13話
王都に入国から
洋介たちが召喚された国フィルガリデ王国の中心部。王都リョーマ。その関門で真央が最後に入国の手続きを行っていた。
「書類に不備はないな。目的は観光と」
門番の男が書類を確認するとあっさりと机の上に置いてある手のひらサイズの宝玉を目の前に置く。
「後は犯罪歴だがこれに手を乗せてくれ。それで大きな犯罪をしてないか調べる」
「分かりました」
素直に宝玉の上に手を乗せると宝玉は白い光を放つ。
「問題ないな。一応言っておくが、国内で犯罪なんかをしたらこの国の法に則って裁かせてもらうからな」
「ええ。分かってるわ」
「それならよし。入国料は銅貨3枚だ」
真央が腰の袋から銅貨を3枚取り出すと門番に渡す。
「OKだ。ようこそ。王都リョーマへ。このまままっすぐ行けば街に入れる」
「分かったわ。ありがとう」
真央は門番に礼を言うとそのまま真っ直ぐに歩いて行く。そして、中に入るとそこは活気にあふれていた。
「思ったよりも活気にあふれているわね。それとあいつは……と。いた」
街の道の隅で馬皇たちを発見する。
「おまたせ」
「おう。何事もなく入れたみたいだな」
先に入っていた洋介が代表して言った。
「ええ。ただ、入国の時に思ったけど高性能な魔道具を使ってるのね」
「ああ。ああいうのがあるのは行っとくがここだけだぞ。ここが勇者由来の地であると同時に魔法の先進国だからな」
洋介が自慢げに答える。それに対して今まで口を閉じていた幸太郎が喋った。
「おい。ここで喋るのもいいがホームに戻るんだろ」
「おっと。そうだった。もう連絡入れてるし早く戻ってやんないとな。着いて来てくれ」
すっかり忘れていたのか幸太郎の言葉に洋介は歩きはじめる。
「ホーム?」
洋介たちの言っていることが理解できずに真央がたずねる。
「召喚された後に俺らが集まれる場所を確保してるんだ。そこを拠点にしてる」
「ああ。それでホームね」
「おう。クラス全員で寝泊まりしても問題ない大きさの家を国から貰ったんだ」
「そう言う事」
真央は洋介の説明に納得すると亜紀が補足する。
「とは言っても半分近くは帰る方法とか探したり冒険そのものを楽しんでるから滅多に全員そろわないんだけどね」
「そうそう。後、部屋は男女別々よ。恋人同士は別だけど」
「そこまでは聞いてないんだけど?」
珠子が亜紀の説明をさらに付け足す。余計な情報に真央は呆れ気味に答える。
「まあまあ。とりあえずはみなさんが無事ってことですよね?」
「ええ」
そんなこんなで由愛がきれいにまとめると待機している鉄が言った。
「ふむ。それならよかった。巻き込まれたのが生徒だけだったから無事なのはうれしく思う」
「だな」
鉄の言葉に親部も同意する。そのまま案内されるがままに街の人通りの少ない場所を進んでいく。話すことが無くなりしばらく歩き続けると街のにぎやかな雰囲気とは対照的に貴族が住むような屋敷が増えていく。
「なぁ? 本当にこっちでいいのか?」
人通りが少ないとはいえ明らかに場違いな感じの街並みに馬皇はたずねる。
「おう。間違いないぜ」
「それにしても貴族とかが住みそうな屋敷しか見なくなるわね」
「ああ。ここらは貴族様の居住区だからな」
「どうしてそんな所に住んでるのよ?」
「貴族様から屋敷を貰ったんだ」
「それはどうして?」
「ああ。実験のためと言っても俺らは異世界からやってきてるだろ。この国のある貴族様が俺らの知識を得るために1回強引に手を出してきてな。未遂かつ対処できたから良かったがさすがにそれを見かねた俺らの支援をしてくれている貴族様がここを用意してくれたんだ。さすがにその貴族様たちの屋敷が軒を連ねているこの場所で相手も堂々と手を出してこれないしな」
「それはまた……」
馬皇はその話に少しうさんくさそうな顔をする。
「あ。信じてないな。この国の魔法に対する執着はすごいがさすがにそこまで非人道的じゃないぞ。魔法を悪用すれば他の国よりも罰は厳しいし、そもそも生物を生贄にするとかそう言う系統の魔法は基本的に禁止だからな。だから、俺らの待遇も異世界からの賓客扱いでそれなりに自由にさせてもらってる」
「聞いている限りは思ったよりもまともですわね」
「そうね。ただそういう裏にはかなりえげつない実験をしたりするのが相場よねぇ」
「まあ、確かに過去に人をゾンビに変える魔法の実験をしようとした奴もいるから否定できないが、それでもこの国の人たちにはかなり良くしてもらってるからあまりそう言うこと言わないでくれるか?」
「それは悪かったわね。確かに実際に会って話をしてみないと人となりなんて分からないわね」
真央の言葉に洋介がたしなめると真央は素直に謝った。
「まぁな。全員が全員善人って訳じゃないからな。っと見えて来たぞ」
しばらく、道沿いに歩くと遠目からでもかなり大きな屋敷が見えてくる。それに由愛が動揺したような声を出す。
「え? あの? お、お屋敷大きくないですか? それに何と言うか……とても何かが出そうです」
「そうか?」
由愛の言葉に何でもない風に洋介が答える。
「あれには人払いの結界が貼ってあるの。だから、知っている人以外には近づきがたい雰囲気を放ってるのよ」
「そうなんですか?」
「そうなのか?」
由愛とそこに住んでいるはずの洋介が同時に言った。それに対して真央は洋介の様子にため息をつく。
「はぁ。住む場所なんだからそれなりに知ってなさいよ」
「いや、詳しい奴がいるからそいつに任せてるんだ。ただ、重度の魔法バカでな。魔法を習得してからこの屋敷の設備の魔法の話を永遠と聞かされて途中から耳に入ってこなくてな」
「へぇ。それはすごく話が合いそうね」
真央が笑みを浮かべると鉄が話に割って入る。
「……話し合うのはいいがそれで本来の目的を忘れるなよ」
「そんなの分かってるわ。ただの好奇心よ」
ふて腐れた様に真央がそっぽを向く。そうこうしている間に門の前に到着する。
「さて、ここが今俺らが活動拠点にしている屋敷だ。ちょっと待ってろ。もしもし。俺だ。田中洋介だ。連れて来たぞ」
洋介がそう言うと誰も居ないはずの門が開く。魔力だけで動いているのを見て真央は感心する。
「すごいわね。さっきの無属性の魔法でしょ。魔力を手の代わりにして動かしたのね。半年ぐらいでここまで出来るようになるのはかなり才能あるわよ」
「すごいな。そんなことも分かるのか」
「当然でしょ。周辺に魔道具を使った形跡はないし念話の後から魔力塊が扉を押しあけたら誰でも分かるわよ」
「いや。そう言われても分からないからな」
「そう?」
「それはともかく中に入るぞ」
洋介の言葉に真央は若干不機嫌そうな顔をするがそれを無視して洋介が先に入って行くと続くように馬皇たちも足を踏み入れた。




