9話
泉の塔玉座の間。馬皇たちは洋介たちを連れて玉座の間に戻って来るとその場にはあの後で予め連絡を入れておいた真央と由愛が出迎えた。
「おかえり。まさかこんな相手の方から来るとは思わなかったわ」
「おかえりなさい。それと亜紀ちゃん。珠子ちゃん。無事でよかったぁ」
由愛は感極まってクラスの友人である亜紀と珠子を同時にしがみつく。そして、安堵のせいなのか目には涙を浮かべて再会を喜ぶ。
「わっ、と。由愛いきなり抱き着いて来たらさすがに驚くわ。それにこういうのは不謹慎かもしれないけど巻き込まれなくて良かったわ」
「う、うぅ。ごめ゛んなざいぃぃぃ」
亜紀がいきなり抱き着いてきた由愛を注意すると由愛は素直に謝る。しかし、まだ涙は収まってないのか声が濁っているのが見て取れる。
「おー。よしよし。まさかここまで探しに来るとは私たちも思ってなかったけどね。あー。こうなると由愛、ちょっと長いから先に話進めておいて」
「おう。分かった」
珠子は洋介たちにそう言うと由愛をなだめるのに集中する。洋介たちももう警戒はしていないのか鉄たちの方を向くと話を始める。
「すいません。もう話しても大丈夫です」
洋介が話を切り出した。
「うちの由愛がごめんなさいね」
真央は未だに泣いている由愛を見ながら少し申し訳なさそうに言った。それの様子に洋介は気にしていないという風になだめる。
「ああ。いや。あそこまでではないけどやっぱ俺らも馬皇ともう一度会えるのはうれしいからなしかたねぇよ」
「そういって貰えると助かるわ。それで? 恐らく召喚されて戦力になれとか言われたんでしょうけど、あの後何があったか話してくれる?」
真央が話を切り出すと洋介は話し始めた。
「もちろんだ。詳しいことは俺らも理解してないから説明しようがないんだけど召喚陣から呼び出された。それはお前らも現場にいたから分かってるよな」
「ああ」
「ええ。その痕跡からここまで来たんだからある程度はあの召喚もどういうものか理解しているわ」
「なんでわかんだよ。って‼ 今はその話じゃないな。召喚された俺たちのいた場所は貴族の屋敷の地下だった。そこで過去に消失した勇者召喚の魔法の実験で呼ばれたそうだ」
「まぁ、そんな所でしょうね。あそこまで不安定な術式で成功したこと自体奇跡に近いのに」
「そうなのか? 確かに今まで成功したことないとは聞いたが?」
「実験って言ってる時点でそういうもんよ。下手しなくても普通だったら死んでるわよ。もしくは何かしらの影響は免れないわね。何事もなくうまくここに来れた事を幸運に思いなさい」
「まじかよ」
真央の言葉に洋介が驚き呆然と呟く。それを聞いていた幸太郎と小太郎は絶句する。
「まぁ、それは終わった話。続きを」
「そうだった。召喚された後は今いる国の人に助けられてな。その後、色々とあったがある程度の金と安全を保障するとか言ってたから世話になる事に決めた」
「それで?」
「言われた通り実際に国がある程度の生活を保障してくれてな。元の世界に戻る方法を本とか古い遺跡を調べて周るんだけど魔王の配下とか言う奴が1度魔物を大量に引き連れて攻めてきたんだ」
洋介の魔王と言う単語に真央と馬皇の体が反応するがすぐに抑えると洋介たちは気が付いていないのか話を続ける。
「その時に戦ったんだがいいように遊ばれてな。その最中でリルの力を完全に引き出せるようになって何とか撃退したんだ」
「よく無事だったな」
「俺らもそう思うぜ。あれは映画の見せ場レベルのワンシーンだったもんな」
「馬皇も話を逸らさない。それでその後は?」
