30話
「我が混乱している最中に結界が貼られていたが中では何があったのだ?」
馬皇がイシュララを見送りしばらくすると何かが砕ける音がする。2人の逢瀬を邪魔されたくなかったのかイシュララがユメリアの混乱している最中にはったものである。
「なんでもない」
「そうか。確か、馬皇は転生したと言っていたな。彼女はそのとき妻だ、とも。という事はつまりあれなのか」
ユメリアは馬皇とイシュララのやり取りを想像して顔を赤くする。
「どんな想像してんだ」
「気になる。すごく気になるのだが? それで? したのか? ん? ん?」
ユメリアも年相応の女の子なのか馬皇にしつこくたずねる。馬皇は嫌そうな顔をして扉の方を向く。
「ぜってぇ教えねぇ。それよりもセバスに会いに行くぞ」
「むぅ」
それ以上は言うことが無いのか馬皇はさっさと部屋の扉を開ける。その様子にユメリアはむくれるが諦めたのか渋々馬皇に着いていく。扉を開けた先にはセバスが立っていた。
「お待ちしておりました。こちらでございます」
「準備良すぎだろ」
「それが執事のお仕事ですから」
そう答えるとセバスは先頭に立ち案内を始める。廊下を渡り階段まで歩く。階段から下へ向かって降りていくと広い空間に出る。
「ここが神殺しの槍があった場所でございます」
「何もないぞ」
ユメリアがそう言うと辺りを見回す。魔法陣が敷かれその中心には何かが刺さっていたと思われる穴のある台座だけだった。馬皇たちはその様子に困惑する。
「さようでございます。これ単体では意味をなしません。そして、それは武器にも言える事です」
「武器自体は地上にあったという事か?」
馬皇はセバスの言いたいことに察しがつく。馬皇の解答にセバスが驚く。
「そうでございます。その武器の本来の形は槍の形をしていますが持ち主の相性に合わせて多様な形へ変化を遂げるため今はどんな形をしているのか見当が付きません」
「ちなみに変わったままの武器をあそこに刺したらどうなるんだ?」
「一時的に元の姿に戻り本来の力を取り戻します」
「だ、そうだが? ユメリアは心当たりがないか?」
「ないな」
「自信満々に言うなよ」
腰に手を当てて即答するユメリアに呆れた様子で馬皇が額に手を当てる。セバスは何かを思い出したかのようにユメリアにたずねた。
「そう言えば貴女様は初代建国王にそっくりです。王族のゆかりの方ではございませんか?」
「確かに我は王族だが……。初代様は女性なのか‼」
「はい。私も直接お会いしましたしご本人はかなり自由奔放なお方でした」
「なんだと‼ なら我の知っている資料や歴史は……」
ユメリアはセバスの言葉に驚きを隠せないのか体が震える。
「どうかしたのか?」
「あ、ああ。すまない。我が教わった時には初代様。この国の建国王は男性だと教わっていた。だが、彼の話が本当なら我々の国の歴史が違っていたことになる。こらは大事件だぞ‼」
「だが、今はそれどころじゃないよな。というかそれが目的じゃないだろ」
「うぐっ‼」
建国王の話に興味があるが今はそれどころではない事を馬皇に指摘されてユメリアの言葉が詰まる。
「興味がおありでしたら地上の騒乱が終わりましたらまたこちらへいらしてください。私はこの屋敷とこの世界の光源の管理がございますので大体はここにます」
「ぜひ」
セバスの提案にユメリアが即答してセバスの手を握り勢いよく振る。その様子に馬皇は話を戻す。
「それでセバスは何か思い当たることがあるのか」
「そうですね。王族という事は恐らく代々引き継がれている武器もしくはそれに準ずる物が継承されているはずです」
「だ?そうだが? ユメリアは?」
「……」
セバスに促され馬皇がたずねるとユメリアはセバスの手を放して顎に手を当てる。しばらく無言のままその状態が続く。
「…………」
「………………」
「……………………。あ」
ようやく何か思い至ったのかユメリアは袖に手を入れて薙刀を取り出した。
「それか? 部屋に置いてた奴だろ? それ?」
「恐らくこれだろう。我も忘れておったがこれはこの国の家宝の一つで持ち手に合わせて形状を変える。父上が使っていた時は確か刀だったが、我がこれを受け継いだときに薙刀になったとクリスが言っていた」
「おい」
