20話
「ごふ」
「父上。仇は取りました」
ユメリアの薙刀が綾高の心臓を貫いた。音を立てて綾高は倒れると血を吐きだしながら笑い始めた。
「ゴホッ。ぐっ。ふははははは。ははははははははははは」
「何がおかしい。それよりもなぜ生きていられる‼」
心臓を貫かれてなお綾高は血を吐きながらも高笑いを始めた。血の気が引いて顔が青いのがよりその笑みを不気味にさせる。その様子を遠目で見ているユメリアは今も倒れたまま高笑いを上げている綾高に構える。
「ああ。おかしいさ。愉快も愉快。ここまで筋書通りとなれば笑いが止まらぬさ」
「ユメリア。離れろ。様子がおかしい」
ユメリアは馬皇の呼びかけに合わせて飛び退く。すると先程ユメリアのいた場所正確には塔の地面からにじみ出るように黒い何かが伸びていた。そして、綾高を見ると黒いもやのようなものがまとわりつく。そして、胸元に小さな穴を開けたまま浮き上がる。
「これを待っていた。みなぎる。漲るぞ。神の力が流れ込んでくる‼」
「っち。いったん離れるぞ。掴まれ」
綾高が高ぶる様子と共に黒いもやに完全に取り込まれる。それと同時に地面が揺れた。馬皇は急いで羽を広げ由愛とユメリアを連れて塔から離れる。
「馬皇‼ 落ちる‼ 落ちる‼」
「ユメリア‼ 少し大人しくしてろ‼」
「馬皇さん‼ 上から‼」
「っち」
由愛の言葉に上を見ると祭壇である塔と共に空間ごと崩れているのか大きな岩が降る。馬皇は抱えたまま速度を上げて逃げ切ると出口の方でいったん止まる。出入口の階段は長い割に狭い。それを考えるととても翼を広げるほどの広さはない。それに加え急いで由愛とユメリアを抱えたためにユメリアが落ちそうだったのもある。
「馬皇さん。あれ……」
由愛たちを抱えようとすると由愛が先程いた場所を指さす。指さした方を見ると塔が傾き倒れる瞬間だった。こちらに向かって塔が傾き倒れる。
「くるぞ‼」
衝撃が来るのに気が付き馬皇は正面に立つ。塔は目の前の門を倒れると同時に押しつぶした。倒れた時の衝撃で土煙が上がり視界をふさぐ。視界が晴れると塔のあった場所からは何かが伸びていた。
「あれは……手?」
ある程度はなれていたために新しく天を指すように伸びたものの正体がわかった。それは巨大な手であった。遠目からでも分かるくらいに浅黒く太い。手は塔を倒すように押しのけると何かが立ち上がるかのように地面に手をついたのが見える。
「やばっ‼」
「なっ‼」
「えっ‼」
馬皇は由愛とユメリアを引き寄せた。急な動作に由愛たちは驚きの声を上げるがすぐに別の事に目が行ってそれどころではなくなる。馬皇たちの階段の斜め上を赤い光が通り過ぎた。轟音と共に熱量によって溶かされてできた穴を見て絶句する。
「大丈夫か?」
「はっ。はい大丈夫です。馬皇さん。ありがとうございます」
「助かったぞ」
馬皇が起き上がり両手を差し出す。とっさにかばった馬皇に感謝すると2人は馬皇の手を取って立ち上がる。
「気にすんな。それよりもまずいな。あんなのが暴れたら戦ってる途中で全員生き埋めだな」
「あれを何とかしなくては我の国が終わってしまうがこの場では戦い所ではない。それよりも倒せるか?」
「正直な話、ここにいる2人と上の国とか地上の方の被害を考えなければ何とかはなる。その後の向こう何千年かが生き物が1匹も住めない不毛の大地になるがな」
「絶対にするなよ」
馬皇の提案にユメリアもさすがに即答した。
「分かってる。だから今は……」
「「逃げるぞ」」
2人は顔を見合わせて頷くと馬皇はユメリアと由愛を肩に担ぐ。その状態でこれから起こる事に察しがついたがこう言わずにはいられなかった。
「えっと……馬皇さん」
「分かっている。由愛よ。今は緊急事態だ」
「優しく、してくださいね」
今にも泣き崩れそうに由愛がそう言うとユメリアが我慢しろという風に諭す。そして、崩れ落ちそうな階段を馬皇が何段も飛ばしながら全速力で駆けあがっていく。その速度と階段を上る時に来る衝撃に肩に担がれた2人は悲鳴を上げる。
「ぐっ。や、はり、しょ、衝撃がぁぁぁ」
「いぃぃぃやぁぁぁ」
階段を駆け抜けている中で少女2人の叫び声が木霊する。それを無視して黙々と走る馬皇。時折、馬皇の走りの衝撃とは別の揺れが由愛たちを襲うが足を踏み外さない様に細心の注意を払う。次第に慣れて来たのか叫び声は無くなるが緊張感のない話をし始める担がれた2人。
「そういえば事態が終われば我自らがこの国を案内してやろう」
「え? いいんですか?」
「なぁに構わん。国の恩人に最大限の礼を持って接するのは当然だ」
「なら、今度、おいしいお菓子の店教えてください」
「よしよし。我1番のおすすめの甘味処に連れて行ってやろう」
「お前、ら。案外余裕だな‼」
馬皇が今も走りながら唐突で取りまとめのない由愛たちの会話にツッコミを入れる。
「そうでもせんと吐きそうだからな」
「はい」
馬皇からは見えないが由愛たちは激しい揺れやら衝撃やらで若干顔が青い。由愛たちの発言に馬皇は別の意味で焦る。
「やめろよ‼ 出るまで我慢しろ‼」
「分かっておる。うぷっ」
「絶対にもたせろぉぉぉぉぉぉ」
「それよりも‼ 下が光ってますぅぅぅ‼」
2人の様子に不安しかない馬皇は叫ぶ。そして、下の方から何かが迫ってくるのを感じて馬皇は速度を上げる。
「うおおおぉぉぉ‼」
「おおぅぁぁぁ‼ 速い速い速いぃぃぃ‼」
「ひぃぃぃ‼ 下から何か来ます‼ 来てますよ‼」
ここに来て速度を上げた馬皇に若干ハイになっているのかテンションのおかしいユメリア。そして、下から光が迫ってきているのを見て焦りながらしきりに報告する由愛。
「マジか‼ って‼ 上に誰かいる‼ おい‼ そこをのけぇ‼」
由愛の報告を聞いてから出入口の方を見ると光の中に人影を見つける。誰かが覗き込んでいるのを見かけて馬皇は退避するように叫ぶ。顔を引っ込めたのを確認すると馬皇は言った。
「出口だ‼ しっかり捕まってろよ」
階段の出口が見えてきて馬皇は2人に伝える。そして、限界まで急加速して階段を飛び出した。
更新しました。12話の真央たちと合流です。
いつも読んでくださいありがとうございます。誤字やおかしい所がありましたら報告して下さるとありがたいです。




