22話
「すまないな。地下のあれがいつ上りきるか分からない今、時間をかけた」
「……。すみません」
ひとしきり泣いたクリスと目の前で受け止めたユメリアがそう言うとサライラが涙を流しながら答える。
「ぐすっ。気にしないでください」
「なんでサライラも泣いてんだよ。こいつが言った通り気にすんなよ。サライラ。ほら」
「だって、だって」
そう言って馬皇は宥めるように頭を軽く叩きながらポケットからティッシュを取り出すとサライラの前に出す。サライラはそれを受け取ると目元をぬぐいながら鼻をかむ。
「ああ。分かったから一旦落ち着こうな」
「はい。お父様」
「お父様?」
「確か中学生だったよな?」
クリスがサライラの言葉を繰り返しユメリアが馬皇の年齢を思い出すように言った。馬皇は少し面倒だと思いながらサライラの泣いている理由を誤魔化す。
「こ、こいつ、忠義をつくす系の話に弱いんだ」
「露骨に誤魔化しに来ましたね」
馬皇の言葉に呆れを含んだ目で見るクリスとユメリア。その様子を静観していた真央が話に割り込む。
「気になるのは分かるけど、今は時間がないわ。話の続きよ」
「そうだな。ユメリアの親父さんが最後に言っていた言葉に心当たりがあるか?」
真央の言葉に乗っかる形で馬皇が言った。
「神殺しをさがせ……。父上はそう言っていたが我には心当たりはない」
言葉を口にするがユメリアには心当たりがないのか少しだけ考えてから口にする。
「なら、お前はどうだ?」
馬皇はクリスの方に聞く。クリスもユメリアと一緒に考え込んでいる。
「少し待ってください。…………。すいません。どこかで聞いた覚えがあるのですがそれが思い出せません」
「手詰まりか……」
割と早い段階で手詰まり感を感じながら馬皇が唸ると唐突に真央が声を上げた。
「あ」
「どうした?」
「そうよ‼ あれだわ‼ サライラ‼ 資料館の‼」
「あれですか? でも、あれはレプリカではありませんでしたっけ?」
「違うわよ‼ 展示品の石碑‼」
「そうですわ‼ 確かにそんなこと書いてましたわ」
「何か分かったのか?」
思い出したかのように声を上げる真央と真央の言葉に反応するサライラ。状況が呑み込めない馬皇が代表して真央にたずねる。
「ええ。資料館で私とサライラがあんたと由愛を置いて見学に言っていたのを覚えてる?」
「ああ。俺自身興味がなかったから気絶した由愛を見てたが由愛そっくりのユメリアの写真に驚いたのは覚えている」
馬皇はあの時のそっくり具合を即座に思い出してそれだけ印象深かったことに苦笑する。
「ええ。実はその展示品の中に石碑があってね。その中に記述にそれっぽいのがあったのよ。あの時は建国の古い話の記述だから大げさに書かれてるって思って軽く読み流してたけど今の状況に近いことが書かれていたわ」
「どんなのだ?」
「たしか……『深き地下より封じし名のなき神が蘇りし時、神を屠りし槍が天上より蘇る』だったはずよ」
「どういう意味だ?」
「私が知る訳ないじゃない。解説には過去にこの国の王が槍を使って神を封印した事しか記述にはなかったわ」
真央が見た記憶を引き出してそう言うと馬皇はまた考え込む。
「だよなぁ」
「あの」
振り出しに戻った感じの雰囲気の中で今度はクリスが声をかける。
「なんだ?」
「真央さんが言っていた事で思い出したのですが、実は地下の封印の間とは別にこの国に聖域と呼ばれるものがあるんです。多分そこにあるのかと」
『聖域?』
クリスの言葉に由愛も含めたその場にいる全員の声が揃った。
「はい。国の言い伝えの一つですが国に災いが起こる時、遥かなる空から聖なる地が姿を現し勇者が災いを晴らすと」
「「勇者……」」
勇者という言葉に微妙な顔をする馬皇と真央。そんな様子にユメリアがたずねた。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
「何でもないわ」
「? そうか?」
馬皇と真央の答えに頭をかしげるがそのやりとりをしている内にクリスが話を続ける。
「もう話してもいいですか。そうですか。先ほどの真央さんの言った事と私の思い出した言い伝えから察することが出来ると思いますが恐らく空です。隠れた所に隠されているのではないか、と」
「でも、ぶっちゃけるけど魔法で私がこの国を一度調べた時には上空には何もなかったわよ」
真央はこの国に来たときに調べた事を伝える。人の考えていることすら調べられる真央のそれを知っているだけにクリスはそれを踏まえて考えていることを口に出す。
「でしょうね。我々も調査や移動のためにこの空と飛ぶための飛行船とかを飛ばしますが何かにぶつかったとか飛行船を見失ったとかの話は一度も聞いたことがありません」
「なら、どういうことよ」
「揺すらないでください。今、考えてますから」
真央が焦れてクリスの肩を掴んで前後に揺する。前後に振られながらも真央を諭す。
「あの? 聖域っていうのは空にあるんですよね?」
由愛がユメリアにそうたずねる。由愛の質問に呆れた様子で答える。
「何を言っておる。そんなの当然に決まって、いる、だ……あああぁぁぁ‼」
「えっ‼ どうしたんです‼」
「うおっ‼ どうした‼」
突然、声を上げるユメリアの方へ向く一同。ユメリアが喜びを表すように由愛の手を掴んでジャンプする。
「由愛。お手柄だ‼ 分かったぞ‼」
「え? 何がですか? え? え?」
状況が呑み込めない由愛と喜んでいるユメリア。対照的な2人に馬皇が止めに入る。
「うれしいのは分かるが説明してくれ。それじゃあ分からん」
「そうだった。そうだった。今、この国いや、世界には聖域はない」
「? それはそうだろう。今までの話を聞く限りじゃ言い伝えばっかだしな」
馬皇がユメリアの言葉に答える。
「違う‼ そうではない‼ この国は何で出来ている?」
「そんなの魔術に決まってるじゃない。確か、地下空洞説を基礎にして中央に時間で変わる光源を作ってあたかも地球の内側に世界がある様に作っているんだったかしら」
「正解だ。そして、この世界でなくてはならないためにこの世界で調べていない場所がある。それは……」
『それは?』
ユメリアが言葉を溜めるとそれにつられて声が重なる。声が重なってからユメリアはある場所へと指を指す。
「月だ」
この世界の中心である上空を照らす月を指さした。
神殺しのフラグ回収。もっと前にも伏線をしっかり入れとけばよかったと思いつつも予定通り書けるのはある種の快感。
それといつも読んで下さってありがとうございます。これからもよろしくお願いします