「その後で国がもしかしたら魔族が帰還の方法を知っているかもしれないって言ったんだ。魔族が長生きなのは世界共通だからな。だが、肝心の魔族は数も少ない。その上、そういうのを知ってそうな奴に限って人間とは敵対的でどいつもこいつも強いって話を聞いた。あの時襲撃をかけてきた奴はどこぞの魔族の国の幹部だけども国の戦力を総動員してギリギリ被害が出なかっただけでそうなると生き残るために国の騎士とか宮廷魔法使い、有名な冒険者に基礎を教えてもらいながら4か月。なんとか及第点を貰ってから魔王の配下を名乗る魔族がまた攻めてきたんだ。その過程で世界を超えて魔王が世界を乗っ取ろうと画策していることを聞いたんだ」
「ううん? 話が大きくなってきたわね」
真央は想定よりも話が大きくなってきてこめかみをつねる。
「その後は何とか配下を倒したんだ。その後でクラスの1人が王城の図書館から過去の魔王と勇者の本を見つけてな。その中の1人に勇者と魔法使いの少女が元の世界に戻ったっていう話で……」
「っ‼ っげほっっ」
馬皇が勇者と魔法使いの話を聞いてむせる。馬皇がサライラと一緒に最近聞かされた両親ののろけ話を思い出す。その時には魔王を倒した後に自分が帰還の魔法を作って他の女に取られないように勇者である父親が帰還するついでに世界を超えて1人勝ちしたという話である。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない。普通にむせただけだ」
そんな話を知る由もない洋介はいきなりむせた馬皇を不審な目で見るが偶然だという言葉がすぐに返って来て気のせいかと思い直して話を戻す。
「まぁ、そんな話があったらもしかしたら世界のどこかに戻れる可能性があると踏んで冒険者になった。そんな中で今回の依頼はその話の中に過去に死んだ魔王の側近だった最強の魔族ケイスケ・シンシにそっくりな魔族が活発に活動しているっていう情報を得てな。物語の中では対価を払えばあらゆる魔法を与える魔王の側近。もしかしたらと思ってな」
「それでここまで来たら俺と鉄先生が戦ってたと?」
「ああ。さすがにあそこまででたらめではないけどそれなり俺らも強くなったからな」
馬皇がたずねると洋介が力こぶを作りながら答える。それなりに自身があるのか洋介のうなずきの後ろで幸太郎と小太郎がうなずく。
「俺と洋介が前衛で小太郎がシーフ。魔法職と遊撃が女子2人で中々バランスがいいんだぜ」
「そう。そして、宿屋の看板娘のアーシャちゃんに惚れて告白したら成功したリア充でもある。マジで爆発しねぇかな。いや、俺が爆発させてやる」
「そういや、お前確か爆発系の魔法を覚えようとしてたな。もうできるのか? やるなよ。絶対にやるんじゃねえぞ」
「それはやれっていう事か? くそっ‼ 何で俺はまだ習得していないんだ‼ ちっくしょぉぉぉ」
幸太郎がメンバーについて説明すると恨めしそうな顔して小太郎が雄たけびを上げる。習得できていないことにほっとする幸太郎。そんないつものやり取りに洋介苦笑してから馬皇にたずねた。
「とまぁ。そんな感じで今に至るって訳だ。そっちはどうなんだよ?」
「こっちは置いてけぼり喰らって見つけた世界がここだっただけだな。この世界は真央の方が因縁があるのと魔物や変異種が現れ始めた原因の1つがここと1度つながったことくらいだな。その関係で真央が見つけ出してここに来たんだ。大したことはねぇよ」
馬皇は大したことが無いように簡単に説明する。その説明に洋介は訝しげに馬皇に言った。
「……どうしてそれだけであっさりこっちにこれんだよとか、元の世界で何が有ったんだよとか、真田さんの因縁って何? とかいろいろ突っ込みきれないんだが」
「別に大したことじゃねぇよ。それよりも話ありがとな」
「気にすんな。帰還の目途が立つだけでも大きいしな」
「そうだな。それとこれからについては今から予定を立てるとして、だ。無事でよかった」
「おう」
「だな」
「お前もな」
馬皇の言葉に洋介たちはうなずいた。
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どうすれば面白い話が書けるのかととまどう今日この頃




