるのですが、そんな話は初めて聞いたわ」
「でしょうね。確実に秘密裏に進めてるわね。特に勇者の召喚を行おうとしてるんだからフィルガリデなんて特に言えない相手でしょ」
「でも、そうなってくると現状も連絡を送ってくるはずの密偵が連絡を入れないなんておかしい話ね」
「それについては全員死んでいたわ」
「は?」
疑問に思っていた事をファナが呟くと真央があっさりとした様子で答える。あまりにも簡単に死んだと言われてファナは思わず聞き返す。
「死んでいたわ。それも相手の操り人形のように死体を操られていたわ。恐らくそこから情報を操作されたのね。魔道具に関しても周辺国では売らないようにしていたみたいだし。相手の用心深さがうかがえるわ」
「……なんで助けてくれなかったの?」
「さすがに戦力も分からない。それに、このまま襲って逃げられるともっと酷い事になりそうだったからよ。それに逆に聞くけどなんでこの国の住民じゃないのに助けないといけないの?」
「それはっ‼」
真央の言葉にファナは声を荒げた。頭に血が上りすぎてそこから先の言葉が出てこない。真央の発言は正論ではあるがそれはあまりにも非情すぎる言葉であった。
「そうね。納得いかないわよね。正直、私1人で国を相手するのは訳ないわ。でも、それは国を消滅させることだけよ? それでも良かったの?」
「……良くないわ」
「でしょ。その国を制圧するにしても私としては1回で確実性を期したい。それで準備が整ったからセリフを取られたけどその国に殴り込みに行くための説明しているの。だから、こいつとサライラには残ってもらってるし。ファナ。あなたにも残ってもらったのよ。」
真央は馬皇を見た後にファナを見る。さすがに落ち着いたのかファナは真央に言った。
「全く。それだったらもっと簡潔にお願いします」
「なるべくわかりやすく言ったつもりよ」
「分かり辛いわ」
「そうかしら?」
「ふふふ。そうよ」
「そう。それなら今度説明するときはもっと簡単にするわ」
「ええ。ぜひそうして」
ファナはそう言ってほほ笑む。その様子に真央も同じように笑みを浮かべた。そんな様子の2人に今まで黙っていた馬皇は痺れを切らしたのかたずねる。
「それよりもすることを教えてくれ。あるんだろ? 作戦」
「ええ。もちろんよ。まず、―――」
真央は今回の目標と作戦を馬皇たちに打ち明けた。
今回も説明回です。プロローグのケイスケの発言の伏線回収。前話と一緒にした方が良かったんですが前の話から矛盾がなるべく無いように調べながら書いていたら予想よりもエネルギーを使ったので分けました。
次回は舞台が飛んで馬皇たちが攻め込みます。




