19話
すみませんでした。寝落ちしてしまい更新が遅れました
「幻影剣・天叢雲剣」
煙が晴れると共に現れたのは1本の剣だった。鞘は無く諸刃の剣は地面に突き刺さっている。薄らと黒い刀身が薄らと蒼い光を出して見る者を魅了する。その光に馬皇はその刀を見て顔をしかめる。
「天叢雲? 神話に出てくる剣がなぜおまえの手に」
ユメリアが綾高の言った刀の名を言うと顔を歪めて綾高は答える。
「これは偽物だ。本物などそれこそ見たことあるのは神だけだろうな」
「何が言いたい」
「そう急くな。世界に存在する逸話というのは概念だ。それを抽出しただの剣を神が使ったとされる剣に見立てることで偽物を本物と遜色のない性能を付与することが出来るとあの自称科学者とやらが説明していたな。まあ、そんな御託はどうでもいい。ようはこれは神剣の模造品だが力は本物だという事だ」
綾高がそう言うと剣を掴む。
「ご高説どうも。隙だらけだぞ。綾高の」
剣を掴んだその瞬間狙いを澄ましたように空洞のぎりぎりの上空から地面から精製した岩の塊が大量に降ってくる。塔はびくともしないが岩の落ちる衝撃で地響きが鳴り響いた。
「やったか?」
「お前えげつないな」
ユメリアは塔の上に作った岩の山を見てそう呟く。そんな容赦のない攻撃をした張本人は自身も先程の揺れに耐えられなかったのか馬皇にしがみ付いていたために何とも言い難い状態である。
「あの」
「何だ? 由愛よ」
「その言葉は」
オドオドとした様子で躊躇いがちに言う由愛がまどろっこしくなったのかユメリアは急かして肩を揺らす。
「はっきりと言ってくれ。分からんぞ」
「は、はい。その言葉はフラグです」
「フラグとは? なんだ?」
「えっと。決まり文句みたいな物だそうです。確かこういう場面で『やったか?』って言う時は大体倒せてないって、しょう君が言ってました」
「あいつは姉に何を教えてんだ」
アニメが大好きな由愛の姉弟の長男・山田将太。業の深いネタを姉に仕込んでいる事を知って馬皇は眉間にしわを寄せる。ちなみに馬皇も何度か彼に会っているが毎度アニメのような展開が由愛に襲い掛かるのと馬皇がそれを助け出す流れを知っているがゆえに密かにアニメや漫画で出てくるお約束を姉に吹きこむのを決意したのは2人の知らない所である。
「つまり」
ユメリアが岩の詰まれた山を見た時に変化が起きた。山のように積まれた岩の数々は一瞬だけ漏れた光と共に内側から弾き飛ばされる。馬皇はユメリアを由愛と一緒に背中の方へ追いやると迫ってくる岩を拳で正面から殴り砕いたり蹴り飛ばしていく。岩とは別に出てきた斬撃を馬皇は躱す。躱し切れなかったのか頬が切れる。
「大丈夫か?」
「少し切っただけだ。それよりも出てくるぞ」
ユメリアの心配に馬皇は軽くそう言うと綾高のいた場所を見た。
「いきなり攻撃してくるとはせっかちだな。少しだけ驚いたぞ。領主の娘よ」
「皮肉か? 無傷のくせして」
現れたのは蒼い何かを纏った綾高であった。何事もなかったかのように先程の不意打ちの感想を述べる綾高にユメリアは怪訝な顔をする。
「っふ。素直な感想だ。私でもそうする」
「お前と一緒にされたくないね」
ユメリアが綾高に言葉を返す。ある程度のやり取りを終えてお互いににらみ合ったまま馬皇が小さく口を開いた。
「ちっ。腹が立つな」
「そんなにか?」
馬皇の呟きに聞き取ったユメリアが馬皇にたずねる。
「隙がないのはもちろんだが、あいつの纏ってるのはすげえ嫌な気が漂ってやがる」
馬皇の言葉にユメリアも隙を見せない様に伺いながら綾高を観察する。
「っひ」
そして、オーラを見てユメリアは小さく悲鳴を上げた。そのオーラは苦悶を上げていた。それは人の顔の集合体だった。ユメリアの脳内に城の中で死んだ者たちが頭によぎる。
