3話
夜10時。馬皇と真央は帰宅後、連絡を取り合って大馬中学校の屋上に来ていた。
「来たわね。見られてないわよね?」
「ああ。さすがにそんなへまはしない」
「それで? 鉄先生は?」
上空から侵入してから外からは見られないように屋上の陰になっている所へ移動すると真央はたずねる。
「先生は「来れない。屋上のカギは開けておく」だってさ」
「そう。なら2人で行くわよ。へましないでよ」
「おう」
鉄が来られないことを伝えると真央は短くうなずく。真央は念のために監視カメラに映らないように警戒しながら一定の空間を景色と同化する魔法を使って馬皇と自分を包み込んだ。
「これで監視カメラとかには映らないはずよ」
「鉄先生に許可貰ってるし問題ないと思うんだが?」
「それはそれ。これはこれよ。それを証明できる鉄先生がいないんだから警戒するに越した事はないわ」
馬皇の楽観的な言葉に真央は呆れた様子で答える。真央の答えに馬皇はうなずいた。
「それもそうだな。それに何かワクワクしてきた」
「そうね。実は私もこんな形で夜の学校に侵入するのはわくわくしてるわ。なんでかしらね?」
「あれじゃないか? 普段駄目だって言われてる事をするスリルを味わってるとか」
「それだ」
お互いに言い合って馬皇の言い分に納得する。禁止されていることをする背徳的なスリルと夜のテンションが真央たちを活発にさせる。
「とりあえず行くわよ。離れずに着いてきなさい」
「おう」
馬皇たちは屋上の扉を開けて慎重に閉める。誰も居ない。普通に閉めても問題ない状況であるがなるべく音をたてないように気を使って閉める馬皇の姿に真央は呆れる。
「普通に閉めても問題ないわよ。一定の範囲であれば音も漏れないわ」
真央の言葉に馬皇は頭の後ろをかいた。
「いや。分かってはいるんだけどな。つい、な……。分かるだろ?」
「っく‼ 悔しいけど確かに大丈夫だって分かっててもこういう時ってそっとってなるわね」
馬皇の言葉に真央が同意する。馬皇も真央が悔しそうに同意する姿にうなずいてから言った。
「だろ? そう言う訳だから気にしないでくれ」
「ええ。先に進むわよ」
そう言って階段を下りていく。階段の扉の開け閉め以外は会話もなくあっという間に廊下をわたって教室の前に到着した。
「着いたわね」
「着いたな」
教室を開けようとするが鍵がかかっていて教室には入れなかった。
「……鍵閉まってるじゃない‼」
「俺に任せろ」
馬皇は鍵穴に指を近づけると魔力を鍵穴に注ぐ。そして、そのまま手を捻って1回転させると何事もなかったかのように教室の扉が開く音がした。
「泥棒みたいね。なんで知ってんのよ?」
「あん? 過去で必要があったから覚えたんだよ」
「鍵開けが必要になった過去ってなによ?」
「……それよりも痕跡探さなくていいのか?」
真央は馬皇がなぜ鍵開けの魔法を覚えているのかが気になるのか疑わしげな眼で睨みつけながらも本題の生徒たちが消えた原因を探すために魔法陣を描く。
「ううん?」
1分ほど魔法陣を起動させたまま目を閉じて集中していると何か引っかかるような悩ましげな声を上げてから目を開けた。
「どうした?」
「世界を渡った痕跡を見つけたわ。多分召喚系ね。それも一方通行」
「どこに行ったか分かるのか?」
「待って。……駄目だわ。途中で途切れてる」
「どこ行ったのか分からないのか……。って途中で途切れてるって大丈夫なのかよ‼」
馬皇は真央の言葉に顔をしかめると真央の言葉に慌てる。
「それは大丈夫みたいよ。途切れ方が特徴的だもの。例えるならボロボロの橋を渡った後に橋が崩れ落ちた感じだから。渡るのには成功してるみたい」
「そうか」
真央の例えを理解して馬皇はほっと息を吐いた。馬皇の親友たちである洋介たちも巻き込まれているのだ。日中は突然の出来事でそこまで頭が回っていなかったが世界の狭間に投げ出されたり変な場所に投げ出されたりする可能性があった。そのため召喚には成功しているという事であれば、ひとまず生き物のいる場所に呼び出されている事が確定する。それが良いか悪いかで言えば召喚されたこと自体がもちろん悪いし、悪意を持って接する場合もあるがとりあえずは生きている可能性が高い。
