18話
屋敷に戻り急いで馬皇は自室で服を脱いでから元の姿に戻ると着慣れた服で宴会をした広間で由愛と合流する。
「ふう。やっぱこの姿の方が落ち着くな」
「むぅ。まーちゃんの期間が短かったのが残念です」
「勘弁してくれ……」
「ふふふ。分かってますよ」
馬皇の言葉に由愛が残念そうにすると馬皇は嫌そうに言った。さすがにその辺は分かってるのか由愛は笑う。
「それならいいが。そう言えばサライラは?」
「部屋を確認したらまだ寝てました。起こしたんですがまだ眠そうにしながら準備してくるって言ってました」
「ありがとな。こういう時に起こしとかないと拗ねるんだよな」
「仲間外れはいけませんよ?」
「分かってる。だから、由愛に頼んだんだろ?」
「お父様。お待たせしました」
サライラは準備を終えたのかいつものドレスを纏って馬皇たちの前に姿を現す。
「おう。やっと起きたか」
「はい。それで? クラスの人たちがいない様ですけどどうかなさったんですか?」
辺りを見回して普段なら誰かしらいるはずと聞いていたサライラは馬皇にたずねる。馬皇はサライラに今の状況を説明した。
「魔物だ。それで戦える奴らは集まって、戦えない奴らは既に安全な所に避難したよ。サライラがいつまでも起きないから先に行ってもらった」
「そうなんですの?」
「はい。私も少ししたら避難します」
「1人で大丈夫ですか? まだ、この街の道には慣れてないはずですよね?」
誰も居ない状況で避難すると言う由愛に若干の不安を募らせるサライラ。由愛はそんなサライラの様子に少し不満そうな顔をした。
「むぅ。さすがに避難する場所については先に教えてもらってますよ。なので私の事は気にせずに行ってください」
由愛がそう言うとサライラはうなずく。
「分かりましたわ。でも、危なくなったら私かお父様、もしくは真央の名前を叫んでください。助けに行きますわ」
「分かりました。なら先に行きますね。2人も気を付けて」
「おう。気を付けてな」
「いってらっしゃい」
「はい」
由愛は笑顔でそう言うと走り出した。由愛の姿が見えなくなると馬皇たちも洋介たちのいる場所へと移動を開始する。
「今回は魔物の群れとの戦いだ。分かっているな」
「はい。私たち種族を悟らせないようにですわね」
「ああ。ただし、本当に危なくなったら戻れよ」
馬皇は注意する。前世に同じようなことをした際の事を思い出す。その時は馬皇たちの国の近くでありこちらにも被害が起きるかもしれないという事で竜人の状態で魔物の暴走を一掃したことがあるが、その時は魔物の暴走の原因だと思われて勇者とバトルした。楽しくはあったが魔物との戦いのために集められた冒険者も加わって煩わしかったためにこういう時は人型の状態で出来る限り戦うようにしたのが始まりである。それが鍛錬に丁度いいとなって馬皇が広めると鍛錬の一環として国で一般化したために馬皇が苦笑したのは当然であろう。
「分かっていますわ。お父様こそテンション上げすぎてしないように気を付けてくださいよ」
「おう。っとそろそろ城壁が見えるな」
「ええ」
素早い移動で城壁の前まで来るとその上の方には弓を使う者や魔法使いが必死に矢や魔法を放っているのが見える。目の前の城門の入口はとっくに閉められており外の様子を見ることは出来ないが魔物や人間の血の臭いや戦闘の音からすでに戦いが始まっていることを理解する。
「もう始まってたか。さすがにこの城門をこじ開けてくのは良くないから上から行くぞ」
「はい」
馬皇はそう言うと近くの建物へと跳躍して城壁の上へ向かう。それの後を追う形でサライラは馬皇に着いて行く。城壁を超えてジャンプした馬皇たちは斉藤亜紀の近くに着地する。途中で馬皇たちが現れて魔法陣が消える。
「ちょっと。なんでここにいるのよ‼」
「そんなもん。普通に建物に沿ってジャンプしていけば登れるだろ?」
「んな訳ないでしょ」
馬皇の登場に呆れた様子で答える亜紀。すぐに心を落ち着けてから新しく魔法陣を描く。
「そうか?」
「お父様。もう行っていいですか?」
「少し待て」
非常識な登場の仕方を再現するようにサライラも馬皇の近くに着地する。
「地上からどれだけの高さだと思ってるの」
「つっても城門壊すわけにはいかないだろ」
「それはそうだけど……。まぁ、いいわ。鉄先生たちは門の反対側を洋介たちはこっちで戦ってるわ」
馬皇の言葉に納得は行かないが追加の戦力が来たと考えて現状を説明する。街の外を見ると大きな銀色の狼が魔物をかみちぎっているのを見つける。その近くで幸太郎が洋介に近付く魔物を蹴って飛ばす。小太郎は怪しげな道具を設置したり爆弾を魔物に投げてかく乱する。
「あそこに加勢すればいい訳だな」
「それよりも魔物はまだたくさんいるから先に進んで数を減らしてちょうだい。人が少なすぎて中々奥へ踏み込めないの」
「分かった。サライラ行くぞ」
「分かりましたわ」
「って。ちょっと。どうやって……」
亜紀の説明に馬皇はうなずくと城壁の角を飛ぶように蹴って魔物の群れに飛び込む馬皇。それを追うようにサライラも飛び出す。
「クラウ。ソラス」
「リンネ」
馬皇とサライラは空中で自らの得物を呼び出す。サライラは槍を馬皇は2本の短剣を手に持つ。
『はいは~い』
『はい。お呼びですか?』
「おう。戦いだ。行くぞ」
『『了解』』
「はい」
馬皇の言葉に剣と共にサライラも答える。そして、魔物とのすれ違いざまに馬皇の持つクラウとソラスは炎と光を纏って間合いを伸ばして切り裂く。
サライラはリンネを構えてそのまま魔物を貫通して地面にぶつかる。その衝撃で集まっていた魔物が吹き飛んだ。
馬皇たちを中心に魔物たちが集まっていた場所に穴が開く。そして、馬皇たちが一振りするたびにそれは大きくなり数を減らす。穴はすぐにそれはまた魔物の群れに覆い尽くされまた馬皇たちの攻撃で穴が開くを繰り返す。
「ここの世界も大概だと思ってたけど私たちのいた世界も大概なのかしら?」
それを見て亜紀がそう呟くと魔物たちを寄せないために魔法を撃つ作業の続きを再開した。




