36話
「それは……どういう……意味?」
真央の言葉にファナが最初に言葉に出した。それでも動揺は隠し切れないのか言葉が途中で途切れる。
「それについてはこれから説明するわ。ケイスケ」
「はい」
そう言って真央がケイスケを呼ぶとケイスケも真央の求めている物を察して魔法を発動させる。
真央の掌の上では青い球体とそれによく似た少しだけ大きな球体が映し出される。どちらの球体の中でも小さな光の粒が存在し不規則に動いているように見える。
そんな球体同士には光に線のようなものがいくつか繋がっていた。
「それは?」
「簡単に説明すると今のリーングランデと私たちの世界を模したものよ」
「なら繋がっている光みたいなものは?」
真央が掌の上には地球とリーングランデの模倣であると説明する。ファナは2つの世界に繋がっている光についてたずねると真央は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「何だと思う?」
「つながっているという事は……。まさか、世界を渡るための経路だというの?」
「正解よ」
ファナが簡単に言い当てると真央は少し面白くなさそうな顔をする。
「それがどうしたというの?」
「この経路が問題なのよ。ちなみに今のこれを映しているのはいつごろのだと思う?」
「洋介たちが来た時にはあなた達はいなかったから……8日前。魔物の襲撃のあった日。確か、あの日に異世界の人間が渡って魔物を送り込んでいたはずよ」
「違うわ。リアルタイム。つまり、今よ」
「今!?」
真央の言葉にファナは驚く。その横では馬皇も驚いた顔をしていた。
「今もつながってるってことは誰かが行き来しているという事か?」
「いいえ。別に移動はしてないわ。今は消費を抑えるために待機状態にしてるみたい」
「なるほど。要はその道に魔力を込めればすぐに行き来できると」
「ええ」
「待って。どういうことなのか説明して」
馬皇は真央の説明を理解するがファナは未だに理解できずに余計に混乱する。
「勇者召喚は私たちが来た世界以外からも召喚されるのは知っているわね」
「ええ。勇者、異世界の方の世界はほとんどが違う世界の出身の方であるとは話には聞いているわ」
そう言って真央はリーングランデに入っていくように線をなぞっていく。
「そうね。なら、逆に元の世界に帰る場合は?」
「それは……」
真央が送還についてたずねるとファナは答えに行き詰まる。
「分からないでしょ。もしかしたら別の場所に飛ばされてるかもしれない」
そう言うと真央はリーングランデから地球の方へ向かって指を動かすが途中で外の何もない所へ飛び出す。その様子にファナの顔が青ざめる。
異世界に召喚した勇者たちがもしかしたら元の世界に帰れていない可能性。それがあり得るかもしれないという事は転移に失敗して命を落としているかもしれない。想像できるだけでもそれなのだ。それ以外の可能性も十分にある。世界を救ってもらった恩人にする対応ではない。
「一応言っておくけどさっきのは冗談よ。古い資料に勇者召喚の魔法陣の伝承と構成があるから知ってるけど勇者召喚では召喚前に被召喚者の世界に目印となる楔を打ち込むの。そうすることで元の世界に安全に帰れるように過去の人たちが絶妙に調整していたわ。それに一度戻った勇者と1度だけ連絡を取れるようにしているから確認もしていたみたいよ。そして、世界間同士のつながった後に負担を掛けないように緊急時の短い再度召喚以外は一定の期間を過ぎないと同じ世界からは呼び出せないようになってるわ。だから、勇者召喚に関しては問題ないわ」
真央の言葉にファナは安堵する。
だが、そうなるとなぜ今も世界同士が繋がっていると言ったのかが気になるファナ。真央の掌の光の線をよく見ると複数が重なっている事に気が付く。
「まさか……」
「ここからが本題なんだけど、今回の原因はこの勇者召喚を劣化させた召喚魔法陣よ」
「勇者召喚の魔法陣が他の国に渡った?」
「ええ。どこから漏れたのか盗み出されてるわよ。あの魔法陣。そこから使いやすいように改良しようと手を加えた結果が、世界同士の繋がり強くなりすぎて引き合ってるの。そんな魔法を使って洋介たちを呼び出した。でも、相手も召喚するときに用心していたのね。一定以上の力を持ってる奴らは召喚されないようにしたの。それが私と馬皇が呼ばれなかったわけ。しかも、話はそれだけじゃなくて恐らく洋介たちを呼び出したのはコピーの方」
「コピー?」
「複製品よ。多分実験でしょうね。あまりにお粗末だったから遅れてるだけかと思ったけど全体で調べてみたら結構な頻度で安全に世界を渡った形跡がたくさん見つかったわ。道具とかの痕跡は残さない奴らだけど魔力の痕跡が残るのは知らなかったみたいよ。見つけるのには苦労しなかったわ」
「そんなことまで分かるの?」
「分かるわよ。訓練は必要だけどね。それでね。世界同士が繋がりやすい状態で頻繁に使用すれば転移の技術さえあったらそりゃ向こうの世界の人間も観測できるし、そうなったら渡れる。それがこの世界を調査しにやってきたのが魔物の騒動。そして……」
「そして?」
「最後に気が付いた時にはぶつかる事が回避できないレベルで近づいてるでしょうね」
「そんな……」
世界の存亡レベルの話にファナは頭を抱える。同時に焦る。
「でも、私が気付いたのが運のツキね。今だったらまだ間に合う」
「タイムリミットは?」
「そうね。一定以上近づけば例え繋がりが合ってもなくても引き合うわ。だから、こっちの世界であと2日って所かしら」
「‼ 速く知らせないと‼」
「待ちなさい」
「何ですか? そんな話を聞かされたら……。すぐにでも戻らないと」
焦りを見せるファナに真央はチョップする。不意の痛みに頭を抱えてファナは涙目になる。
「落ち着きなさい」
「……何もチョップすることはないじゃない」
不意打ちでそれも容赦なくチョップを喰らわせた真央にファナは文句を言った。そんなことを気にする様子もなく真央はファナをたしなめた。
「今急いで戻っても間に合わないわよ。それに場所分かってるの?」
「あ」
ようやく自分が空回りしている事に気が付いたのかファナは声を上げる。その様子に真央は言った。
「ふぅ。ようやく落ち着いたわね。私たちもそうなったら困るから残ってるのよ」
「そ、そうでした。それでどうするんですか?」
「もちろん。そんなの考えるまでもないわ」
真央は言葉を一旦区切る。固唾を飲んでファナが真央を見ると馬皇が割り込んだ。
「殴り込みだな」
「ちょっと‼ それ私のセリフ‼」
説明回。少し喋ってるのが長いですが今回の騒動の根幹部分です。
最後だけは少し締まらないですがそれが馬皇と真央の平常運転ということで。
いつも読んでくれてありがとうございます




