33話
世話になったリョーマの復興と別れのあいさつを終えた洋介たちと王都から離れるファナ、アーシャを引き連れて馬皇達は街から離れた場所、馬皇と天狩の戦った森の開けた場所へと訪れていた。
そこは馬皇が戦った時とほとんど変わらず変わったとすれば天狩達が設置した扉が破壊されガラクタとして放置されていることぐらいである。街の外であるので馬皇やサライラと洋介たち冒険者組も警戒しているが少し離れた所では鉄と親部が用心を重ねて同じように警戒している。
「そろそろ到着するってよ」
「ようやく帰れるのか」
「ああ」
馬皇は真央へ念話を送ると帰ってきた言葉を洋介たちに伝える。その言葉でクラスの面々は喜びでざわめきだす。
「ところで帰る方法があるって言ってましたがどうやって戻るつもりなの?」
周囲がざわめいている中でファナが疑問に思ったのか馬皇にたずねる。方法については異世界組には説明したがファナとアーシャには伝えていないのを思い出して簡単に馬皇は説明する。
「分かりやすく言ったら転移扉だ。一方通行だけどな」
「転移扉? それって過去に失われた魔法じゃ?」
「そうなのか?」
ファナは馬皇の説明に頭をかしげる。
「ええ。初代勇者様の時代には存在していたらしいんですがその術式そのものがあまりにも難易度が高いことに加えて使用するための魔力を王都の魔法使いを総動員しても周辺の街へ1分ほどしか繋げないくらい馬鹿食いする魔法ですよ。改良を加えようと過去にはいろいろしていましたけどそうなると今度は安全性が失われて……。それ以降は結局研究されることなく使われていた物は戦争により破損。残りもさすがに時代の流れで全て風化しました」
「そうか。まぁ、お前にとっては異世界の技術だから気にするだけ無駄だと思うぞ」
「そうですね。でも、それを聞いたら俄然楽しみなってきました」
未知の魔法技術が楽しみなのか満面の笑みを浮かべるファナ。不安のない様子のファナに馬皇は少しだけほっとする。
「そう言えば俺らの世界に来たらどうするつもりなんだ?」
「え? 言ってませんでしたか? マオウさんのお宅にお世話になるって」
「聞いてないだが?」
「サライラさんは家に来ればいいとおっしゃってたんですが……」
ファナはさも当然のように馬皇の所にお邪魔すると言うと馬皇は聞いていないと言った。その食い違いにファナは頭をかしげる。その横で馬皇は眉間にしわを寄せるとサライラを呼び出した。
「サライラ」
「何ですか? お父様?」
素早く背中から降りて馬皇の前に顔を出す。背中で話を聞いていたはずだがサライラは全く聞いていなかったと言った様子で馬皇をたずねた。
「ファナを家に連れてくのか?」
「いけませんでしたか?」
馬皇がそうたずねると邪気のない顔でサライラは馬皇を見つめる。そんな様子のサライに馬皇はため息をついた。
「はぁ。せめて一言くれ」
「分かりましたわ」
そう言ってサライラは馬皇の言葉に素直にうなずく。それが終わるとまた馬皇の背中を占領するように戻る。
「サライラには甘いよな」
「んなことねぇよ」
「お父様は優しいですわ」
「だよな。俺らがケンカに巻きこまれてる時も一緒に戦ってくれるしな」
「なんだ。なんだ。あの時のケンカの話か?」
「ああ。俺と馬皇の川原での殴り合い。小太郎と幸太郎が途中で絡んできて乱闘になってうやむやになったあれだ」
「懐かしいな」
いつの間にか話を聞いていたのか洋介たちが茶化す。それに同意するようにサライラが便乗すると洋介がそれに乗っかる。どこから聞きつけてきたのか小太郎が出会った当時の事を思い出して喋る。それを聞いて幸太郎も思い題したのかうなずいた。
「それで最後には友情が芽生えたあれだな。あれ見た時は古い漫画かよって俺は悪くない」
と小太郎。続いて幸太郎が同意する。
「だな。俺もそれ思ったわ」
「なんだよ? しちゃ悪いかよ」
「そんなこと言ってねぇよ」
まんざらではないのかいちいち相手をする気はないのか馬皇は少し不機嫌そうに答えると小太郎がフォロー。そんなやり取りにファナは小さく笑った。
「仲良いのね」
「まぁ、なんだかんだでこいつらとは相性がいいからな」
「なんだかそう言う関係って良いわね」
「いつかできるさ」
「そうね」
羨ましそうにファナはそう言うと馬皇と一緒に洋介たちを見た。馬皇が少し離れても笑い合いながら今も別の話で盛り上がっている。他のメンバーも周囲を警戒こそしているが同じように雑談をしていた。
「っと。そろそろ来るか? おーい‼ そろそろ到着するぞ」
馬皇は真央が近づく事を感じ取ったのか全員に連絡する。しかし、辺りのどこを見回しても人影すらない。
「……なぁ。本当に来るのか?」
「多分大丈夫だと思いますよ。ほら‼ あそこです」
陰すら見当たらない様子に洋介がそう言う。馬皇の言葉に確信しているのか由愛が何かを見つけた。
「おいおい。なんだよ。あれ?」
由愛が指さす方向を見るとそこには空中に浮かぶ船が音もなく虚空から現れはじめる。ゆっくりとてっぺんから船底へ色がついていく。その船を見て一同は呆然とする。
洋介たち全員が乗っても余裕がありそうな大きさでいかにもファンタジーといった様相の船は空中を浮いている。
「そんな。あれは……魔道船」
「知ってるのか」
「え、ええ。魔力を使って空を事由に行き来する船ですわ。でも……」
「でも?」
「私が知る限りどこの国もまだ飛行に成功したという話は聞いていないわ。あれの持ち主はあなた達と一緒に来たのよね?」
「ああ」
「それなら作るなんて選択肢はないわよね?」
「だろうな」
「それと私はあの船を見た事あるわ」
「どういうことだ?」
動揺した様子でファナは答えた。
「それは……」
ファナは何かを言いかけるが船から馬皇たちが見える位置までやって来ると真央が飛び降りる。その姿に見ていたメンバーは慌てるが落下している最中に速度を失って地上に降りる頃には地面を少しジャンプした程度のゆったりした動きで着地する。そして、なんでもない様子で真央は言った。
「迎えに来たわよ」
「初代勇者の倒した魔王の移動の要。魔道船ノア。なんでそれがここに?」
真央の言葉に重なる様にファナはそう答えた。
次回。船の中での話から帰還(予定)




