15話
お帰り&歓迎会から一夜明けて朝も中ごろ。昨夜のパーティーはいつの間にか飲み物の中に酒が混入して一部が酔っ払い混沌とした状態で主犯が鉄に怒られたことを除いて盛り上がった。一部の者は酒に酔ったために会場となった大広間で未だ転がっており、それ以外の者は各々に活動を開始していた。
そんな中で馬皇は由愛と共に街に繰り出していた。なぜか馬皇は女の子になった状態で。服装はこの街でも違和感のないワンピースである。前にも同じようなカワイイ系の服を着せられたが今回も違和感しかないのかスカートを手でもってひらひらさせる。
「なぁ? 何で俺はこの格好で由愛と街を歩いてるんだ?」
「馬皇ちゃん。駄目ですよ。今は女の子なんですから私です」
いつの間にか馬皇が気付いた時には由愛と真央の手によってこの姿になっていた。そして、由愛に抵抗する間もなく着替えされられた。幸い、クラスのメンバーは買い出しやら冒険者としての途中になっている依頼の片付けやらで馬皇と由愛は他のメンバーに今の所は出会うという事はなかったのだが。
「あいつとサライラは?」
「真央さんは馬皇ちゃんの服装を見て満足した状態で「準備があるんだ」って言って一旦泉の塔に戻りましたよ。終わったら真央さんが迎えに来るそうです。サライラさんはまだ眠ってました。起こしたんですけど眠気の方が強かったのかそのまま二度寝してます」
「あぁ。サライラはたまにあるんだよ。だから、あまり気にしなくてもいいぞ」
サライラがたまにものすごく眠くて起きない日があるのを知っているのか馬皇は納得する。
「そうなんですか。それと鉄先生と親部さんはこの世界の道具が気になってるのか、他の生徒の方々と一緒に街に出てます」
「出来ればそれにばったりと出くわしたくないな」
「えぇ。今の馬皇ちゃんかわいいから問題ないですよ」
「由愛は気にならなくても俺が気にするんだよ」
もったいないと言う風な声を上げる由愛に馬皇は抗議する。ただでさえこんな状態で知り合いと会うのはごめんなのは当然であろう。
「そう言えばいつまでも馬皇ちゃんじゃ良くありませんね。そうだ‼ この状態の時にはまーちゃんで行きましょう」
「すごく嫌なんだが」
由愛の提案に嫌な顔を隠さずに言うと由愛は少し残念そうに言った。
「まーちゃん。いいと思うんですが……。じゃあ、真央さんと同じですが、まおちゃんとか」
「……まーちゃんでいい」
「やったぁ」
真央と同じ呼びの名前になりそうになってそちらの方が嫌なのか馬皇は渋々まーちゃん呼びを受け入れる。それに由愛が喜び馬皇に抱き着く。
「それで? 今日はどこに行くんだ?」
「予定はありませんよ? なので適当に見て周りましょう」
「なら、元の姿に戻ってからでも良くないか?」
「ダメです。最近まーちゃんの状態で外出することが無かったじゃないですか。だから、今日はこれで」
特定の時にだけものすごく頑固になる由愛である。1度言い出したら変える気はないのか由愛は抱きかかえたまま近くの道の隅へ寄る。
「後はまーちゃんの服探しです」
「俺の服はいいから由愛の服を探さないか? ってか俺の分とかいらないだろ」
由愛に言葉に振りほどこうとするがなぜか振りほどけない。しっかりと密着した状態のまま由愛は話を続ける。
「そんな訳ないですよ。真央さんと泉の塔でいろいろと決めしましたし資金もケイスケさんから貰ってるから大丈夫です。だから、しっかり決めましょうね」
「……おう」
由愛のいい笑顔に馬皇は諦めた表情でうなずいた。由愛が手を握って馬皇を引っ張る。
「こっちです。今日は市をやってるそうなので、そこから見て周りましょう」
