10話
「準備はいいかしら?」
青空の広がる第1の間の荒野の中。真央は仁王立ちで洋介たちの方を向いて相対すると言った。
「俺はいつでも行けるぞ」
「あんたは後よ。今は洋介たちに聞いているの。終わるまで鉄先生たちにさっきの戦いのアドバイスでも貰ってなさい」
真央の言葉に馬皇が屈伸をしながら即座に答える。それに対して真央は違うと馬皇に言い放つ。馬皇はやる気に満ちた様子から肩透かしを食らって少し残念そうにする。
「なんだ。今から戦るんじゃないのかよ。鉄先生今から大丈夫ですか?」
「それは構わんがいいのか? 私としてはこの戦いに関しては不要だと思うんだが」
馬皇は鉄に先程の戦いの総評を聞く。鉄は少し困惑したまま馬皇にたずねた。
「それに関しては知りませんよ。でもあいつが必要だと思ってるから構えてるんだと思います」
「ふっ。そうか。なら少し離れるぞ。先に行ってろ」
「うす。サライラと由愛も離れるぞ」
「はい」
「はい。お父様」
真央に対する信頼ともとれる馬皇の言葉に鉄も軽く笑うと馬皇に指示を出す。馬皇は真央の邪魔にならないように由愛とサライラを連れて移動を開始する。
「戦いの見届け人として俺が残ろう」
「頼む」
馬皇たちが移動を始めて親部がそう言うと鉄は短くそれだけ言ってすぐに消える。そんな中で突然の馬皇たちのやり取りに着いて行けず洋介たちが困惑したまま立っていた。
「訳が分かんねぇ」
(我が知るか)
「知るかよ」
「私も知らないわよ」
「気が付いたらこうなってたわね」
「俺が分かる訳ないだろ」
洋介の問いに対して知らないの一点張りで答える他のメンバー。話が終わってから少ししてからの出来事である。真央が頭の中で洋介たちの話からある程度の予定を予定を立てると馬皇と目を合わせる。それだけで意思疎通ができるのかお互いにうなずくと説明もなしに全員を洋介たちと出会った第1の間に転移した。そして、真央の言葉から始まり今に至る。
「どうしたの? 戦わないの?」
真央が未だに構えない洋介たちを見て頭をかしげる。
「いや、なんで戦うことになってんだよ?」
「勇者召喚されたんだから魔王が歓迎するのは当然でしょ?」
何を当たり前の事を? とばかりに洋介たちの疑問に答える真央。それに対して更に困惑を深める洋介たち。
「何を言ってるんだ? 魔王なんてどこにもいないじゃないか」
「む。失礼な奴ね。ここに居るじゃない。あ。そうか。この姿じゃ分からないわよね」
そう言って真央は前世の魔族としての姿に変わる。それに合わせて魔法陣が現れて真央を通り抜ける。通り抜けると戦闘用のドレスに変わる。
「なっ‼ 魔族‼ どういうことだよ‼」
「鑑定 。どういうことなの? 魔族になってる……」
「騙されてたのか?」
「それならあそこに居る馬皇たちも?」
亜紀が真央の姿が変わったのを見て種族を確認するが真央の今の種族は魔族であった。そのことにいろいろな憶測が飛び交うが洋介たちもさすがに武器を取る。
「何を言ってるの? 私が元々この世界の魔王だっただけよ。あいつらはあんたらの知ってる人物そのものだし。私もこの世界じゃ過去の人だしね」
「分かんねぇ。ならどうして俺らの前でその姿になる?」
幸太郎が疑問を口に出す。それに真央が即答する。
「そんなの決まってるでしょ。ほぼ放棄しているとはいえこの塔自体は私の物。そこに侵入してきたんだから誰であっても1度は私と戦ってもらうのがこの塔のルールよ」
「それは変えられないのか?」
「この世界の英知である魔法と魔道具、それにそれの作り方が記されている本。悪用して自滅するのは構わないんだけどその被害が私たちに来ても困るもの。だから、防犯のために作ったの。だから、このルールは変えられないわ。滞在するなら戦いなさい」
「分かった」
真央の言葉に小太郎が同意した。
「あら? やけに素直ね?」
「自分の物を取られないようにするのは当たり前だ。それとそれらは盗んだわけじゃないんだよな?」
小太郎の最初の同意に真央はニヤリと笑う。そして、それに続く言葉に心外だと言う様子で怒った。
「分かってくれるのはうれしいわ。それから何言ってるのよ。当り前じゃない。基本的に塔内で作り上げた物とこの塔に挑んでくる魔法使いたちから研究した物よ。他は正々堂々と戦争して勝ち取ったり交渉して譲り受けたり購入したりして長い時間かけて集め続けて発展させ続けた代物で盗みなんて無粋なことはしないわ。後、今回に関しては勝ち負けにはこだわらないわ。全力を見せて頂戴」
「そうか。分かった。みんな。俺に任せろ」
小太郎が一番最初に一歩踏み出して短剣を構える。
「お、おい? 大丈夫なのか?」
自信満々な小太郎に洋介が戸惑う。さすがに今の状態を見ても集団でならまだしも1人で小太郎が勝てそうな見込みなどないように見える。
「問題ない。俺に策あり、だ」
戸惑う洋介たちに小太郎は自信に満ちた顔でそう言うと真央は不満そうな顔をする。
「あら。私は全員で同時に出来て欲しいのだけれど?」
「はっ。今回の戦いは俺だけで充分だ」
「威勢がいいわね」
「ああ。それが俺だからな」
「そう。いつでもいいわよ」
小太郎が構えると真央は手を使って誘う。
「それじゃあ。行くぜ」
小太郎と真央の間に緊張感が漂う。小太郎が何をしてきてもいいように真央は警戒しながら出方をうかがう。そして小太郎が言葉と同時に動く。
「まいりましたぁ‼」
小太郎がそう言うと前に飛びかかるふりをして小太郎は後ろに飛びのいた。そして、見事な後ろジャンピング土下座を繰り出して盛大に降参した。
なんでここまで来て戦いから初手降参書いてんだろ。自分は。なんだかんだで50万字突破。うれしい。
という訳で更新しました。




