24話
(力が欲しいか)
確認するかのように2度目を言う何か。洋介は混乱していた。が、即答した。
「力? この場をどうにか出来るんならよこしやがれ‼」
(カカカ‼ いいだろう‼ 物に出来れば、だがな)
「う、うあああぁぁぁぁぁぁ‼」
声の主が笑い声を上げる。それと同時に得体のしれない力が洋介を包み込んだ。力がみなぎると同時に全てを壊せると感じさせる陶酔感が襲う。洋介はそんな陶酔感に対して抵抗するがそうこうしている内に牛頭の怪物の斧は洋介に到達していた。
「ブゥモォォォォオォ‼ ッ‼」
洋介を吹き飛ばし仕留めたことに雄たけびを上げる牛頭の怪物。その声に合わせてもう一体の方も声を上げようとするが気が付いた時にはもう遅かった。一緒になって声を上げようとしたときには牛頭の怪物の頭が無くなっていた。
「ブッ‼ ブァァアァァァ‼」
喜びの雄たけびから一転、生き残った方は仲間が殺されたことに警戒と威嚇を込めた声を上げる。そして、狩った筈の洋介の方を見るとそこには何もいなかった。
「ブルルルッ」
辺りを警戒して斧を強く握る怪物。何かの動く気配がした。すぐに後ろを振り向く。しかし、何もいない。
「ワオオォォォン‼」
今度はその反対側、怪物にとっての正面から雄たけびが聞こえる。頭を正面に戻したときには怪物より大きな狼の頭が怪物の頭を飲み込んだ。怪物の頭を噛み砕き飲み込むと狼は我に返ったように頭を振る。
「ワフゥ……‼ ワオオオォオォゥゥゥォ‼」
『俺は……って‼ なんじゃこりゃぁぁぁ‼』
狼は驚いたように雄たけびを上げる。それに重なる様に洋介は叫んだ。周りには頭を失くした怪物の死体。自分の身体を見ると白い毛で覆われておりデカかったと感じていた怪物が小さく見える。それだけでは何が起こったのか理解できず声を上げるが自分の耳には犬の遠吠えにしか聞こえない。
「グルルルゥ‼」
唸り声を上げていると何がどうなっているのかは知らないが自分が人間ではない何か別のモノになったことを洋介は理解し始める。
(ふっふっふ。危なかったが、飲み込まれなかったようだな)
『お前は……あの時の声?』
(ああ。我が名はフェンリル)
『フェンリル? あの神を飲み込んだっていう?』
洋介がたずねるとフェンリルは顔をしかめたような気がした。
(神を飲み込む? それはあの阿呆父が無理矢理命令しただけだ‼ 我が自分からやった訳ではない‼)
『す、すまん‼ そこまで怒るとは思わなかった』
予想外のフェンリルの怒りに洋介はすぐさま謝る。洋介の謝罪にフェンリルはフン‼ と鼻を鳴らすように音を出すと怒りが収まってきたのか不機嫌ながらも洋介に話しかける。
(まぁいい。理解したのならそれで良い。話をつづけるぞ)
『サー。イエスサー』
洋介は余計なことを言わない様にしながら黙って話を聞く。
(今、お前の身体は我の身体と同期しておることは理解しておるか?)
『えっ? そんなことになってんすか?』
(……はぁ。そこからか)
洋介がそう言うとため息を吐くフェンリル。そのことに洋介はムッとするがそこを堪えて話を聞き続ける。
(まぁ、よい。話が聞けるという事は我とうまく融合したという事。我と汝がどういう因果かは知らんが交じり合った。そして、先程の出来事で汝は我の力を使う資格を得た)
『訳が分かんねぇ』
(はぁ)
『なんで溜息つくんだよ‼』
洋介の理解できていないような声にフェンリルはため息をつく。それが気に入らないのか洋介はツッコむ。
(汝は我の力を使うことが出来るという契約だ。そして、その見返りに汝の精神が死んだときには我が体を貰うというな)
『なっ‼』
(驚くことではなかろう。下級とはいえ神の力ぞ。その力で理性が消滅してもおかしくはない。まぁ、仮にその力を使いこなせるようになったならば分離する事も不可能ではないがな)
『お、脅かすなよ。体を巡って殺し合いとか俺に勝ち目ねぇだろ』
(そうであろうな。我もそれは望んでおらぬ)
『そ、そうかよ。でも、サンキューな。力を貸してくれてよ』
(……いい。汝に死なれると我も消え去る。そうなれば我もせっかく目を覚ましたのに意味がない)
『それでもだよ。お礼も兼ねてなんかできることがあるか?』
(そうか‼ それならば汝が喰いたそうにしていたすてーきとやらとけーきとやらが食ってみたいのじゃ‼)
『お、おう? どうしてそんなの知ってるんだ? ってか、どうやって味わうんだ?』
洋介はフェンリルにたずねると喰い気味に要求してきた。そして、知らないはずのこの国の料理とスウィーツの名前が出てきて困惑する。
(汝の記憶から特にうまそうなものを選んでみたのじゃ‼ それと汝とは味覚も共有できるから問題ないのじゃ‼ それにしても人間の発想はスゴイのじゃな‼)
フェンリルの本音に洋介は呆れた。呆れたついでに気になっていることを口にした。
『そうですかい。それにしても、のじゃ……』
洋介がフェンリルの尾語を口にするとフェンリルは我に返ったのか恥ずかしそうに言い直した。
(ええい‼ 今のは忘れろ‼)
『ええ~? それは無理な相談なのじゃ』
(マネをするなぁ‼ 良いのか‼ 今、急いでるのではなかったのか?)
