21話
まだ、戦闘は終わっていないのですが別の意味でシリアス風味
「なるほど。そんなことがあったのね」
真央たちと合流した後、馬皇たちは燃える城から外にでてこれまでに合った事を互いに伝える。そして、真央は顎に手を当てて深く何かを考え始めると馬皇が話しかける。
「ああ。俺らもお前たちがなんであの場に居たのかも分かった。それよりももう一人いたんだろ? そいつについては知らないのか?」
「さぁ? 城に入ってから1人先に行っちゃったもの。途中でビームみたいなのが飛んで来たし巻き込まれて塵も残ってないんじゃない?」
「失礼な人ですね。私なら生きてますよ」
「わっ。ビックリしたわ」
「うおっ‼」
死んだ扱いされたクリスが真央たちの会話に混ざる。真央は白々しく、馬皇は本当にいきなり後ろから声を掛けられたのに驚く。
「クリス‼ 無事だったのか‼」
「知り合いか?」
「ああ。我の幼馴染で親友だ。ずっと見かけなかったから心配していたんだ」
馬皇の背後にいた少女クリスは姿を現すとユメリアが喜びの声を上げた。そして、真央に対して睨みつけると由愛の方を向く。
「……白々しくするのは止めてください。あなたとは途中で目が合ったでしょう? それと私はあなた方が脱出するときには後ろに居ました。それよりも姫様。よくぞ無事で」
「あ、あの。えっと……」
クリスは由愛の手を取ってそう答える。その様子に由愛が戸惑うとユメリアがその間に割り込む。
「ああ。心配をかけた。が、その子は山田由愛。そっくりであるが我、ユメリア・アマノハラではない」
「なんと‼ 知ってます。姫様がそんなおしとやかな訳ないのは城の者たちの共通の認識ですので」
表情を変えずそう答えると今度はユメリアがむくれる。
「それはそれでなんか腹が立つな」
「ですが、よくぞご無事で」
そう言ってクリスはユメリアに抱きつく。相変わらず覆面越しであるが柔らかい声で宥める。
「それはそうと、囚われた者はどうした?」
「知っているかと思われますが、最後に私が囮となって逃げた方は美味くまきました。見失う様はとても私の心を躍らせました。そして、不意打ちで仕留めてから変装して一度城に戻りました。警備は厳重でしたがなんとか領主様の元には行けましたが領主様に「俺の事はいい。姫様を城に近づけるな」と言う命をいただきました。その後、領主様と連れ去られた娘以外に関してはばれない様に脱出させました」
「そうか。他の者は無事か」
「はい」
クリスはユメリアの言葉にゆっくりと頷く。ユメリアはほっと安堵の息をついた。
「しかし、本題はここからです。姫様の居場所の特定と領主様と姫様そっくりの少女を助けるための情報を得るためにしばらく身を隠していたら中の占拠した者たちが急に殺し合い始めたのです。2日前の出来事でした」
「何?」
クリスは淡々と説明するが本人も分かっていないのか素直に答える。
「正直、何が起こったのか私にも一瞬わかりませんでした。そんなそぶりすら見せない連中がいきなり、だったので」
「その結果があれなのか?」
「そうですね。廊下の死体の山はそこの男性の方の言う通りです。身内同士のはずなのに狂ったように切り合っていたのは私も正気を疑いました」
「その後に姫がいる場所の近くまで俺を誘導したと」
「はい。……気づいてらしたのですか?」
馬皇の問いにうっかりという風な様子であっさりとクリスは答えた。その後にしまったという顔をするが口にしてしまった物は仕方ないと直ぐに思考を切り替えて馬皇にたずねる。
「そりゃな。服まで脱ぐのは予想外だったが、食料と水をカバンに入れたまま服に紛れ込ますなんて事してたらな」
「そう言ってその後にまじまじと女の裸を見てた訳ね。変態……」
「あ? 油断して敵に由愛連れ去られた奴に言われたくねぇな」
「何よ?」
「何だよ? 先に突っかかってきたのはお前だろ?」
いつものやり取りのごとく真央が馬皇に突っかかる。険悪な雰囲気の中で由愛が割り込んだ。
「あの‼ 今はそれどころじゃないです‼」
唐突に大きな声を出して割り込む由愛に馬皇と真央はばつの悪そうな顔をする。
「お、おお。悪い」
「そ、そうね。それどころじゃなかったわね」
「あの? 話を続けていいですか?」
「悪かったわね。続けて」
「それでは……その後はあなた達の話の通りです。真央に捕まり城が燃えていた」
「それに慌てて領主様のいたはずの頂上の方へ向かったって訳ね」
「はい。結局、領主様は見つかりませんでしたが」
真央が慌てていた理由を言い当てるとクリスは大きくうなずいた。
「クリス」
「はい」
ユメリアはクリスの名を呼ぶ。ユメリアの苦しそうな声にクリスは何かを覚悟したかのように答える。
「父上は亡くなった」
「そうですか……」
幼馴染のそれも自分の父親の死。そのことを淡々と伝えるユメリアにクリスは何も言えなくなる。もし、ユメリアと共に行動していたら助けられたかもしれない。もし、あの時に死を覚悟して命令を無視していれば助けられたかもしれない。そんな感情を心の中に押し込めながらクリスはユメリアの言葉を待つ。
「よくやってくれたな」
「え……」
ユメリアはそう言ってクリスを抱きしめた。思っていた言葉とは違う言葉にクリスは戸惑いの声を上げる。
「辛かっただろう。信頼していた父上を助けられなくて」
「はい」
「我も父上が目の前で亡くなったのを見てあれがまだ夢であると思っていた」
「はい」
「でも、それどころではない事態と父上の最後の言葉がそれを否定してくる」
「はい」
「お前のせいではない事なんて分かっている。が、なんで父上を助けられなかったの? と言葉に出してお前に怒鳴りつけたいという感情も確かに存在している」
「はい」
「だが、それ以上にお前は苦しんでいたのだな。こんなにも父上を、我を思っていてくれたのだな」
「……」
「そして父上の最後の命を成し遂げてくれてありがとう」
「……です…が‼」
ユメリアの言葉は支離滅裂だった。思っている事をそのまま言葉にしているユメリアを見て、ユメリアの父親の命令を遂行できなかったことに、幼馴染であり親友であり自分の仕える主人であるユメリアの言葉に介入しようとするが言葉が途中までしか言葉に出ない。
「ありがとう」
「っく……うぐっ……ぐすっ……」
頭を撫でてそう答えるユメリア。そして、その一言に我慢の限界に達したのかクリスが声を押し殺すように泣き崩れる。言葉はなかった。小さな嗚咽だけが聞こえた。
まだ、戦いは終わっていませんがクリスの感情の一区切り。
次回は復活した神(?)との地上での決戦。この章もあと少しです
いつも読んで下さってありがとうございます。これからもよろしくお願いします




