35話
「ええ。そうよ。それが何か?」
真央はあっさりとファナの質問を肯定する。あっけらかんとした真央の様子に毒気が抜かれたのか一瞬で張りつめていた空気は弛緩した。
「はぁ。あの船を見た時から思っていたけど、まさか本当だったなんて」
「でも、あの時は本当に死んだわよ?」
「……まさか転生の魔法? 存在していたというの?」
「正解。良く知ってるわね。教えたつもりはないんだけど?」
正確には微妙に間違っているのだがとりあえず真央はその情報をそのまま肯定するとファナの言葉に言ったはずのない事がダダ漏れで真央は困惑した。それを補足するようにファナが説明する。
「魔人ケイスケが「マオ様は生まれ変わって戻って来る」そう言って消えたのが今も伝承に残っているだけです」
「何勝手に余計なことを言ってんのよ‼ あいつ‼」
余計なことを言った犯人が分かり真央は怒る。さすがにケイスケにも言わないでいた情報であったため捨てゼリフで言った言葉がそのまま信じられたのだと真央は推測した。ケイスケに怒りがわくのを感じながら後でおしおきする事を心の中で決める。
「ご先祖様が魔道書の一部を持ち帰ったという事も……」
「それよ。ケイスケのバカ、私が死んだ後に途中で失くしたとか言ってたけど、ある場所が分かってよかったわ。本来はこの世界の魔法とか文明を管理してるのにそれを理不尽な理由で奪いに来たのが真実なのに、変な所で理不尽な解釈されて捻じ曲げられたのは腹が立つけど負け犬の遠吠えにしかならないのよね。まぁ、私は気にしてないしそれを言うつもりはないけど」
「それにしても……。そうですか。あの魔道書にはそんなことが書かれているのですか。私にそんなこと教えてもよかったのですか?」
思い切り気にしているじゃないのとファナは内心でツッコむがそれを表には出さない。
ファナの先祖が持ち帰った魔道書。それはファナも小さいときに一度だけ眼にしたことがあった。過去にはそれを解読しようとした者はいたがそれは人間が理解するには難しすぎた。本の一文字読むだけで研究員が発狂。その後もいろいろな方法で研究者たちは読もうとしたが全員が全員発狂した。それ以降は禁書に指定され厳重に王城の奥深くに封印されたというのがファナの聞いた話である。
「まぁ、それを知ったからってあなた達人間に何かできるわけじゃないしね。それに理論は書いたけど私にしか見られないように厳重に封印してあるし、完全に失敗作だったわ。あの魔法。実験もせずにいきなり使うもんじゃないわ。やっぱり。人型に転生は出来たけど結局あれだと一部の記憶と力しか引き継げなかったし。それに死に掛けに使う物じゃないわね。死の印象が強すぎて最初は死の直前の痛みが襲って来たし。だから、今の所は預けておくわ」
記憶の蘇りはじめの時を思い出して身震いする真央。さすがにもう一度死の恐怖を経験する気はないのか出来れば覚悟を決めるまでは見たくないといった様子である。それにあの時はそれこそわずかにだが、魔法が使えていたのは馬皇を倒した勇者の血を引くと言う奇跡が成り立ったからというのが今の見解である。
そんなこんなでファナに情報を与えているが真央はそんなに気にしていないのかどうでもよさそうな表情である。ファナは真央の様子に少しの間だけ何かを葛藤するがファナは真央に手を差し出した。
「そうね。でも……。うん。もういいわ。改めてよろしくね。マオ。私の事はファナでいいわ」
そう言って笑顔で真央に手を差し出すファナに真央は驚く。驚くが真央はファナの手を取ると思っていたことを言った。
「それにしてもファナはよくあんな会話から手を差し出そうと思ったわね」
「だって、もうこの世界にはあんまり興味がないんでしょ?」
「あら? そんなに分かりやすかった?」
「それはもう」
