強襲
想定してた物語からかけ離れていく……
2人は商店街を入ってしばらく歩くと道に人だかりができていた。
「なんだ?」
「さぁ?」
馬皇は人の集まりを見て頭をかしげる。真央も同じように頭をかしげると人だかりの中心に向かう。その先では機械を纏った人間と白衣の集団が歩いていた。機械を纏っている方は一歩動くごとに駆動音が混ざり、若干ぎこちなく見える。だが、問題なく歩いているようだった。
「なあ、あれ怪しくないか?」
「ええ。そうね」
馬皇は気になったので近くに知り合いがいないか探す。辺りを見るといつも行くコンビニのバイトである斉藤さんが興味津々に目を輝かせているのを見つけた。馬皇はさっそく声を掛ける。
真央はさすがに2人きりというのは不味いと思って少し離れた位置にいる。一緒に居ると何を邪推されるか分かったものではない。今はそんなことに時間を取られたくはない。馬皇は後ろから肩を叩く。後ろから肩を叩かれたことに斉藤さんは気が付き後ろを向くと珍しそうな顔をして言った。
「ん? 馬皇か。珍しいな」
「いや、いつもならこの日のこの時間はバイト中だから珍しいなと思って声掛けたんすけど。今日は大丈夫なんですか?」
斉藤はそう言ってたずねると馬皇も珍しいと言った様子で言い返す。斉藤さんは答えた。
「ああ、今日はシフト変わって欲しいって奴と変わったんだ。だから今日は休みだ。そんで、のんきに歩いてたらたら、あの人が機械を纏って動いていたから追気になってな。追いかけたんだよ。移動しながら白衣の人に何してるのか聞いたんだけどな。パワードスーツの稼働実験だってさ」
「へぇ‼ 面白そうですね」
あのロボットみたいなのを着込んでいろんな場所や条件のもとで動かして実験しているということらしかった。それと研究所が近場でこのスーツの負担を調べているのだそうだ。事前に許可ももらっているらしいということと斉藤さんは嬉しそうに喋った。
今回は実際に使われそうな屋外での装着者の負担やパワードスーツにおけるパーツの負荷を調べてより実用性を高めているのだとか。その話を聞いていると、聞く方も聞く方だが、喋る方も口が軽い。しかし、その説明の仕方を見るとこれにかなり力を入れているようだった。
「そうそう。これが実用化されるとかかなり夢広がるよな」
期待した感じでしゃべる斉藤さん。それにはロマンの分かる馬皇も同意した。
「ロマン溢れますね。そういえば昨日、洋介たち来てませんでした?」
ちょうどいいとばかりに話題を変えて洋介たちが昨日来たかを聞いた。
「ああ。いつもお前と一緒に居る奴らだろ。悪いな。昨日は少し用事があってバイト行けてないんだ」
斉藤は少し申し訳なさそうに答える。痕跡が聞けなかった馬皇は肩を落とした。
「そうっすか。ありがとうございました」
「どうかしたのか?」
昨日のことを聞いてきた馬皇に疑問を投げかけた。落ち込んでいる馬皇を気遣い斉藤さんは鞄の中から飴を取り出して渡す。馬皇は出された飴を口の中に放り込む。しばらく舐めて小さくなった飴を噛み砕くと馬皇は言った。
「いえ。最近別行動してたんで、俺について何か言ってたか気になって聞いてみたんですよ」
その言葉に納得したのか、斉藤は言った。
「そうか。そんなら別にかまわないよ。あ。俺が言った事は内緒な」
「っす」
口の軽い斉藤は秘密なといった仕草で馬皇に内緒であることを促す。馬皇もそれは分かっているのか素直にうなずく。
「後、お前だとどう頑張っても悪そうな奴を返り討ちにしそうだけど、最近物騒だから早めに帰れよ」
「うっす。それじゃあ」
気遣う様にそう言って馬皇は斉藤から離れて行った。斉藤を見送ってから再び真央と合流する。
ビーッ‼ ビーッ‼ ビーッ‼ ………………
真央と合流すると突然大きな音が鳴った。馬皇はびっくりして振り返ってみると白衣の人が持ってるのはあのパワードスーツの計測用の機械らしき装置が警告音を鳴らしていた。白衣の人たちは一斉にパワードスーツに駆け寄る。残りの白衣はスマホで連絡を取っていた。おそらく斉藤の話に出てた遠距離の操縦室に不具合の理由を聞いているのだろう。しばらくすると警告音は止み再び動き始めた。
