覚悟
少し変更した部分があるため前の話とつながらない所が出てくるかもしれませんが直しているので温かい目でお願いします。
方向が変な所へ加速する。
夜から深夜に入ろうかとしている時間帯。馬皇と鉄の2人は大葉大学の裏側に来ていた。大学の裏側は山になっており馬皇たちは車から降りて歩いて大学の近く。裏山と学校にはフェンスが張っており境界線を作っている。さらに侵入者対策のためか隙間が出来ないように並べられたカメラが見えている。2人はカメラから見えないように少し離れた位置を陣取って馬皇は鉄に小声でたずねた。
「鉄先生。ほんとにここであってるんすか?」
本当にここが正しいのかそんな思いに駆られる馬皇。どこをどう見ても普通の大学にしか見えない。その様子に同じように声を小さくして答えた。
「ああ。俺が拾ってきた情報ではここで間違いない」
「そうですか。それでどうやって入るんですか?」
未だに半信半疑な様子な馬皇に鉄は言った。
「俺を信じろ。今回は不法侵入する訳だが、こういう事には慣れている」
「おおっ」
自信満々に鉄は答える。その様子に馬皇は期待した眼で鉄を見る。
「なに。作戦は簡単だ。私は暴れている間にお前は真田や誘拐された生徒たちを探してくれ。一応、先に仲間が潜入しているから出会ったら頼ればいい」
鉄の言葉に馬皇は困惑する。力技だった。どう考えても力技で強引に侵入するとしか聞こえなかった。
「あの……困難で本当に大丈夫なんすか? 確かにわかりやすいですけど……。それと俺、先生の知り合いを知らないんですけど」
馬皇は鉄の言葉にきっちりと返す。
「大丈夫だ。問題ない。うちの校長だ」
自信満々に答える鉄に、馬皇は思わず口に出てしまった。
「うちの学校は本当にに大丈夫か? それよりも先生。駄目だ。成功する未来が見えない」
「大丈夫だ。この方法で失敗したことはない」
清々しい笑顔で答えてから鉄は力強く踏み込んだ。人体が出せる域の速度をすぐさまに超えてフェンスに会い辺りを敢行する。フェンスはその威力に耐えきれず吹き飛んで近くを監視していたであろうカメラごと吹き飛ばした。
「鉄先生……。マジで何者だよ」
呆然と呟いた。そこには大きな穴の開いたフェンスの後と壊れた監視カメラの残骸が横たわるだけだった。
「そうだ。行かないと」
作戦にもなっていない作戦目的を思いだし頬を叩いて馬皇も気合を入れる。ここからは敵地だ。何が起こるか分からない。そう言い聞かせて馬皇は走り出した。
鉄の走った後の惨状を目の当たりにしながらたくさんの人が死屍累々の坩堝と化していた。よく見ると銃を持って明らかに堅気ではない存在がまでもが倒れている。何よりもすごいのは誰も死んでいないことだろう。強い衝撃に耐えきれずに一様に気絶していた。しかも、丁寧にカメラも全て破壊している。
「うっ」
とある場所を通り抜けようとすると肉が焼けたような臭いがした。吐しゃ物や血の鉄の錆びたような臭い。銃を撃った後の硝煙の臭い。あらゆる臭いが混ざりあっている。普段よりもその臭いが馬皇の鼻を刺激する。そして臭いによる気持ち悪さと共に馬皇の気分は何故か高揚していく。そんな鋭敏になった感覚から吐きたいという気持ちと戦いたいという気持ちがせめぎ合うが必死に抑えて真央や友人を探すことに専念する。もし立ち止まれば恰好の的だ。そうならないために馬皇は見つからないように動き回る。銃声が飛び交う音から何かに衝突した音、終いには叫び声まで聞こえる。
「だれかあれを止めろ‼」
「無理だろ‼ こっちはサブマシンガン撃ち続けてんだぞ‼ 確かに当たってるのに銃弾が通ってる気配すらしねえ‼ やべぇこっち来た‼」
「ありえねえだろ‼ 夢なら覚めてくれよ‼」
「あれは人間か? どう見たって違う何かにしか見えないだろがっ‼」
「はははははは‼」
「勝てる気がしねえ‼ 車用意しろ‼ 奴にぶつけるんだ‼」
カオスだった。しばらくすると音が聞こえなくなり、また何かにぶつかった音がして戦闘音が続く。そして、また声が聞こえなくなっていく。
「気になってしょうがない」
馬皇は鉄が何をしているのか気になった。想像はつく。だが実際に見て見たさもある。馬皇は頭を振ってその誘惑を断ち切る。優先することは別だ。そう言い聞かせて近くの施設を探る。しかし、戦闘が発生しているためかそこには誰もいなかった。別の施設を出ようとすると正面からアサルトライフルを抱えた見知った人が銃口をこちらに向けて警告してきた。
「止まれ。負毛馬皇」
名前を呼ばれ馬皇は止まって警戒する。
「どういうことですか? 校長先生」
辺りの警戒を緩めずに馬皇から銃口を外して校長は見た目通りの渋い声で言った。馬皇がたずねると校長が言った。
「この辺りにカメラでお前をとらえたからやってきた。お前のことは鉄先生から聞いた。私についてきなさい」
鉄のことを聞いて馬皇は一息ついた。その瞬間、校長のアサルトライフルの銃口が火を吹いた。馬皇のすぐ横をかすめて後ろの方で何かが倒れる音がした。馬皇は硬直する。
「油断するなっ‼」
「はっ、はい‼」
校長が後ろに潜んでいた敵を撃ったことに気づいてここが敵地だということを再確認する。死んではいないのだろう。校長は両手足と武器を撃っていた。そんな思いと同時に下手すると自分も死んでいた可能性があると思うと自然に言葉が出た。
「校長。ありがとうございました」
「感謝はいらん。制圧に必要だからやっているだけだ。すでにここら一帯は既に調べ終えている。実験室にうちの生徒を見つけた。実験室はこっちだ」
そう言って校長は歩き出した。それに、馬皇もついていく。歩きながら俺は真央たちを助けることが出来るのだろうか? 馬皇の頭に不安がちらつく。そんな迷いを察したのか校長は馬皇に銃口を向けた。
「迷いがあるならついてくるな。足手まといだ」
馬皇は正直まだ迷っていた。これがわがままだと理解している。恐怖もある。いくら戦いに明け暮れた前世の記憶が蘇ったといっても所詮は記憶。恐怖がない訳がない。そしてこうも考えていた。考えるのも後悔するのも後だ。俺は助けたい。洋介たちを。敵同士であるが俺に付き添ってくれた真央の顔を思い浮かべると腹を決めたのか馬皇は一歩を踏み出した。
馬皇は校長に近づく。そんな馬皇に校長は躊躇いなく撃った。馬皇は動きを止めない。その弾は馬皇の頬を掠り通り過ぎていく。馬皇の後ろから襲撃しようとした相手に弾は当たった。
馬皇と校長はお互いに見合い馬皇の覚悟が伝わったのかは分からないがそのまま校長の元へたどり着くと校長は向きを変え何も言わず歩き出した。無言のままであるが校長は手でついてこいと振り返らずにジェスチャーをする。それに馬皇は無言で着いて行く。こうして2人は真央がいるであろう実験室のある棟に足を踏み入れた。
そして、どこに収束するのか?




