22話
洋介サイドです
洋介は馬皇達と離れて新しく生まれた魔物たちの列の横を走る。その一方で魔物たちは洋介たちに見向きもせずに歩き続けていた。その異様な光景と共に元凶らしきものを見つけて洋介は言った。
『あれか?』
「あれだろうな。それよりも違和感ありすぎだろ」
そんな魔物たちを見て気味が悪いと思いながらも幸太郎たちを乗せて走った先に明らかにこの世界の物ではない物を見つける。背中に乗ってから慣れて来たのか幸太郎が答えた。この世界どころか元の世界でも見ないような近未来的な扉である。そこから魔物たちが列をなして行進するように出てくるのに気味の悪さを覚える。
「なんだろうな。襲い掛かってきたときには普通の魔物だったけどここの魔物には生気がないな。原因分かるか? 洋介。今は狼の魔物っぽいし」
『俺が知るか。っていうかリルに失礼だろ』
(そうじゃ。そうじゃ。洋介よ。言ってやれ)
洋介に加えて普段は洋介にしか話しかけないはずのリルの声が重なる。まさか声が聞こえた幸太郎が苦笑する。
「冗談だよ。冗談。リルさんもすまんかった。それとさっきから小太郎の反応がないな」
「……」
「おわ‼ 大丈夫か‼」
反応がない小太郎に対して幸太郎は怪訝な顔をして後ろを振り向くと顔を青くした小太郎が洋介にしがみ付いて今にも吐きそうな顔をしていた。
「……はきそう」
『やめろよ‼』
そんなことをのたまう小太郎に洋介は慌てる。誰だって吐しゃ物を背中に引っ掛けられたくないのは当然だろう。幸太郎も慌てるが洋介がそれよりも慌てていて少しだけ冷静になる。
「とりあえず、あそこはどうだ?」
『……あそこなら問題ないだろう』
様子に周りをうかがいながら小太郎に丁度良さ気な茂み、かつ元凶の扉を観察できる場所を見つけて幸太郎は提案してみる。
魔物は未だに洋介たちを無視して街の方に向かって行くのを見ながら、その列から少し外れた場所へと移動すると洋介は立ち止まった。そこから幸太郎が先に降りて揺らさないように小太郎を降ろすとよろよろと小太郎は茂みに向かって歩き出す。
それを確認した洋介は普段の姿に戻った。人型に戻るとそこには服を着た洋介が立っていた。初めて変身した時は全裸であったが、その後リルから人型の時の服を再構築する魔法を習得したのである。本来であれば最初からそれを教えていればあの時も問題なかったのだが、リル本人が忘れていただけである。リルは頑なに否定しているようだが、それなりの期間からリルが割とうっかり屋である事は洋介も分かっているためにあってないようなものである。
魔物が来ないか警戒していると洋介は扉を見る。未だに魔物は扉をくぐって大量に出てきていた。出てきた魔物たちは同じように列を作ると抵抗も何もなく列に着いて行くだけでそれ以外は何もしない。
「とりあえず原因はあの扉だな。あれを壊せば魔物はこれ以上増えないだろうけど、あれ壊したら魔物も一緒に消えないかな?」
(ないな。どうにもあの扉から感じるのは繋がっているという事だけじゃな。あの扉の先で洗脳しているとかじゃったらどうしようもないの)
「そうか。さすがにどこに繋がっているか分からない上に大量の魔物がここに出て来てるってのは色々と怖いな」
(こういうのはあれじゃ。お約束と言う奴じゃな。大概、碌でもない事になるのじゃしのぅ)
「だな。それにしてもこうも魔物の目に光が無い状態で黙々と歩いているのは怖いな」
(そうじゃな。何というか完全に操られて街に目掛けて歩かされておるだけじゃ。そして、街が見えてきたら催眠を解けば魔物たちは自然と人間を襲うじゃろうな)
「だな。だったら早く壊したいけど、多分近くに見てる奴がいるのが自然だよな。それらしいのは見かけないけど」
洋介は今も誰も近づいてくる様子のない状態に違和感を覚えながらも小太郎たちが戻って来るまで動かない。リルも洋介の言葉には同感なのか頷く。
(うむ。そうじゃろうな。恐らくは何かの実験であろうな。しかし、こうも魔物が多いと我の魔力感知でも無理じゃよ)
「そうか。なら一緒に探そうぜ」
(そ、そうか。なら一緒に探してやるとするかの)
「いつもありがとな」
(ふ、ふん。殊勝なのはいい心がけじゃな)
洋介の言葉に照れたのか照れくさそうにリルが答えると洋介はたまに素直じゃなくなる心の中の同居人に苦笑する。その後も街を襲うように命令しているだろう存在がいることを想定して探すがそれらしき影は見当たらなかった。いくつか怪しいのがいたが、正解はなく時間だけが過ぎていった。
「悪い。戻った」
「おせぇよ。それで? 小太郎は大丈夫なのか?」
「すまねぇ。もう大丈夫だ。一応、快復用の薬草を噛んだからな」
しばらくすると何とかなったのか幸太郎が先に話しかける。洋介が反応すると小太郎が申し訳なさそうに口を出した。
小太郎の顔色は若干悪いものの降ろしたときに見た時ほど酷い状態ではないことに加えて小太郎のしっかりとした答えに洋介は一息つく。
「そうか。なら早速だが仕事頼まれてくれるか?」
「おう」
「俺らは何をすればいいんだ?」
「俺が暴れるからその中で魔物の群れを操ってる奴を見つけてくれ」
「分かった。危なくなったら引けよ」
「いつも通り逃げる時は俺たちを拾って行ってくれると助かる」
「分かってる。俺が危なくなったら……」
「「サポートしてやるよ」」
洋介が言いかけている言葉にかぶせるように幸太郎と小太郎が答えると洋介は笑った。冒険者になって元の世界に帰るための手段を探している時に洋介は何度も言った。それが分かっているからこそ幸太郎と小太郎の言葉である。
「おう。それじゃ、行ってくる」
洋介は再度狼の姿になると魔物に向かって駆け出した。




