17話
遅くなりましたが更新です
馬皇たちが門の中へと足を踏み入れると目の前には柱のような塔があった。周辺には建物は無く塔の異質さを強調する。周りを見渡しても塔には入口はない。門の正面には人が行き来するために調整された階段がありその先には人影がかすかに見えた。
「いた。この建物の頂上だ」
「そうか。行くぞ」
馬皇たちは頂上へと向かって走る。人影は頂上だけで階段には誰も居ない。その人影も追い詰められているのか塔の端で動かない。人影は塔から飛び降りた。そして、その人影が知り合いであることに馬皇は気が付くと飛び出した。
「あれは‼ 先に行くぞ」
「ちょっ」
馬皇は飛び降りた人影と同時にユメリアにそう言うと翼を広げる。あの高さから地面に叩きつけられれば人影に命はない。馬皇は全力で翼を羽ばたかせる。
「間に合えぇぇぇ‼」
今も落下を続ける人影に向かって真っすぐ飛んでいくと地面すれすれの所で何とか人影をキャッチする。
「何してんだ‼ 由愛‼ 危ないだろうが‼」
「あ。馬皇さん」
一度キャッチしてから前で抱きかかえたまま再び空中で静止すると馬皇は飛び降りた人影である由愛を叱りつけた。それとは対称的に由愛は何かを抱きかかえたままのほほんとした受け答えをする。由愛の様子に毒気を抜かれたのか呆れたのか馬皇はため息をついた。
「はぁ。無事で良かった。それにしてもどうしてここにいるんだ? 真央とサライラは?」
「あの、その」
由愛は馬皇の質問にいろいろと言いたいことがあって混乱しているのか言葉が出ない。ゆっくりと飛んで由愛が落ち着くのを待ちながらユメリアの元にたどり着く。そこでユメリアの隣に降ろす。
「ありがとうございます」
「気にすんな。それよりも、だ。いきなり飛び降りたからびっくりするだろうが」
「はぅ。それはそうですが……。その、馬皇さんが助けてくれると信じてたので。実際に助けてくれましたし。この子もそう言ってました」
由愛は恥ずかしそうにそう言うと聞いていた馬皇も恥ずかしくなって顔を赤くして由愛の顔から視線から逃げる。由愛が手に抱えている物を見せるために前に出すとそれにつられて下の方に視線を向けた。
『お久しぶりです。マスター』
由愛が抱きかかえていた物は短剣だった。短剣の刃は分厚く鮮やかな蒼い刀身が目を引く。全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出す短剣の刀身と柄の間には緋色の宝石の装飾が馬皇の持つある剣を尊像させる。
「な‼ 何でお前がここにいるんだ? ソラス」
「あなたの言うマスターって馬皇さんだったんですか」
『はい。由愛様。どうもありがとうございました。マスター。お姉さまはお元気でしょうか?』
由愛に対してソラスは説明もなく浮いて馬皇の周りを飛ぶ。その様子と全く見えてこない状況に馬皇と由愛は困惑する。
「おう。今回は家で待機しているがやかましくしてるぞ。時間が掛かるが召喚するか?」
『そうですか。お元気なら問題ないです。今呼んでも事態をややこしくするだけなので放っておいて大丈夫です』
「分かった。それにしてもなんで由愛と一緒にいたんだ?」
『分かりません。目が覚めたのはつい先ほど。気が付いたらこの方。由愛さんが手に持っていました』
「どういう事なんだ? 由愛」
由愛の方を見て馬皇はたずねる。由愛もよく分かっていないのか頭をかしげて答えた。
「私もなんでこの剣が喋っているのか分からないのですが、この剣はこの国の領主様が私に託して……。そうだ。領主様‼」
「父上がどうかしたのか‼ 我にそっくりな者よ」
由愛の慌て様にユメリアは由愛の肩を掴んで揺する。
「は。はわわわ。はぶ。ゆ、揺らさないでぇぇぇ」
「す、すまぬ。それと我の名はユメリア・アマノハラ。この国の次期領主になる予定だ。それにしても鏡を見ているようだな」
「う、うぷ。ご、ご丁寧にどうも。私の名前は由愛。山田由愛です。そうですね。写真の時もそうでしたけど現実に見ると見分けがつかなくなりそうです」
揺らしすぎたのか喋ろうにも喋ることに出来ない由愛に気が付いて慌てて手を離す。そして、正面で相対した時改めて似ている具合を確認した。服装を除いて本当に瓜二つなのである。辛うじて似ていないのは性格ぐらいであろう。
「それよりも父上が上で戦っておられるのか」
「そうでした。はい。その時に護身用だとそれを渡されました。って‼ なんで宙に浮いてるんですか‼ それに喋ってましたし‼」
そう言って由愛はソラスの事を指さす。さらに、今更ながらにソラスに対してツッコミを入れる。
「我もこの国の護身剣が遺物であることは知っていたが浮いているのは初めて見たぞ」
「なんだ? こいつそんなに昔からここにあるのか?」
「ああ。建国以前から存在しているらしいが実際に起動したのを見たというのは初代建国の領主だけだったと言われておる」
『ああ。あの方ですか。魔力の波長がそこそこ合っていたので少しだけ力を引き出せただけです。私の認めたマスターは今も昔も変わりません』
「馬皇さんのこと大好きなんですね」
由愛のまっすぐな言葉に不意を突かれたのかソラスは慌てた。
『ま、マスターはマスターです。それ以上でもそれ以下でもありませんよ。由愛様』
「そうなんですか?」
「何か言っているのか? 我には聞こえんのだが」
由愛と浮いているソラスが向かって楽しそうに会話していると困惑気味にユメリアが由愛にたずねた。
「え?」
「あー。すまんな。この短剣は魔力の波長が合った奴にしか声が聞えないんだ。由愛と波長が合ったって事にも驚きなんだが基本的には聞こえないんだ」
ユメリアの疑問に馬皇が答える。その答えにユメリアは少しだけ残念そうにする。
「むぅ。いろいろと国の事を聞けるかもと思ったのだが……。って、それよりも父上が上でまだ戦っておられるのか‼」
ユメリアはソラスの声が聞けない事を少しだけ残念そうにするがそれよりもまだ戦いが終わっていない事を思い出して慌てて由愛にたずねる。
「は、はい」
「そうか。行くぞ」
由愛の答えを聞いた後のユメリアの行動は早かった。素早く駆け出して頂上で戦っている親の元へ向かう。
「由愛はここにいるか?」
「いえ。着いて行きます」
「危ないぞ?」
「分かっています。でも、今逃げるよりも馬皇さんの近くの方が安全だから」
由愛は顔を赤らめる。上目づかいでそんなことを言われて聞いている方が恥ずかしくなったのか馬皇顔は真っ赤である。馬皇は手を差し出す。
「そうかよ。なら離れるなよ。ソラス。悪いが、しばらく由愛を守ってやってくれ。由愛もソラスをしっかり持ってやってくれ。後、抱えるぞ」
『了解しました』
「はい」
由愛は笑顔でそう答えると馬皇は由愛を抱えて走り出す。走る途中でユメリアも抱えると一気に頂上まで跳んだ。
頂上まで到着すると深く刀で切られた男が地面に倒れ伏している瞬間だった。
タイトル風に言うと、地面に倒れていた男とは。今明かされる計画の真実。由愛を攫った理由。次回「神復活」。お楽しみに
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