34話
むーん。書く速度がいつもよりも遅い気がする
「へぇ。良く知ってるわね。ていうか誰?」
自身の船の名前を知っていたファナに真央は素直に感心する。真央は知らない相手に頭をかしげる。
「それは失礼したわ。私はファナリア・フィルガリデ・オウケストラよ。貴女があれを?」
「オウケストラ……。そういえば……確かあの時の王族の性にそんなのがいたかしら。うん。なるほど。ええ。私の物よ。私は真田真央。ここで話をするのもなんだから目的地に着いてからでもいいかしら?」
「それで構わないわ」
ファナの自己紹介に真央はぶつぶつと独り言を呟くと1人で納得する。それからすぐに船の所有に着いて同意して自分の名前を名乗ってから提案した。真央の提案に文句はないのかファナはそれに同意する。
ある程度話がまとまった所で真央は船の方に体を向けてジェスチャーで下に降りてくるように合図した。それからしばらくすると船はゆっくりと降りてくる。完全に地面に着陸すると船から乗り込むための半透明な道が出来た。
「本当にそれに乗って大丈夫なのか? 見た目は全然古くなさそうだけど何と言うか落ちそうで怖いんだが……」
クラスを代表して洋介がためらいがちにたずねる。ファナが言っていたことが事実であるとするなら少なくとも数百年近くは経過しているはずである。いくら魔法があると言ってもそこまで古いと警戒するのは当然であろう。
「なによ? 心配しなくてもケイスケがいつでも使えるように手入れしてくれてたんだから問題ないわ」
「ケイスケですって‼」
真央の言葉にファナの警戒心が強くなる。一方で洋介たちはいつの間にか転校していった人物を思いだす。
「なぁ。ケイスケって……」
「合えば分かるわ」
短くそう言うと先に真央が船の中に入っていく。それに着いて行くように馬皇と由愛、サライラ。戸惑いながらも罠の危険はないと踏んで洋介たちが。幸太郎の後ろに引っ付いてアーシャ。このまま乗らないという選択肢はないのかファナが警戒しながら。最後に鉄と親部が他に乗り遅れた者がいないか確認して乗り込む。
全員が乗り込み甲板に到着すると自動で入口の足場が消えると船が浮き上がり始める。その間に揺れはほとんどなく途中からの浮き上がる速度はかなりのものであったが感じる重力はエレベーターよりも小さい程度ですぐに違和感も消える。
「すごいな。外装も好みだがこの乗り心地は快適すぎるだろ」
「でしょ。 乗り心地や安全性にこだわって作ったのよ」
足を踏み入れた馬皇の最初に出た言葉は称賛だった。きれいに整備された船はとても古い時代に出来た船には見えないほどである。
また、地上を見ると相当な速さなのか地上の景色が眼で追えないくらいである。馬皇の素直な称賛が嬉しかったのか真央は嬉しそうに船の説明をする。
「ほう。それで速度とかは?」
「最高で大型のワイバーンに負けない程度の速度よ。元々は見栄と威圧用だから頑丈に作ってはいるんだけどどうしてもこの形状だとこれが限界でね……」
「ねぇ。いちゃつくのはいいんだけど目的地まではどれくらいかかるのかしら?」
「「いちゃついてない‼」」
2人で楽しそうに話を始めた馬皇と真央に対して入ったばかりでどうすればいいのか分からない残りのメンバーを代表して委員長がたずねる。委員長の言葉に馬皇たちは否定するが全く同じタイミングで同じことを言った。(説得力がねぇ‼)とこの場にいたほぼ全員の心の中が一致して声が出かかるがもちろんそれを口に出すわけがなく委員長は口を引きつりながらもう一度たずねる。
「そ、そう。それで? どれくらいかかるの?」
「そうね……。っと、もう着いたわ」
「もう‼」
そうこう言っている内に到着したのか船の横には泉の塔があった。出口は塔の頂上のフロアに繋がっている。
「あそこの船用の乗り場の先に元の世界に戻るための扉を設置しているから行きましょう」
