13話
更新しました。時間は戻りまして馬皇サイドです。
「本当にあるのかよ?」
時は戻って馬皇とユメリアのいる森の中。どこから取り出したのか振り子を持ったユメリアが目的地の方向を向くと振り子が反応するという事を繰り返して歩いている内に胡散臭そうに馬皇は口に出した。
「我を信じろ。 我の探索術や占星術は国一番と噂されるくらいには有名だぞ」
「今日来たばっかの国でそんなこと知る訳ねぇだろ」
「むぅ。到着したぞ」
ユメリアがそう答えると確かに、馬皇にとって見覚えのある場所に出てくる。そして、その先を見てみると確かに、あの時と同じマンホールがそこにあった。
「……本当にあるのかよ。ってか、地脈に沿ってあるんだな」
「それはそうだろう。基本的に足りないものはよそから持ってくる。魔術の基本だぞ」
「詳しいんだな。さすが魔術とかある国を治める領主の娘か」
馬皇が感心するとおだてられて悪い気がしないのかユメリアは声を上げて笑う。
「はっはっはっは。我をほめるがいい」
「あ~。すごい。すごい」
「我をほめるの雑すぎやしないか?」
馬皇がほめて損したとばかりに適当にユメリアをほめる。そんな反応の馬皇にユメリアは頬を膨らませる。ユメリアの案内の元しばらく歩いた先には、馬皇の見覚えのある少し前に通ったマンホールを見つけることが出来た。
「大丈夫なのか?」
ユメリアはマンホールの前に立つと裾から札を出してマンホールに貼り付ける。札に魔力を注ぎ込むと、しばらくしてユメリアはおもむろに立ち上がった。
「どうだ?」
「駄目だった」
「ちなみに駄目だとどういう感じなんだ?」
「見ればわかる。ふたを開けて見よ」
ユメリアの言われるがままにマンホールの蓋を開けてみると空洞であったはずのマンホールの蓋の下は始めからそうであったかのように周りよりも湿った地面があるだけだった。
「どうなってんだ?」
「このマンホール自体が術式になっていてな。本来であれば我の魔力を札を介して侵入すれば通れる予定であったのだが……」
ユメリアはそう言うと残念そうな顔をする。馬皇はある程度予想していたのかユメリアの頭に手を乗せた。
「気にすんな。普通に考えればそんな所に連れてきた時点で通ってきたところは塞ぐだろ」
「それは分かっておる。が‼ それとは別に女子の頭を気安く撫でるでない‼」
馬皇の子供を諭すように頭を軽く撫でる行為が気に障ったのか馬皇の手を払いのける。払いのけられた馬皇は「やっちまった」と払いのけられた手で頭を掻く。
「おお。っと。悪い。いつもの癖でやっちまった」
「分かればよい。それでは次へ行こうか」
「おう。それで次の場所まではどれくらいだ?」
「占いではここから休まず歩き続けて5日ほどだ」
「それは大丈夫なのか?」
馬皇は二重の意味でユメリアにたずねた。ギリギリを脱したとはいえ心もとない食料と水とずっと歩いてさまよってたのか体はやや埃っぽい。そんな様子に加えどういう理由かは分からないが馬皇を送って国への出入り口をふさいだという事がユメリアの事情に関して、これからが一番の山場である可能性が高いと馬皇は予想する。ユメリアも馬皇と同じ思考に思い至ったのか苦々しい顔で答えた。
「……分かっている。このままでは何もかも手遅れになってしまうかもしれないという事であろう」
「ああ」
「だが、その場所へとすぐに向かう手段がない。それではどうしようもないではないか‼」
声を荒げた。年齢にそぐわない態度をしていたユメリアがである。すぐに城へと戻り事態の収束したい。しかし、どう考えても今の国の中枢の状態が悪い方向にしか思い至らない。そんな行き場のない荒れた言葉を馬皇に向けた事に気がつきばつの悪そうな顔をする。
「すまぬ。今はそんなことをしている場合ではないな」
申し訳なさそうに謝罪するユメリアに馬皇は気にしてない様子で言った。
「そうかよ。なら、乗っていくか?」
「は? 何を言っている?」
ユメリアは馬皇の言葉に頭をかしげた。確かに、馬皇は世間一般の中学生よりもかなり大きい部類である。それこそ、ユメリアを抱えてもかなり余裕があると言ってもいいだろう。
「急ぎたいんだろ? あんまし遅くなると部屋の奴らが探しかねねぇし、俺を知ってる奴らも探して巻き込まれねえとは限らねぇからな」
「‼」
そう言って、馬皇が竜の姿へと変わる。その姿を見てユメリアは絶句する。ユメリアを一飲みできそうな巨躯と紅い瞳を持つ馬皇に向かって話しかける。
「何者だ?」
『俺は馬皇だが?』
「名前を聞いているのではないのだがな……」
馬皇が名前だけを答えるとそれ以外は言う気がないのか馬皇は喋らない。ユメリアと共にしばらく言葉が無くなるが整理がついたのかユメリアから話しはじめた。
「そうか。言いたくないのであればそれでいい。竜殿。我を連れて行ってくれるな?」
『? さっきからそう言ってるだろ。それと今の俺の名は馬皇だと』
「いや、我がそう言ったのはそう言う事ではなくてだな……」
ユメリアがたずねるようにそう言うと馬皇は頭を捻る。ユメリアは自分に活を入れるためにそう言ったのに真に受けて答えを返した馬皇に苦笑する。
「ともかく‼ 我が道案内をするから指示通りの方角へ向かって飛んでくれ。それとどこに乗ればいいんだ?」
初めての経験にユメリアは馬皇にたずねる。馬皇は翼の邪魔をされずに振り落とされないであろう位置を答える。
『おう。首の付け根。羽の前ぐらいだな』
「そうか。この辺りか?」
『もう少し後ろで頼む。このサイズでその位置だと首に負担がかかる』
「サイズは自由にできるのか?」
『そりゃな。あまりデカいと目立つのとお前を見失うからこのサイズだ。ちなみに地上でもモンスターが発生したのは知っているな?』
「ああ。その対策と異能者との技術交流でこの国は最近開かれたからな」
『なら、話は早い。飛んでる最中に何か襲ってくる可能性もあるからとばしていくぞ? だから振り落とされないようにしっかり捕まってろよ。後、方向は?』
「ここから北だが、ん? どういう意……」
『北だな。龍脈の近くに止まれば問題ないだろ』
馬皇にしがみ付くユメリア。ユメリアがしがみ付いたのを確認して馬皇がそう言うとユメリアは急速に嫌な予感を覚える。そこからユメリアは覚えていなかった。馬皇が加速し始めると声は出なかった。高速で飛び出した馬皇の背中で風が圧力として急激に襲いかかってくる。馬皇が何かを言っているのは分かるが風のせいで何も聞こえない。こうして、十数分の間、ユメリアは圧倒的な風の暴力に堪えるのであった。
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