17話
「コウ。誰?」
「あ~。アーシャ。クラスの仲間だ。だから心配しなくてもいい」
無口そうな少女アーシャと呼ばれた少女の幸太郎を掴む手が強くなるが幸太郎がそう説明するとすぐに元に戻る。
「ってか。こんなとこで何してんだ? それとこいつは?」
少女バージョンの馬皇を見て誰だかわからずに由愛にたずねる。馬皇はあまり見られたくないのか由愛の後ろに隠れる。
「佐藤君こそ。もしかしてデートですか?」
「そうだ。アーシャとのデートだ」
「初めまして。私アーシャ。コウはあげない」
「あはは。すまんな」
「えっと。私は由愛って言います。よろしくお願いします。私もまーちゃんとデート中です」
そう言って由愛が馬皇を見るとアーシャ何かを理解したのか頭を縦に振った。
「そう。なら問題ない」
「いや。相手は女の子だろ?」
「愛があれば問題ない」
「お、おう。そうか。それで? 隣にいるのは?」
アーシャの解答に若干引き気味に幸太郎は答える。由愛は馬皇を抱えるとうれしそうに紹介する。
「まーちゃんです」
「いや。誰だよ」
いきなり愛称を言われても困ると言った様子で幸太郎が答える。由愛は気にしていないのか、そのままこの街のおすすめの場所をたずねる。
「そんなの誰だっていいじゃないですか。それよりもお2人はデートとのことですけどオススメの店とかあります? この劇が終わるまでは向こうの方の市場を見て周ったんですけど」
「あっち。市場みたいにで店はない。けど、オシャレな店が豊富」
由愛は自分たちが覗いた市場の方角を指す。そして、アーシャはおすすめの場所に心当たりがあるのか市場とは反対側を指した。
「そうなんですか。それなら早速行ってみます」
「ふむ。市場も面白そう」
「新鮮な果物とか売ってました。後は、ちら見しただけなんですが綺麗なアクセサリーとか置いてましたよ」
「興味ある」
由愛とアーシャの会話に着いて行けないのか馬皇と幸太郎は置いてきぼりを喰らう。
「勝手に話が進んでいく」
「だな。それよりも。うーん?」
それに同意しているのか馬皇の言葉の後に幸太郎もうなずく。そして、幸太郎は馬皇をしっかりと見つめると何かが引っ掛かるのか頭をかしげた。
「な、何だよ」
「誰かに似ている気が済んだよなぁ」
「気のせいだろ。それよりも話がまとまった見たいだぞ」
話し合いが終わったのかアーシャは幸太郎の腕をつかむ。由愛は馬皇の手を握った。
「行こう」
「だな。由愛たちもそれじゃあな」
「それでは」
「またな」
アーシャがそう言うと幸太郎を連れて市場の方へ向かう。それを見送る馬皇と由愛。
「それじゃあ私たちも行きましょうか」
「……ああ」
由愛の言葉に馬皇はこれからの事を思い出して渋々うなずく。由愛の手に引かれてアーシャの行っていた場所へと向かう。
「伏せろ‼」
「きゃっ‼」
馬皇が唐突に由愛を抱きしめる。すると地面が揺れた。突然の揺れに対応できずにバランスを崩す者や悲鳴を上げる者まででる。それから少しして鐘の音が鳴り響いた。
「っ‼ 何ですか‼」
「あの音は‼ まさか魔物の‼」
「やばい‼ 襲撃だ‼」
「きゃあああぁぁぁ‼」
「慌てるな‼ 落ち着け‼」
「避難場所はこっちだ‼ 全員落ち着くんだ」
「戦えない者はこの人に着いて行け‼ 戦える者は着いてこい」
鐘の大きな音と共に男の言葉が広場にこだまする。その言葉に広場の人間たちがパニックになる。そんな中で一部の者と国の騎士らしき鎧を着た人物たちが集まり、避難と誘導を指示する。しかし、一度広がった恐慌の波は簡単には収まらない。あちこちで戸惑いや誘導が間に合わず雑多に混んだ場所で馬皇は由愛を起こす。
「由愛‼ こっちだ‼」
「まーちゃん‼」
今度は馬皇に引っ張られ混乱した人ごみの中を抜けると裏通りの人の少ない場所に出る。そこで由愛は人ごみにもまれて乱れた息を整える最中で馬皇は言った。
「サライラの事も気になるから一度洋介たちの屋敷に戻ろう。そこからなら安全な場所に行けるだろう」
「でも‼ あそこの人たちが‼」
由愛もあの状況にまだ混乱している人たちがごった返している先程の光景を思い出す。あの状況をどうにかしないと大怪我をするものが出てもおかしくはないのは確かである。
「駄目だ。それはこの国の人たちがしてくれる。俺たちがしても邪魔になるだけだ」
馬皇は由愛を諭すように話して落ち着かせる。しばらくしてようやく落ち着いたのか由愛は素直に謝った。
「すみません」
「いい。まずは合流だ。話はそれからだ。さすがにこのまま戦うのは勘弁して欲しいからな」
「まーちゃんのままで戦う姿も見て見たかったんですが」
「まじで勘弁してくれ……」
由愛が残念そうに言うと馬皇は本当に嫌そうに言葉を返す。馬皇の様子に満足したのか由愛は笑った。
「ふふ。冗談ですよ」
「あぁ。落ち着いたな」
「はい」
「おう。急ぐから抱きかかえるぞ」
「えっ。その姿のままで?」
由愛は未だに自分よりも小さい状態の馬皇の言葉に思わず聞き返した。
「当たり前だろ。この服のまま元の戻ったら……。あの時の二の舞はごめんだ。それにこの姿でも由愛を抱える程度は問題ない」
馬皇は何でもない風に言う。その様子に由愛は嫌な予感を覚えてたずねた。
「……ちなみに、これから屋根の上とか飛び跳ねます?」
「何言ってんだ? 当たり前だろ?」
「やっぱりですか? あの出来れば普通に戻りたいんですが……」
急な浮遊感や加速に予想が当たったことが加わって由愛は冷や汗をかく。その様子に馬皇は気軽に言った。
「大丈夫。大丈夫。怪我はさせないし、何回かやってるから慣れてるだろ」
「全然慣れないですよ‼」
「急いでるから少し我慢してくれ。怖かったら目を瞑ってればすぐ着く。後は、口とか開けるなよ。舌噛むから」
「っ‼」
馬皇がそう言って飛び跳ねる。由愛の体に過去に味わった重力に逆らう様な感覚が来ると直ぐに浮き上がっているような浮遊感が襲う。悲鳴を上げようにも急激に変化する感覚に加えて馬皇の言葉を思い出して迂闊に喋れない。そんな感覚を再び味わいながら由愛は早くそれが終わることを願いながら、馬皇たちは屋敷に戻るのであった。
更新しました。という訳で由愛の浮遊感を味わうノルマ達成
いつも読んで下さりありがとうございます。前回ではありますが200話を達成。ある種の達成感と共に未だに成長していない感じがしてしまってもっとしっかりと考えないとと思う今日この頃。ブクマや感想が欲しいと欲を膨らませながら頑張りますのでこれからもよろしくおねがいします。