「何か見えたのか」
馬皇がユメリアがたずねるとユメリアが答える前に綾高が答えた。
「そうだ。これは私が殺した者たちを取り込んだ」
「お前は何を言ってるのか分かってるのか」
「死者の怨嗟はエネルギーとしては極上だからな」
「外道が」
ユメリアが吐き捨てると綾高が顔を歪める。
「隙だらけだぞ」
「危ない‼ 由愛‼」
「えっ?」
目の前に綾高がいるが由愛の背後声が聞こえた。否、綾高が2人いた。声が聞こえてから反応したために振り返ると既に剣は目の前。しかし、それは見えない障壁によって阻まれる。
「何?」
『聞こえてないと思いますが由愛さんには手を出させません』
「ソラスさん」
死者の魂と剣の概念付与の力でブーストした一撃をたやすく弾かれたことに綾高はわずかに顔を変化させると馬皇が横からの一撃を受ける。一撃を受けた方の綾高が消える。そして、気が付くと本体であろう綾高が少し距離を取ったのが分かる。
「分身か?」
「正解だ。今立っているのも分身かもしれないな」
綾高が歪んだ笑みを浮かべると馬皇は背後を見ずに手で何かを受け止める。手に持っていたのはクナイであった。
「っち。油断も隙もねえな。それになかなか隙を作らねぇし分身の方も力が強え。しかも、深追いすれば何かに嵌められる気がする。そんな状態でああも簡単に距離を取られると大きい一撃が入れられねぇ」
馬皇は警戒する場所をさらに広げながら相手の用心深さに面倒臭そうにチャンスをうかがう。ユメリアは綾高に聞かれたりしない程度の大きさで構えを崩さない様に口元を隠して言った。
「それならば我に考えがある。信じてその為に隙を作ってくれないか?」
「行けるんだな?」
「もちろん」
ユメリアは馬皇の言葉に即答する。
「分かった。どっかで隙を作るから止めは任せたぞ」
「ああ。任された」
「ふむ。あの剣か」
由愛に攻撃を防がれたことの考察を終えたのか綾高の不意打ちを防いだソラスの力に綾高は感心したように由愛の手にある剣をまじまじと見る。そして、今度は両手で先程よりも力を込めた一撃を正面から加えようとする。
「何度もさせるか‼」
先程の不意打ちによりも分かりやすく正面から縦に切りかかる綾高。それを見越して馬皇が割り込む。剣に触れるよりも前。剣の間合いよりも内に踏み込む。全身を使って相手の腕の肘辺りを掴んで阻害する。
「ほう。考えたな。剣とつながっている腕を阻害するか。それとここで割り込むという事はこの威力なら突破できるという事か。」
「そんなによそ見していていいのか?」
「何?」
馬皇はソラスの障壁を突破されそうだったことは顔に出さず綾高に言った。綾高はすぐにここから距離を置こうとするが馬皇が掴んで放さない。
「ユメリア‼ 今だ‼」
「任せろ‼ そして、地よ縛れ‼」
馬皇と由愛が直線状にならない真横で準備を終えたユメリアが言葉と共に岩の残りから石で出来た鎖が相手の五体を縛る。そして、ユメリアの足元に五か所。ユメリアは札を敷く。敷き終えるとその中心で薙刀の石突きで地面を叩く。
「ここに集まる陰の力よ。暴れまわるがよい」
ユメリアの言葉を鍵に札が起動する。すると黒い光の粒子が宙を舞い始めた。
「ぐっ。……何をした」
ユメリアの言葉と光に触れたびに何かの衝動を抑える様に体がこわばる。黒い粒子に触れるのに比例して顔色を悪くしていく綾高。
「我は浄化などと言った術式は苦手だ。だから、お前の中の怨霊たちを利用させてもらった」
「……く。そうか。取り込んだ霊を暴走させたのか」
「父上の仇だ」
「こい」
態度を崩さない綾高の胸に深く薙刀は突き刺さった。
ここからが本番