「ざっと見た感じこの術式は初めて見るけど雑で非効率的な術式ね。召喚した者を強化するみたいだけどかなり強引な手段みたい。出来ても魔力を滅茶苦茶使って私でも10年近く永遠と動かずに魔力を注ぎ続けないとダメってどんだけよ。おかげで連続使用はできないのはありがたいわ。それと隷属はないからひとまずは安心ね」
「そんなことまで分かるのか?」
明らかに初見と言っているのに残滓だけでここまで読み取る真央。それに対して馬王は素直に感嘆する。
「こんなのは知識と経験よ。数こなせば誰でも出来るわ。ただ、肝心のどこに行ったのかまでは分からないけどね」
真央は簡単そうに言う。もちろん並大抵の事ではない。それこそ1つの世界の魔法をまるまる理解したうえで転生して異世界の知識を得て新しい魔法陣や術式を作り出すという普通であれば絶対にない事を経験しなければ出来ない事である。
「うーん。それだと完全に手詰まりだな」
「そんなの分かってるわよ」
馬皇が手詰まりと言うと真央は不満そうに返す。文字通り手詰まりであった。途切れた痕跡の跡から行った先を見つけるのは宇宙空間に適当に石ころを投げて10年間放っておいてから探せと言われるくらいムチャ振りである。
「それならどうするって話だけどせめて何か情報があればなぁ」
「そんなのあれば苦労しないわよ」
「だよなぁ」
「真央様。お耳に入れたい情報がございます」
突然の背後からの声に馬皇たちは警戒する。しかし、すぐに警戒を解いた。
「‼ ってケイスケか。いきなり後ろから現れないでちょうだい」
「急ぎでしたので」
ケイスケはうやうやしく真央の前でお辞儀をする。真央が呼び出したわけではないのにこことリーングランデを行き来していることには真央はツッコまない。
「で? 何の用? 今はちょっと忙しいんだけど」
「いえ。どうにもリーングランデで異世界人が召喚されたという噂がありましてお耳に入れていただければと」
「……詳しく教えてちょうだい」
いきなりのピンポイントな情報に真央はいぶかしげにたずねた。
「いつものように真央様がいつでも帰って来てもいいように魔道書とか魔道具とかの収集を続けていた時に魔道具屋の店主からそんなうわさを聞きました」
「怪しいわね」
「実際に見たわけではございませんが転移の際に妙な違和感を覚えたので間違いないかと」
「ある。と分かっていれば探している価値はありそうね」
ケイスケの言葉を信じて真央はリーングランデとこの世界の召喚の残滓を探す。すると途切れていた残滓と同じような痕跡を見つけることに成功した。
「ビンゴ‼ ケイスケ‼ よくやったわ‼」
「ま、真央様‼ こ、これは‼ う、うおぉぉぉ‼」
大当たりを引けた真央は喜びのあまりケイスケに抱き着く。いきなり抱きつかれたケイスケも最初は驚くがすぐに至近距離に真央がいて、その柔らかさに興奮し顔を真っ赤にしながら奇声を上げて気絶した。その様子のケイスケを見て馬皇はドン引きする。真央は気が付いていない様で気絶したケイスケに抱き着いたままくるくる回る。
「お、おい。真央。ケイスケ気絶してるぞ」
馬皇はためらい気味に真央に言った。馬皇の指摘でようやく気が付いたのか気絶しているケイスケに気が付く。
「え? ちょっと? どうしたの? ケイスケ? ケイスケ?」
喜びのあまり白目で気絶したケイスケを見て至福の顔で気絶しているケイスケ。それを揺すって起こそうとする真央。
「話が進まねぇ」
そんな茶番の様子を眺めながら蚊帳の外になりかけている馬皇は頭を抱える。真央は馬皇の言葉に自分のしでかした事に気が付くと。ケイスケを床に叩きつける。
「っは‼ なんだか最高に幸せだった気がする」
「気のせいよ。それよりもでかしたわケイスケ」
「ははぁ。もったいなきお言葉」
ケイスケ気絶から目を覚ます。冷たい床に寝かされていたためか体が痛くてケイスケは体をほぐす。真央は何事もなかったかのように振る舞いケイスケに言った。ただ、さっきの事が恥ずかしかったのかいつの間にか距離を取っていた。そして、顔も赤かった。
「それよりも場所は分かったんだろ? すぐに行くのか?」
「そんな訳ないでしょ。鉄先生には報告よ。それといいこと思いついたの」
「いいこと?」
「私たちでリーングランデに行くのよ」
真央は笑みを浮かべてそう言った。
※学校に不法侵入。良い子はマネしないでね




