16話
「まだ始まってないな」
「そうですね」
街の広場。その中心には劇場のセットがあった。開始直前なのか周りには座る事の出来る席が並べられておりそこは満席である。その周りには立ったまま観客の一部が取り囲んでいた。馬皇達は運よく隙間を見つけてそこから立ってみる。
「ここ開いてるぞ」
「あ。本当だ。まーちゃん。楽しみですね」
「演劇は初めてか?」
「はい」
たまたま近くに居た女が由愛たちを見て話しかける。女は一言で言うとかっこいい系の美人であった。由愛が答えると女は笑った。
「そうか。ここの劇は国が支援してくれてな。無料で見られるから存分に楽しんだらいい」
「そうなんですか?」
「ああ。世界中を回っていろんな演目の劇をして回る自慢の劇団だ」
「お詳しいんですね」
嬉々として答える女に馬皇がたずねると女は苦笑する。
「ふっ。それはそうだろう。この劇団のリーダーをしているサリーだ」
「わわっ。すみません。私は山田 由愛って言います」
「俺は馬「まーちゃんです」俺のセリフ……」
さすがに目の前でこれから劇をする一団のリーダーという自己紹介に由愛が慌てる。馬皇も由愛に合わせて自己紹介しようとするがそれにかぶせる形で由愛が勝手に紹介する。
「ははは。仲が良いんだね。それに、名前からすると東方国出身かい?」
「あの、えっと……その」
「違います。先祖がそうなだけで田舎の方から来たんだ」
サリーのセリフに由愛はどう説明すればいいか混乱して馬皇が即答する。サリーは気にした様子もなく話馬皇に話しかける。
「ふむ。という事は説明に困ってああなっていると?」
「あ~。そんな感じです。ところで、舞台裏とかにいなくていいんですか?」
「私は裏方で交渉とスケジュール管理が仕事だから本番中は仕事がないんだよ。かといって1人で離れるのもなんだかね。こうやって劇の出来を見るんだよ」
「へぇ。大変なんすね」
「ふふ。楽しい仕事だから大変ではないよ。おっと。そろそろ始まるよ。まだ混乱している娘は放っておくのかい?」
馬皇とサリーが世間話を一旦終えると未だに1人で混乱している由愛を落ち着かせるために話しかける。
「あわ。あわわわ」
「ほら。由愛。そろそろ始まるぞ」
「っは。そうです」
ようやく落ち着いたのか由愛は正気に戻ると劇の幕が上がる。
「あ。始まりました」
「楽しんでくれるとうれしいな」
~~
劇の幕が上がると最初は王城らしき背景と共にイスに座った王様とそれに相対する形で膝をついていた姫との会話から始まった。
「お父様。もはや一刻の猶予もございません。国の騎士たちはやられ魔物の被害は増える一方。勇者召喚の儀を実行させてください」
「むぅ。もうそれしか手がないか。だが、違う世界の人間に国の事を任せるの云うのは……」
「確かにこの世界の事は我々が解決しなければならない事でしょう。ですが、このままでは国どころか世界の危機です」
姫様の言葉に王様は嫌そうにするその葛藤をセリフにしながら最後には決断する。
「分かった。勇者召喚の儀を行う」
王様がそう言うと場面は変わり召喚陣の前で姫が呪文を口にすると魔法陣から勇者が現れた。
「傲慢な願いかもしれんが我が国を救ってくれ」
「分かった」
そう言って勇者に懇願すると勇者はうなずき協力することをなる。その過程で最初に姫様と共に旅に出る。その度の最中で森で食料が尽きて倒れていた女魔法使いと出会いその恩を返すために女魔法使いも旅に同行する。そして、戦闘狂の男の戦士と出会う。戦士との戦いの最中に魔物の群れが街に襲い掛かる。戦闘途中であった戦士と勇者は戦いながらも魔物たちを減らしていき最後は四天王である魔族に対して戦士と勇者が共闘して勝利する。