そうしてパワードスーツと白衣の集団と見物の人たちは行ってしまった。それに合わせるように真央もいつになく無表情を務めていると言った様子で馬皇を連れて反対側にあるゲームセンターの方へ無言で歩いていく。
「どうしたんだよ?」
途中まで引きずられてからあまりに強引に歩くので馬皇は一旦止まる。真央は辺りを見渡してもう誰もいないことを確認すると言った。
「ものすごくまずいわ」
馬皇は真央の焦りに首をかしげた。真央が焦っているのは分かるが、理由がいまいち分からずに馬皇は聞いた。
「どういう意味だよ。説明してくれないと分からねえよ」
「……そうね。少し説明するわ」
「おう。頼む」
「さっき公園で使った魔法覚えているわね」
「ああ、心を読む魔法だったっけか?」
「ええ、実際には、心だけでなく記憶も見れるんだけどね。その中の1人から情報を取り出したんだけど。あいつらだったのよ。今回の行方不明の原因は」
そのことにあそこまで怪しかったらなぁと容易に想像がついた。
「で? そいつらは何をしでかしてるんだ?」
「今から説明したあげる。人体実験だそうよ」
前世にも同じように人間が人間を改造して、挙句は同法の魔族の死体すら扱う人族にブチ切れてその国を滅ぼしたことがある。それと同じことをするということにどこの世界でも人間のすることは同じなのかと考えてしまい憤りを通り越して、呆れの声を出してしまう。
「はぁ‼」
真央は馬皇を気にせず説明を続ける。
「ようは実験の素体になりそうな人物をとらえて薬の実験台にしているようね。それに私が魔法を使ったときにあの機械の警告音が……」
そして、それは突然訪れた。馬皇は真央の後ろから何かが光っていることに気が付いた。馬皇はとっさに声を出して体を動かす。
「あぶねぇ‼」
轟音と同時に馬皇は真央の言葉を遮り真央の位置と入れ替わっていきなり覆いかぶさる。
「ちょっ‼ いきなり何すんのよ‼ 退け‼ 退けなさい‼」
動揺した真央は馬皇を引き離しにかかる。しかし、反応がない。完全に真央にもたれかかっている状態だ。そして、何か生暖かい何かが手に当たる。
「ちょっと‼ えっ……?」
手を見てみると赤かった。そして、鉄の錆びた臭いが鼻に突いて思考力を奪う。前世には何度も見慣れていたはずだった。嗅ぎなれた臭いのはずだった。しかし、今の真央の顔は白くなって声が漏れた。
「ひっ‼」
真央は今の馬皇の状態を見て考える。何とかしないと。その感情だけで震える手でスマホを伸ばす。スリープモードを解除すると119番にかけようとする。しかし、いざ通話のボタンを押す前に急に男が出てきて奪われてしまった。
「おやおや。いけませんねぇ。事実を知られてもあまり問題ないのですが、あなたの使ったと思われる能力が、厄介そうだったから始末しようとしたのに隣の男に阻止されてしまいましたか」
スマホを奪った男はスーツのポケットに片手を突っ込んだまま奪い取ったスマホを落として勢いよく踏みつぶす。その行為に真央は馬皇を助ける手段を失い呆然とした。男は真央を追い詰める。
「さすがにそれは許すわけにはいかないんですよ。今回は連絡されるとまずいですからね。それにこの音を聞きつけて誰か来る前に逃げ出さないとだしねぇ。まあ、どっちが死んでも生きてる方は連れ帰るんで問題ありませんね。異能者が生き残るのはラッキーでした。この死体の役に立ってくれましたし」
そう言って馬皇を蹴る。それに、真央はぷっつりと何かが切れた。
「このぉ‼」
真央は男に掴み掛かった。肉体強化をしている真央は本来なら予想外の速度度動いているはずだが、気が動転しているためか未だ不安定な状態なのか、身体強化に使われる魔力少なく一般の成人男性と同程度くらいの速度しか出せていなかった。
そして、真央が少し冷静になった時には後ろを取られていた。男は誘導していたのだろう滑らかな動きで後ろを取って首を絞める。
「おお。意外に力ありますねぇ。怖い怖い」
男は感心しながら飄々とした表情で言う。真央は男の腕をはがそうと必死にもがくが、その細腕のどこにそんな力があるのか男の腕をはがすことが出来ない。
「とりあえず、眠っていてください。その後がお楽しみの時間ですから」
そうして、何かをする間もなく真央の意識は真っ暗になった。