真央はファナの言葉に感心する。確かに、ファナの言う通り真央にはこの世界についての関心はなかった。完全に無くなったという訳ではない。生まれ故郷の世界であるしそれなりに思い入れはある。
しかし、優先順位としてはかなり下の方であった。
なぜならこの世界とは全く別の世界であり勇者の故郷である地球という世界を知ってしまっていたからだ。科学と呼ばれる技術や知識。秘匿されていたが確かに存在した魔術。異能。真央の興味を引くには事欠かない世界である。その上でそれらを組み合わせた技術や敵対した相手ではあるが若返りの薬や異能者を作りだす薬。極めつけが異世界の渡航。真央にとっては興味の尽きない天国のような場所だ。
「なら分かってるわね」
「ええ。別人なんですね」
「そうよ。魔王マオはもういないの。だから、気にするだけ無駄よ」
ファナは分かってますよと言った様子で答える。その様子に真央は照れくさそうにそっぽを向く。
「それはいいとしてここからが本題よ。サライラ。ケイスケ連れてきて」
「飛んでも?」
「問題ないわ」
「分かりましたわ」
そう言うとサライラは翼を出す。そのまま臭いをたどってケイスケの場所まで一直線に飛んで行った。
「……」
「あ~。そういえば言ってなかったっけか?」
「彼女も魔族なの?」
「違うわよ。彼女とこいつは今人の姿をしてるけど竜、って言っても分からないわね。ドラゴンよ」
「はい? あの?」
真央の説明にファナは余計に頭がこんがらがる。いきなり目の前の人物がドラゴンと言われてもしっくりこないのは当たり前である。それでもとりあえず言いたいことを飲み込んでファナは続けてたずねた。
「なぜそんな存在がここに?」
ファナでもドラゴンという存在は知っていた。この世界でも高度な知恵と圧倒的な力を持つ存在であることには変わりない。それに少し遅れて馬皇が言った。
「それよりもお前が転生の魔法を作り出したって言うのに驚きだよ。初耳だし」
「あら? そうだっけ? 私としてはあんたの方が驚きよ。何かしたわけでもないのに記憶を持ったまま転生とか。それに竜が人間に転生するなんて話こいつ以外に聞いたことないわ。しかも、別の世界の魔王だっていうじゃない 」
「俺は勇者との闘争の果てで気が付けば人間に生まれ変わってたからな」
「そんなのでいいのですか?」
別に気にしていない様子でテキトーな馬皇に思わずファナはたずねる。普通であればどうしてこうなったのか気になるものだ。それがどうでもいいと言った様子が気になるのは当然だった。
「まぁ、勇者との戦いに負けたのは残念だがまだ戦えるしな。それにこいつとはどこかで決着をつける」
「ええ。望むところよ」
そうこう言いながら馬皇と真央は眼で火花を散らす。唐突な火花のちらし合いにファナは困惑する。
「またやってますわ」
「やはり仲が良いですねぇ」
「「どこがだ(よ)‼」」
そうこうしている内にサライラがケイスケを抱えて帰ってくるといつものようにケンカ一歩手前の状態に呆れた様子でサライラとケイスケが言った。
それに瞬時に反応する馬皇と真央。同時に言っているために全く持って説得力がなかった。
「そういう所がです。ところで私を呼んだという事はあれですか?」
「ええ。実は洋介たちが召喚された魔法とあんたの合った天狩とか言う奴が使ってた扉の形跡を調べてたら大変なことが分かったの」
ケイスケは察しがついているのか真央にたずねると真央は本来の用事を思い出す。真央の真剣な表情に馬皇達もさすがに気を引き締める。真央は今いるメンバーの前でこう言った。
「リーングランデと地球が頻繁に繋がったせいで衝突しそうになってるわ」
という訳で真央の転生の経緯に軽く触れています。それと同時に世界同士が繋がるリスクの詳しい話は次回に。次回をタイトルするなら「異世界召喚のリスク」。お楽しみに。




