11話
「……ねぇ? ふざけてんの?」
無駄にきれいに土下座を決めた小太郎に真央は口元を引きつらせる。冷ややかな視線が小太郎に送られるがそれを無視して小太郎は頭を上げる。
「ふざけてないぜ。このまま負けを認めれば無理に戦わなくても済むだろ。それに勝てる気がしねぇ。もし戦うことになるなら逃げた方がましだ」
小太郎はニヤリとする。真央は小太郎の言葉にうなずいた。
「そうね。確かに降参したあなたはこのまま戦わなくてもいいわ。でも、敗者には罰ゲームが必要ね」
「はい?」
真央は小太郎に笑いかける。それに今度は小太郎が顔を引きつらせて思わず聞き返す。
「罰よ。罰。最初から降参するような敗者は潔く受け入れなさい。拒否は認めないわ」
「あ~。出来ればそれなりに優しくしてくれると」
「戦いに甘い話がある訳ないでしょ」
「ですよねぇ」
「まぁいいわ。その行動に免じて動きを封じる罰だけにしたあげるわ。正座」
「うぉ‼ っ‼ 動けねぇ‼」
真央がそう言うと小太郎の体が浮き上がる。小太郎はいきなりの浮遊感に慌てるが抵抗空しく正座の姿勢を取らされると馬皇たちのいる場所に置かれる。
「あのぉ。真央さんここ地面なんですが?」
小太郎も抵抗して姿勢を崩そうとするが微塵も動かない。星座の姿勢のまま地べたに放置される。
「ええ。その方が罰になるでしょ。さて、続きをしましょうか。戦う気がない内ならあそこに居るのと同じようにしばらくああしてもらうけどどうする?」
真央がそう言うと洋介たちは構える。
「さすがにあの状態は勘弁だな。盗賊とか魔物とかとの戦いを経験しているのにあんなことするとは思わなかった。ついでに言うと身内としては恥ずかしい」
「そう? 私はあれも1つの手段だと思うけど?」
「なら、これもう少し緩めてくれません? 全く動けないんですけど」
「いやよ。しばらくその状態でいなさい」
真央がそう言うと小太郎が交渉しようとするがそれを拒否する。話が終わると洋介がたずねる。
「もういいか?」
「ええ。時間かけたわね。少し興が削がれたから私の下僕が相手してあげるわ。来なさい。ケ――。って‼ こら‼ 今いい所なんだから大人しくしてなさい‼」
真央は下僕を召喚する魔法陣を即座に作り出す。注がれた余剰魔力が周囲を吹き飛ばそうとする。それに対して洋介たちが踏ん張り何とか飛ばされずに済んで目を開けるとそこにはチワワが後ろ足で体を掻いていた。
「チワワ?」
呼び出そうとしていた者の魔力のすさまじさに警戒していたらチワワが出てきて洋介たちは戸惑う。
「それが……相手か?」
洋介は一応剣を構えたまま戸惑い気味に真央にたずねる。真央はチワワを見て肩を落とす。チワワは洋介たちを無視して真央の方を向くと甘えた声で吠える。
「キャン」
「はぁ。もう。コア。餌もお散歩も時間はまだでしょ」
真央は座り込むと言い聞かせるようにコアに言うとうるんだ瞳で甘えた声を出す。
「くぅん」
「くっ‼ そんな眼で見つめないでよ」
「ワン」
「……わかった。でも、今は戦いの最中だから後でね。とりあえずあそこに由愛とかいるから行ってなさい」
「ワン」
「コアちゃん。こっちですよ」
真央が支持するとコアは理解しているのかそのまま走る。由愛がコアを呼ぶが無視してまっすぐに小太郎の膝の上にダイブ。由愛が呼び続けるが小太郎の膝の上が気に入ったのか動こうとしない。
「あの? のいてくれるとうれしいんだが」
「ぐるるる。キャンキャン」
「あ。いえ。何でもありません」
小太郎は膝の上にいるコアに話掛ける。コアは小太郎の正面に向いて吠えると何も言えなくり低姿勢な物腰を見せる小太郎。
一方で真央は無言で何事もなかったかのようにもう一体召喚する。それは先程のチワワとは違い人間ぐらいなら一飲みできるサイズのケロベロスが召喚される。
「さぁ。来なさい」
「……ねぇ。チワワは飼ってるの?」
そんな中で亜紀が真央にたずねる。真央は場違いな質問に真央は無表情のままさっき召喚した自分のペットの名前を告げる。
「ええ。うちのペットでコアっていうの」
「後でコアちゃんと遊んでも?」
「無茶はしないでね。あれは一応普通の犬だから叩く力はないわよ」
「分かった」
「あ。私もいい?」
亜紀の言葉に便乗して珠子もたずねる。
「ええい‼ 今は戦う直前でしょうが‼ 後で好きなだけ戯れればいいじゃない‼ 始めなさいよ‼」
小太郎の初っ端の降参に加えて亜紀の場違いの質問。いつまで経っても始まらない戦いに真央がとうとう切れる。
「いや。だって……なぁ」
「まぁなぁ」
まともに喋っていなかった洋介と幸太郎が真央のツッコミに対して微妙そうな顔をして小太郎を見る。そして、次に小太郎の膝を陣取っているチワワのコアを見ると小太郎の上で気持ち良さ気にあくびをしていた。それを見て真央も冷静になったのか謝る。
「……悪かったわね。私もあそこで割り込んでくるとは思わなかったのよ」
「いや。真面目に戦おうとしている所にあいつに好きにさせた俺らが悪かった」
どちらがどちらも微妙な雰囲気の中で謝るとさらに微妙な雰囲気になる。そして、真央はやってられなくなったのか構えを解いて叫んだ。
「ああぁぁぁ‼ もう‼ 止め止め‼ こんな状態でまともに戦いになる訳ないじゃない‼」
「だよな」
さすがにこんな状態で緊張感が続くかと言われればノーである。真央は集中力が切れたのかケロベロスをすぐに送還。魔族の姿からいつもの人間の姿になると言った。
「まさかここまで変なことになるとは思わなかったわ」
「俺らもだよ」
「本当は戦いの後で言うつもりだったけど、さすがにクラスの人間全員を帰すとなるとそれなりに時間が掛かるからあんたたちにも手伝ってもらうわよ」
「それは構わねぇ。帰れるなら、なるべく全員でって決めてるからな。それにある程度のメンバーの位置は把握してるぜ」
「そう。それならよろしく頼むわ」
戦いはうやむやになるが召喚されたクラスの所在が見つかり帰還への道のりが一歩進むのであった。




