14話
「うぅ。ひどい目にあった」
「すまんって言ってるだろ。それに予定より早くつけたんだから問題ないだろ」
「それはそうだが……うぅ」
よよよと目元をぬぐう仕草をして上目づかいで馬皇を見る。その様子に馬皇は困った顔で何度目になるのか分からない謝罪の言葉を述べた。馬皇が高速で加速と停止、急上昇と下降を繰り返して夜の空を駆け抜けたためかユメリアの顔は若干青い。
「加速して止まって確認してからまた加速。それなりに急いでいる身だから仕方ないのだが、もう少し配慮してほしかった」
「分かっている。次は気を付ける」
ユメリアが上目使いで馬皇を見るとさすがに罪悪感らしきものを覚えたのかわずかにたじろぐ。ユメリアは
「それはそれとして本当にここら辺にあるのか?」
「ちっ。誤魔化したか。まぁ、我も気が晴れたしそろそろ探すか」
「おい」
困った顔をして話を逸らした馬皇を見てそれなりに気が晴れたのか先程の様子を微塵にも感じさせないユメリア。あまりの切り替えの速さにあれが演技であったことに馬皇が気付いて睨んだ。馬皇の視線に対して気がつかないようなそぶりであからさまな口笛を吹きながら服の中にしまっている振り子を探して袖に手を入れる。袖の中で引っかかっていたのかしばらく時間が掛かって目的の物を見つけて取り出す。先程のマンホールを探るのに役立った振り子である。振り子を手に持ってゆっくりと回り始める。
「見つかりそうか?」
「そんなに急かしてもすぐに結果なんて出ないぞ。もう少し待て」
ユメリアが3週同じ場所を回ると4週目に入って少しした所で振り子がかすかに揺れた。その反応にユメリアは反応した方向で止まって少しすると振り子は大きく縦に揺れる
「おっ。こっちだ。着いてこい」
「あいよ」
ユメリアに促されるがままに歩いて馬皇も着いて行く。鬱蒼とした木々の中を歩いて行った先には不自然な形でマンホールが存在していた。
「当たりだな」
「これは目立ちすぎだろ」
「基本的に認識阻害が効いているはずだから問題ない。それに普通の者ではこれを見つけた所で開ける事すら叶わんよ」
「そういうもんか?」
「そういうものだ」
やり取りをしつつもユメリアは前のマンホールと同じように札を張り付けて魔力を流す。すると、先程とは違って札の魔力がマンホールを伝って行くのを馬皇も感じ取る。
「さっきの反応とは違うからうまくいったのか」
「これが分かるのか? もしそうなら魔法の才能はある……いや、竜であるなら当たり前か」
ユメリアが成功したことを感じ取った馬皇が竜であることで納得した様子でうなずく。実際には人間である馬皇が過去の竜の姿になっている状態であるが説明が面倒なので黙っている。
「そういえば」
「なんだ?」
先程のユメリアの様子と言葉に引っかかった馬皇は聞いた。
「この世界にも竜がいたのか?」
「遠い過去にはいたそうだ。ワイバーンやレックスと言うようなお主の世界の恐竜といえるような存在も広義では竜種と言っておる。しかし、お主の想像しているような竜種の存在を我々は竜と呼んでおる。圧倒的な力と知識を有して時には人と共に時には人の敵となったと言い伝えられておる。それに過去の資料や鱗、素材を使った武器などの証拠も残っているから昔はいたのであろうが現代で本物の竜を見た者はお主を除いてはおらんな。しかも、その手の資料は基本的に一般の目には届かん。それがどうかしたのか?」
「いいや。何でもねぇ。開けるぞ」
「頼む」
ユメリアの解説にそこそこ納得いったのか馬皇は答えるとマンホールを開けた。今度は開けた先が地面だったという事はなく夜よりも暗い先の見えない穴が続いている。それを見てユメリアはため息を吐いた。
「やっと戻れる」
「そうか。そういえば、ずっとさ迷ってたんだよな」
「ただ、戻るのが始まりではないからな。ここからが本当の戦いの始まりだ」
ここを抜けた先にあるであろう戦いに覚悟を決めているのかユメリアは大きく深呼吸をすると馬皇の方を向いた。
「ここまで送ってくれた事に礼を言う」
「今更どうした」
馬皇は礼を言ったユメリアを見て困惑する。
「だが、せっかくここまで仲良くなったのに未だに我の名を呼ばぬのは失礼ではないか?」
そう言ってユメリアは馬皇に笑いながら見る。しかし、その眼元は笑っていない。
「いや、今日あったばかりだろ? 俺ら。それに、これから戦いに行くのになんで今そこを気にするんだ?」
「そんなもの、親睦を深めるためである。他意はないぞ。ここまで普通に会話できているのだから我の名ぐらいは読んでほしかったのだが? なぜだ?」
そう言ってニヤリと笑いかけるユメリア。そして、ちゃっかりと馬皇に詰め寄って逃がさないように腕に抱き着く。馬皇は振りほどこうと思えば振りほどけるのであるがユメリアの抱き着いた時の一部の柔らかい感触にそこまでの思考が回らない。
「お、おい」
「ははははは。我の名を呼べば体をはなしてやろう」
そんな馬皇の様子を知ってか知らずか、あまりにも今までと変わらない様子のユメリア。「どうした? 黙りこくって?」
しばらく、理性との戦いで馬皇が黙っていたのを見て不思議な顔をして馬皇を覗き込む。そして、馬皇とユメリアの眼があった。そこでユメリアが大胆な行動をしていたことに気がついて馬皇から離れた。
「す、すまぬ」
「い、いや気にすんな」
しばらく2人の間に沈黙が支配する。暗闇の森であるがその沈黙は不思議と嫌な気配はなく2人を落ち着かせた。
「こほん。それでは行くか。お主も覚悟はいいか?」
「もちろんだ」
気を取り直した2人はさっきのは無かったことにしてこれから待ち構えているであろう地下都市アマノハラでの出来事に覚悟を決めると穴の中に進んで行った。
更新しました。次回は城の中での話
森の中でいちゃついているように見えていちゃついていないようでやっぱりいちゃついている。どっちなんだよって自分自身に突っ込みいれたい。
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