また、場面は変わりエルフの少女弓使いと出会う。森の中の世界樹を狙う魔王の魔の手から世界樹を守るために最初は警戒しながらもお互いに戦っている内に絆を深めて2人目の四天王に勝利する。
そんな出会いと別れを繰り返して一向はとうとう泉の塔へと到着する。塔の内部はダンジョンになっておりそこの4つの間にて勇者たちが戦った四天王の2人と戦い、残りの四天王であるドラゴンと魔族に関しては戦士とエルフの少女がそれぞれ残り勇者たちに先に行かせる。
こうして勇者は魔王と対峙した。
「ようやく来たのね。勇者よ。ここまで来た褒美だ。私はマオ。この塔の主だ」
「俺はリョーマ。最初に聞きたいことがある」
「いいわ。話しなさい」
「なぜお前は魔物を使って人間を襲う?」
勇者はたずねる。魔王はそれに対して心底嫌そうな顔をする。
「そんなの決まっているわ。私は世界中の魔法の知識が欲しい。それだけよ」
「それだけなのか?」
「ええ。そのために魔物たちや下僕には魔道書や触媒を集めてもらってるわ」
「それだけのために何もしていない人間の街やエルフの村を襲ってるのか?」
「それの何がおかしいの?」
魔王は疑問にも思わないのか頭をかしげる。それに勇者が剣を向ける。
「ああ。だから、ここでお前を倒す」
「力はあるようだけど。返り討ちよ」
魔王は杖を構える。勇者が近づこうとすると魔王は魔法を放つ。その魔法を勇者は剣で切り裂く。そして、それらが何度か繰り返されると勇者が魔王に止めを刺した。
「っく。油断したわ」
心臓を貫かれて瀕死の状態でも魔王は倒れずに立ち続ける。しかし、瀕死は瀕死。これ以上は動くことが出来ないのか悔しそうに言った。
「俺の勝ちだ」
「そうね。私の負けよ。でも、いずれ蘇る。その時は覚悟しなさい」
「それでも俺が勝つさ」
「ふん。それまで私に負けるなんてことは許さないんだからね」
「はん。また出てきても返り討ちだ」
「ふふふ。楽しみにしてるわ」
そう言って勇者にそう言うと魔王は消えた。戦いに勝利した勇者に仲間たちが集まった所で幕が下りる。
~~
「あの? これって多分真央さんの……」
演劇が終わると由愛が周りから聞こえないくらいの小さい声で馬皇にたずねる。
「多分な。名前からしてそうだろうよ」
「ですよね」
内緒話をしていた2人にサリーがたずねる。
「うん? どうかしたのかい?」
「いえ。何でもないです」
「そうかい? それでどうだった?」
「面白かったですよ」
「そういって貰えると嬉しいな」
サリーが嬉しそうに笑う。そして、公演が終わってから劇に出ていた1人が手を振っていた。
「あの? 後ろでこっちに手を振ってる方がいるんですがサリーさんに用事があるのでは?」
由愛の指摘で後ろを振り返るとサリーが気付いたのを理解したのか口パクで何かを言っている。それを見てサリーは理解したのか申し訳なさそうに馬皇たちに言った。
「おっと。教えてくれてありがとうね。それじゃあ、私は行くわ」
「はい。それでは」
両手を合わせて謝ってからその場から離れる。サリーを見送った後に散策を再開しようと由愛が言った。
「それじゃあ行きましょうか。まーちゃんの服探しに」
「……そうだな」
再開されるであろう服探しに嫌な顔を隠さない馬皇。馬皇を連れて歩いて行くと由愛が先に歩きはじめるとすぐに誰かにぶつかった。
「あう」
由愛はそのまま転びそうになりと馬皇が慌てて手を引く。幸い転ぶことなく馬皇を支えにして立ち上がる。
「大丈夫か?」
「あ。はい。大丈夫です。こちらこそすみませ……あれ? 佐藤君?」
「げっ‼ 幸太郎」
「」
ぶつかった相手が心配そうに言うとお互いに顔を見る。相手は幸太郎だった。その横には同い年ぐらいで無表情な女の子が幸太郎の腕に抱き着いていた。
演劇の描写を端折るにしてももっといい方法はないだろうかと思いつつも更新しました。