由愛がそう言うと馬皇の手を握った。馬皇も逃げられない事を悟ると、由愛の跡を着いて行くように朝の活気あふれる街の中を歩きはじめる。露店を冷やかしながらいろいろと店を見て周る。そんな中で冒険者らしき中年に声を掛けられた。
「おう。嬢ちゃんたち。この果物とかどうだい?」
青いリンゴのような形の実を手に持った露店の中年は馬皇たちが足を止めたのに気を良くして買わないかとたずねる。
「これってどんな果物なんだ? 後、俺はお嬢ちゃんじゃねぇ」
「ははははは。嬢ちゃんは知らないか。これはンガっていうんだ。喰ってみな」
そう言って露店の男がリンゴそっくりの実を腰のナイフを使って器用に切り分けて2切れ差し出す。
「いいんですか?」
「おう。喰ってみたらうまさが分かるだろ? そんでうまけりゃ買ってくれりゃいいさ」
自信があるのか笑顔でそう言うと恐る恐る馬皇たちは口に入れる。
「それなら。頂きます」
「おう」
口に入れると甘酸っぱい味と歯切れの良い感触が馬皇たちを襲う。リンゴと言うよりも甘いいちごに近い味の果汁が口いっぱいに広がる。
「おいしいです」
由愛が感想を言うと馬皇が言った。
「なら追加で買っていくか?」
「そうですね。真央さんとサライラさんの分は買って行きましょう」
「分かった。おっちゃんこれを後、5つくれ」
「OK。5つで値段は半銅貨5枚だ」
言われた通りに由愛が袋から銅貨を1枚取り出す。
この世界の貨幣の価値は上から金貨、半金貨、銀貨、半銀貨、銅貨、半銅貨、銭貨となっている。そして、半銅貨10枚で銅貨1枚の価値であり、銭貨に関しては半銅貨1枚で銭貨が10枚と大体10枚で1つ上の硬貨と同じ価値である。半銅貨1枚でパンが1つ買える程度の価値である。宿を借りて1日暮らす程度であれば半銀貨1枚あれば充分な金額であるのがこの世界の金の価値である。
「これで」
「あいよ。なら半銅貨5枚返すぜ」
「それとこの街でおすすめの場所とかってないですか?」
由愛がお釣りを受け取るとたずねる。
「それだったら大通りの広場に言ってみな。芸人たちの芸が見れるぜ」
露店の男が笑顔でそう言うと由愛と馬皇は目を見合わせてうなずく。
「そうですか。ありがとうございます」
「いいってことよ。観光だろうからこれを機に思いっきりこの王都を楽しんでくるといい」
「はい。まーちゃん。行きましょう」
由愛が明るくうなずく。そして、馬皇の手を引っ張って大通りに向かい始める。そして、直後に由愛が転ぶ。
「おっと。大丈夫か」
馬皇は転びそうになった由愛の手をうまく引いて抱き寄せる。馬皇が抱きかかえる形で由愛を受け止める。馬皇の頭と由愛の頭があと少しで接触するくらいの近さで馬皇がたずねると由愛は顔を赤くする。
「はふぅ。だ、大丈夫です」
「街の中って言っても人通りが多いからな。気を付けろよ」
「は、はひ」
馬皇と抱き合う形である事に気が付いて由愛は慌てて離れる。
「まぁ、怪我が無くてよかった」
「むぅ。そうですね」
先程の状態に何も思っていないのか馬皇は純粋に由愛に怪我がない事に安心するがそれに少し納得がいかないのか由愛の頬がふくれる。
「どうかしたか?」
「何でもないです」
いかにも何かありますと言った様子で不機嫌な様子の由愛であるが馬皇は気づいていない様子である。それに由愛はさらに不機嫌になる。
「?そうか。なら行くか」
「そうですね。どうかしたんですか?」
馬皇は由愛に手を差し出す。
「ほら。また、つまずいたら大変だろ? だから、また手をつなぐぞ」
「はい」
馬皇がそう言うと由愛は笑顔で馬皇の手をつないで歩き出した。
本格的に機関の準備が整うまで街の散策編。次回は幸太郎とその恋人のアーシャと出くわす予定。




