18話
正確には1つの決着だった。階段の奥には勝利したらしい40代ぐらいの男が刀を手に立っていた。それに相対するかのように階段の近い所には倒れている瞬間だった。刀で切られたのか胸元には大きな傷を作り明らかに致命傷であった。
「父上‼」
ユメリアは駆けだした。倒れ伏した方が父親だった。怪我の状態を見るために仰向けにすると治癒用の札を取り出して魔力を込めて傷口に貼り付ける。しかし、ユメリアの父は弱々しい手つきで札を剥がす。その行動にユメリアは動揺する。
「何をしてらっしゃるのですか‼」
「……よい。致命傷…だ。応急用の治癒符で…は治…らん。それよりも……よく……聞け」
「ですが‼」
かすれた声で自分の状態を理解しているのかユメリアの父はそう答える。
しかし、それが納得できないのかユメリアは涙ながらに父親の血に塗れるのも構わず魔力を込めた札を貼り今度は剥がされないように手で押さえる。最早、手を動かす事がもうできないのか今度はユメリアの行動を止めなかった。
「……バカ者が。お前が…戻って…こな…ければ……国は……滅んでも、血筋…は…残った……という……のに」
「それだったら我はバカ者でいい。父上も我も助かる道を選ぶ‼」
「……神…殺し…をさが…せ。そ…れ…が…かぎ……だ」
「父上‼」
ユメリアの父にユメリアの言葉は届いていないのかそれだけを言うと手を伸ばす。ユメリアの頬に震えた手が触れると優しく撫でる。その手は冷たかった。頭の方から顎の方向に1回だけ撫でると力尽きたのかするりと手は落ちる。ユメリアは叫ぶがその声も届かず反応がなくなる。札により多くの魔力を込めるが余剰の魔力が札から漏れ出す。そして、父親の方に魔力が通らなくなるのを感じてユメリアは呆然とする。その傍らで完全に沈黙したユメリアの父を静観していた男が確認するかのように口を開いた。
「ようやく逝ったか。しぶとい奴め」
「綾高……道神‼」
自分の父親を手に掛けた相手が話しかけてきたことにより呆然としていたユメリアは心の奥底で何かが壊れる感覚が湧きあがっていた。ユメリアは湧き上がった感情のままに敵の名を呼んだ。その様子に軽く笑い声が漏れる。それがユメリアの苛立ちをさらに加速させる。
「ふっ」
「何がおかしい‼」
「ああ。最高の気分だ。領主の娘よ。これで神降臨の儀式は完了だ。無能な領主も最後には私の役に立ったぞ」
「きさまぁぁぁ‼」
激情に流されるままに綾高に向かって吠えるとユメリアは薙刀を袖から取り出して突っ込む。それを少ない動作で綾高は回避する。
「そんな攻撃では私に触れる事すら叶わんよ」
「そこまでにしとけよ」
「ほう。この動きに対応できるとは」
そう言ってユメリアが気付いた時には刀が首元で止まっていた。そして、後ろから声がした。後ろには馬皇が両手を使って刀を止めていた。ユメリアはそのやりとりの間で少しだけ冷静になる。そして、冷や汗が流れる。何が起こったのか分かっていた。綾高が刀を抜いて切り払いを行った。それだけである。しかし、体は全くといっていいほどに動かない。否、動けない。それ故に馬皇が止めなければ首と体がお別れしていた事を悟る。
「それでそこまで挑発するってことはまだ何かあるんだろ? それにその力も」
「さといな。だが、賢いガキは嫌いだな。力に関しては借り物だからだ。そして、この封印の間の祭壇は楔だ。それもじきに解ける。それの解除には王族の血が必要だった。そして、封印が解けたばかりの神はとても空腹だ」
馬皇が刀を掴んだまま話は続く。綾高が刀に力を入れ続けているために放せばユメリアが死ぬ。しかし、ユメリアも動くことが出来なかった。綾高の反対の手には短刀がありそれもユメリアの反対側の首に目がけて向かって来たのをユメリアが薙刀を使って防いでいるからである。一瞬でも気を抜けば吹き飛ばされるか薙刀ごと切られていてもおかしくない力でである。
「まさか」
「そうだ。神にささげるのさ。そのためには大量の魂が必要だった。外部からの提供もあるが都市1つ分の魂があれば満足するだろう。その前の前菜のために城の人間の魂は私の手にある。それだけあればまず活動が出来るようになる。そして、都市の人間を喰らい切ったとき我が悲願の達成の一助となるだろう」
「そのために都市1つ滅んでもか?」
「そうだ。これは復讐なのだ」
「復讐?」
ユメリアの言葉に綾高が反応する。綾高は馬皇に白刃取りされている刀を手放して早々に距離を取った。馬皇は掴んだままの刀を再度使われない様に塔の外に投げ捨てる。ユメリアも落ち着いたのか薙刀を構えたまま綾高の動きを見逃さない様に集中する。
「馬皇。助かったぞ」
「気にすんな。それよりも落ち着いたか?」
ユメリアは相手を見逃さない様に警戒したまま馬皇に感謝する。そして、馬皇の問いにうなずくだけで答える。綾高は少し残念そうに刀を投げ捨てられるのを見ていた。
「あれは私のお気に入りの品なのだがね」
「殺し合いで相手の武器を返す奴がいるかよ」
「それもそうだな。ならば」
短刀で持っていない方の手の指先を少し傷つけて短刀をしまう。そして、太もものポケットから巻物を取り出して広げる。そこには何かの陣が描かれてありその中心を血の付いた手で真っ直ぐ線を引く。
「口寄せ」
言葉と共に煙で視界が奪われた。
15話をほんの少しだけ直しました(書き忘れ)。思い出して書いているため何度も手直して申し訳ないですがこれからもよろしくお願いします。