重要なことを今思い出したとばかりに言うユメリア。馬皇はそんな様子のユメリアを睨む。ユメリアはその視線に体を震わせる。
「うっ。この武器の継承は物心がついて直ぐだったはずだ。それに話を聞いたのはかなり昔の一度だけだ。そんなものすぐに思い出せるわけないだろ」
言い訳じみたユメリアの答えに馬皇はため息をつく。静かにたたずんでいるセバスに馬皇は聞いた。
「まぁいい。ならこれがその武器でいいのか?」
「はい。さようでございます」
セバスが即答すると馬皇はさらにたずねる。
「ホントかよ。それとそれは俺でも――」
「無理です。さすがに奥様の知人であろうともあれを使えるのはあの国の当主だけです。私はこの城ひいてはこの国の出来た当初からお仕えさせて頂いている身ですが建国王以外でこの力を使えた方はいません」
「俺が質問する前に答えるなよ……」
「これは失礼。そして、いま目の前にいる方なら問題なく扱えるでしょう」
セバスは綺麗なお辞儀をする。そして、ユメリアをちらりと見ると馬皇に目線を戻して答える。
「そうかよ。代償とかはないよな」
「使用の際の魔力消費が桁違いですがこの祭壇はその問題を解消します。ここではこの世界の光源を維持のためのエネルギーが集まる場所ですので」
「ここが魔力をチャージするバッテリーの役割をしているのか」
「その例えはいいですね。そうです。ここは神殺しの起動するための場所であります」
「神殺しが起動したとして気を付けることはあるか?」
今度はユメリアがたずねる。セバスは淡々とした様子で答える。
「使い方については祭壇に刺したときに流れ込んできますので問題ありません。それと一度のチャージで行える攻撃は一度だけです。もう一度しようと思ったらもう一度ここに訪れる必要があります。そして何よりも大変なのは再使用には100年かかります」
「責任重大だな」
ユメリアはそういうと笑った。そこには緊張した様子で薙刀を見る。
「ならユメリアが確実に当てれるようにしないといけないのか。……行けるか?」
「行くしかないだろう。サポートしてくれるんだろう?」
「任せろ」
馬皇が力強く答えるとユメリアは一歩踏み出す。そして、薙刀を祭壇の穴に突き刺した。
「うわっ」
ユメリアは制御できないレベルの力が薙刀に集まってくるのを感じた。薙刀は魔力を吸収して薙刀の方に光が収束する。本来の姿である槍の形を取り戻していく。
それは飾り気のない槍であった。短槍と呼ばれる程度である。しかし、見る者を圧迫するような金色の存在感があった。
「これは……すごいな」
槍が内包する魔力の量と力にユメリアはつぶやく。やがて、力を収束し終えると薙刀であった時の半分くらいの槍となってユメリアはそれを掴んだ。槍を掴むと光は霧散して全体が白い短槍が姿を現す。
「終わったぞ」
あっさりとその槍を引き抜くとユメリアは馬皇たちの元へと戻る。
「よし。なら行くぞ」
作業を終えたユメリアを連れてこの場を後にしようとする馬皇。その様子にセバスが待ったの声をかける。
「お待ちください」
「なんだ? 下ではまだ戦ってるんだが?」
「お急ぎでしたら私にお任せください」
セバスがそう言うと魔力を何もない空間に注ぎ穴を開ける。
「この道をお通り下さい」
いきなりつくられた空間の穴を見て馬皇はいぶかしげな表情を見せる。
「かなり不安定だが本当に大丈夫なのか?」
「そう見えるだけでございます。あなた方が通り抜けるまでは絶対に消えませんのでご安心を」
「信じていいんだな」
「もちろんでござます」
馬皇はセバスを見るとセバスは穏やかな顔で答える。馬皇はそれを疑うが見た目とは裏腹にセバスは確固たる意志で答える。それを見た馬皇はうなずいた。
「そうか。世話になる」
「私どもの助けはここまでですがご武運をお祈りいたします。そして、またのご来訪を。旦那様」
「ああ。行ってくる。ユメリアしっかり捕まってろよ。後、槍は話すなよ。走り抜ける」
馬皇はユメリアを抱きかかえるとユメリア突然の事に慌て始める。
「え? ちょっと‼ なんでお姫様抱っこ‼」
馬皇はそう言うとユメリアを抱えると穴の中に飛び込んだ。
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