26話
エピローグだと思った方申し訳ありません。もう少し続きます。大体、1,2話ほど。
『無事元の空間へと戻ってきたようじゃの。それ戻るぞ』
「ああ」
真央の作り出した穴を抜けて洋介は乗せていた人を下すと大きな狼だった姿は人の形態へと戻る。
「まさか、田中だったとは……。運搬感謝する」
「気にしないでください。鉄先生。俺が言い出した事なんで」
「それでもだ」
鉄の感謝の言葉に洋介は困ったように通り抜けてきた穴を見る。
「あいつら大丈夫なのかよ?」
先程の穴は洋介たちが脱出した後に徐々に小さくなって消えていく。そして、初めから何もなかったかのように穴は消え失せた。
『問題なかろう。あれは我より強いのじゃ』
「本当かよ?」
『む? 疑っておるな?』
「そりゃ、お前の力を借りてるに等しい俺もお前の力は分かるが、あいつらがお前よりも強いってのがどうにもなぁ……」
洋介はいつもの馬皇と真央の様子からまったくそんなふうには見えないのかフェンリルに対して曖昧な返事をする。そんな様子の洋介に鉄が話しかけた。
「すまないが1人で何を言っているんだ?」
「そりゃ、さっきから頭の中から話しかけて来たフェンリルと話して……って‼ お前の声って他の奴に聞こえるのか?」
『我の声は基本的にお主意外には聞こえないのじゃ。それよりも裸のままで寒くないのかえ?』
「それは先に言えよ‼ ってか‼ 俺まだ裸のままじゃん‼」
洋介は慌てるがそれ以上に未だに裸のままなことに気が付きさらに慌てて大事な場所だけは隠す。周りを見てみると勇次が菫の目元を覆って見せない様にしていた。
「服については俺のサイズで良ければ予備があるから取って来よう」
「……おねがいします」
「なに。ついでだ。俺も結構ボロボロだからな」
「ならついでに俺の服の替えと鞄を頼むぜ。この後も少し行かなきゃなんない所があるからな」
「いいだろう。親部以外のも持ってくるが構わないか?」
「俺と菫は戦闘服で来てるんで必要ないっす」
「そうか」
「戦闘服?」
「そうか田中は知らないよな。よく見てみろ」
鉄に言われたように菫と勇次の服を見る。先ほどまで戦っていたはずなのにどこにも傷はなかった。
「あれ」
「気が付いたか? あれは特殊な繊維で出来ていてなる程度までなら再生できるんだ」
「そんなもんあるんですか?」
「ああ」
鉄の説明に感心して勇次と菫を特に菫の方をじっくりとみる洋介。
「じっくり見るのは構わないけど見えなくても胸元とか下半身に視線が行き過ぎよ。女の子は視線に敏感なのよ」
『えっちぃのはめっ‼ なのじゃ』
「す、すいません」
菫の言葉を聞いてとっさに視線を逸らして洋介は謝った。
『む、むぅ。照れるのじゃ。そ、それから……し、しばらくは寝るから話しかけるでないぞ‼ 後、食事かスウィーツの時間になった起こすのじゃぞ‼』
フェンリルの方も洋介の抱いている感情に照れたのか言いたいことだけ言ってそのまま何も言わなくなった。洋介はフェンリルの様子に対して不覚にも可愛いと思って笑う。その様子に勇次は苦笑いした。
「気持ちは分かるっすよ。後輩」
「それは誤解ですって勇次さん」
女性の体を見て笑っているように見えたのだろう。勇次の言葉に照れ隠しだと思われたままで洋介は慌てて弁明しよう考える。そして、いざ洋介が言い訳を言おうとしたとき菫が割り込んできた。
「勇次もそうなの? それなら言ってくれれば……」
「そんな思わせぶりなこと言われても俺は引っかからないっす。それで何度痛い目を見た事か」
「もう、私は本気なのに」
勇次に対して菫は挑発的なことを言うが全く効果がなかったようだった。そのことに菫は頬を膨らませて不機嫌な様子で小さくつぶやいた。
「そ、それはそうとなんで親部さんと鉄先生は普通の服なんですか?」
洋介は勇次たちやり取りを回避するために親部と鉄に質問する。親部と鉄はよく見てみると服には細かくはあるが確かに傷だらけであった。その下から覗く体には傷一つないのだが服が再生している様子はない。
「俺は単純に急いできたからな。この服といつも常備してる仕事用の服しかないからな」
「俺のは、その、な、よっぽどがない限り使えないんだ」
「そうなんですか?」
歯切れの悪い鉄に洋介がたずねる。その横では親部が笑いをこらえている。
「何がおかしい。親部」
笑いをこらえている親部を睨みつけると我慢が限界に達したのか親部は大笑いしながら喋り出した。
「あっははははは。わりぃ。確かにあれは見せたくはないわな」
「何か知ってるんですか。親方?」
「そう言えば私たちも鉄さんの戦闘服を見たことないわね」
親部と鉄の反応に鉄の戦闘服について疑問に思ったのか菫と勇次も参加する。
「あああああ。それはもういいだろ‼ 服取ってくるから待っていろ‼」
鉄は言いたくないのかそのまま駆け出して行ってしまった。
「そんなに言いたくない恰好なんですか? 親部さん?」
洋介がたずねると未だに笑いをかみ殺している親部は答えた。
「くくく。まぁ、いつか見る機会があるだろうそれまでのお楽しみだな」
「「ええぇぇぇ」」
親部は楽しそうに言うと残念そうにする勇次と菫。勇次たちは鉄の戦闘服について追及がそれをのらりくらりとかわす親部。
「それはそうとお前さんは1人で喋ってたようだが何が聞こえるんだ?」
親部は先程の話の流れで逸れていた洋介の事を聞いた。
「えっと。今の俺のケモ耳と尻尾の原因と話が出来るようになりましっ‼」
『うっひゃぁ‼』
「どうした‼」
洋介が何か途方もない力を感じ取って思わず体を震わせた。それに反応して冷や汗と共に尻尾が上に伸びる。その様子に親部が心配そうにたずねると洋介は答えた。
「い、いえ。なんかよく分からないんすけど、こう、おっかない感じがしてしまって……」
『おっかないのじゃ‼ あれはおっかないのじゃ‼』
「それでいきなりフェンリル。聞こえる声の主がいきなり声を上げると同時に悪寒が走りました」
フェンリルのビビり様に洋介は一周回って落ち着く。
「それで?」
「フェンリルがめっちゃビビってます」
『ビ、ビビってなんかないわい』
「いや、あれはどう見ても。……そうだね。ビビってないね」
『その対応も腹が立つのじゃ。後で覚えておれよ』
「はいはい。後でな」
フェンリルに対してぞんざいな対応をすると洋介は親部の方を向く。
「田中君。話は終わったか?」
「はい。少しわき道にそれましたが。それでこう、なんというか途方もないものを感じたような気がしました」
「そうか」
そう言って親部が何か考え事を始める。洋介も話すことが無くなったのか穴の有ったところを見る。すると先程まで閉じていた穴が突然に開いた。
「やっと戻ってきたか」
「おう。出迎えありがとよ。それと、ただいま」
「やっと戻ってきましたわ」
「全くようやく戻ってきたのね」
軽い感じの馬皇とげんなりとした顔をしてサライラと真央が戻ってきた。
次回は馬皇たちが異空間から戻って来るまで。その次がエピローグ予定です。
いつも読んで下さりありがとうございます。
感想、批評、指摘、ブックマークなどで反応して下さるとありがたいです。心は豆腐並ですが。
これからもよろしくお願いします