真央が短く説明すると甲板から塔の内部へ歩き出す。途中で半透明な道から遠い地面を見て萎縮する者もいたが全員が渡り終えると船はまた動き出した。
「船は?」
「後で合流するけど運転手が元の場所に戻しに行ってくれてるわ」
「そう」
動き出した船に洋介が真央にたずねると短く答える。そこから塔内に入るとそこそこ広い場所に出る。
「あれが?」
「ええ。元の世界に帰るための扉よ」
広い場所の中心には陰陽都市アマノハラで見た空間転移装置とそっくりの物が置かれていた。見覚えのある装置を見て洋介たちは安堵する。
「あれを使えば帰れるんだな?」
「ええ。今起動するわ」
そう言って真央は装置を起動させる。起動すると機械独特の駆動音を鳴らしながら空間同士が接続されて見覚えのある部屋が映し出される。
「おお。教室だ」
久しぶりのクラスの教室が見えて洋介がそう言うとクラスがざわめく。
「これでよしっと。とりあえずこれを渡っていけば元の世界に戻れるわ」
「安全性を確認するために先に俺が通ってもいいか? ついでに先に戻って警察やら色々な方面に連絡や説明しとく」
真央が説明するとその安全性を確認するために親部が名乗り出る。
「ええ。もちろん。たとえ失敗しても私が呼び戻すから安心して。一応、向こうからもこっちが見えるけど、一度抜けるとこっちには戻ってこれないから注意して」
「分かった」
そう言って親部が扉を抜ける。抜けきると空間の先には親部が映っており手で丸を作って大丈夫であることを証明する。
「おお」
「ふふん。当たり前でしょ」
親部の様子に帰れることが証明されて興奮した洋介たち。そんな様子に真央は自慢気に胸を張る。
「これで証明されたからどんどん行っていいわよ」
そう言うとクラスのメンバーが次々と扉を通り抜けていく。残りが馬皇たちを除いてファナと委員長だけになった。委員長が通り抜けようとしたときに真央は言った。
「ちょっと待って」
「何かしら?」
「私と馬皇は少し用事があるから少し残るわ」
「そう。学校には?」
「この世界は繋いでるとき以外は時間の流れが違うの。だから、あまり気にしなくてもいいわよ」
「そう。分かったわ」
真央の言葉に委員長はうなずく。真央は委員長の反応を見た後で鉄の方を見る。
「鉄先生。由愛とクラスのみんなをお願いしてもいいですか?」
「任せろ。それと馬皇。戻って来ても時間があれば続きするか?」
「お願いします」
真央が鉄に由愛たちを頼むと快くうなずく。そして、馬皇の方を向くと鉄は戻ってからも修行を続けるか聞くと馬皇は即答する。そんなやり取りの中で由愛は真央にたずねた。
「何かあったんですか?」
「ええ。ちょっとね」
「そうですか。分かりました」
真央が曖昧な返事をすると由愛は理解したのか静かにうなずいた。
「ごめんね。詳しいことは離せなくて」
「いいえ。そんなことを言わないでください。とても……そう。とても気になりますが必要なことなんですよね」
「ええ」
「だったら謝ることはないです」
「そうね。ありがとう。いい子ね」
「えへへ。褒められました」
言いたいことを言って満足したのか由愛は満面の笑みを浮かべて委員長と一緒に世界を渡る。その後に鉄が世界を渡った。
「ファナは聞きたいことがあるから後で俺らと帰ることになるがいいか?」
「ええ。構わないわ。私もいろいろ聞きたいことがあるし」
「決まりだな。真央」
「分かってるわよ」
馬皇がそう言うと真央は装置を終了させる。同時に繋がって映し出されていた空間はテレビの電源を消すようにあっという間に消える。
「それで聞きたいことは何かしら? 今ならなんでもこたえてあげるわよ」
最初にファナの疑問に答えるために真央が胸を張って言った。
「ええ。貴女は初代勇者の敵だった魔王。マオなの?」
ファナは最初に核心を突いた。
クラスメイトの帰還終了。少しだけ異世界でやることを終わらせてから帰還、エピローグの予定です。