フェンリルがそう言うと急いでいることを思い出した洋介は慌てる。しかし、漲っていた力は抜け元の姿に戻っていた。それも裸で。
「やべ‼ って‼ 元に戻ってるし‼ 何で裸‼」
(そんなものあのサイズじゃ。元に戻る前にあんな布きれはじけ飛ぶわい)
「それよりも急がねえと‼」
洋介は慌てた様子で男を担ぐと走り始める。そして、その様子を見ているフェンリルはたずねた。
(それよりも何故この気絶している男を連れて走っておるのだ?)
「そんなもん。今も外で戦ってる友のためだ‼」
洋介のその言葉を聞いて黙り込むフェンリル。しばらく、黙っていると再び洋介に話しかける。
(そうか。だが、この我をおちょくったのは許さん)
洋介が走る中でそれとこれとは別と言う風に洋介に言う。
「だから、それは悪かったって言ってるだろ‼」
蒸し返すフェンリルに対して洋介は叫ぶ。担ぎながら走るとなるとどうしてもいつもよりも声が大きくなる。
(ぷりんじゃ)
「は? 何だって?」
(ぷりんも追加なのじゃ‼ それで許してやるわい‼)
恥ずかしそうに叫ぶフェンリル。力強くどっちの性別か分からない声はずなのに妙に女性じみている。
「もしかして、雌……なのか?」
洋介は今気が付いたのか驚いた表情と共に動きを止めてしまう。
(失礼なのじゃ‼ わ、我だって年頃のおなごじゃ。そ、それに……)
「それに?」
(甘い物や美味い物があるのならば食べてみたいわい‼ しかし、我のサイズでは食べた気になれんからの……)
本音でおいしい物を食べたいことを暴露するフェンリル。実際には見ることが出来ていないがフェンリルがしょんぼりしているしているのが想像できてしまう。
「ちなみにお前の姿って俺には見れないのか?」
(何を言っておる?)
「出来るのか?」
洋介が力を込めて2度目を言うとフェンリルはその様子に対して引き気味に答える。
(ゆ、夢や精神世界に入れるのであれば……。近いうちに、我の姿を拝ませてやろう)
フェンリルの言葉に洋介は小さくガッツポーズを取る。その様子に訳が分からないという様子でフェンリルは頭をかしげたような気がした。
「よっし‼ フェンリルちゃん‼ さっき言った奴は明日食わせてやる‼」
(ほ、本当かの‼)
「ああ‼ 男に二言はねぇ‼ だから、力を貸してくれ‼」
(分かったのじゃ‼)
そう言って洋介は狼へと姿を変えて男を口に咥えて走り出す。狼の姿で走るのは初めてのはずだがどういう訳か洋介は走り方が分かっていた。しばらく走っているとようやく初めに入ってきた口が見えてきた。
『見えた‼ 出口だ‼ って‼ 閉まり始めてる‼』
口が見えたのはいいがその口が閉まり始めているのを見て洋介は急ぐ。しかし、口の閉まる方が速く洋介は間に合わないを感じ取る。
(ええい‼ あの程度こじ開けるのじゃ‼)
『どうやって‼』
(こう‼ ふんって感じに力を籠めれば何とかなるのじゃ‼)
『分かるかぁぁぁ‼』
よく分からないフェンリルの説明に洋介が突っ込みを入れると洋介の身体が光り出す。
(これでいいのじゃ)
『えええぇぇぇ‼』
(そのまま突っ込むのじゃぁぁぁ)
楽しそうに言うフェンリルに洋介は対応できなくなる。そして、いい加減なフェンリルの言葉に洋介は半ばやけくそ気味に叫んだ。
『もう‼ どうにでもなれぇぇぇ‼』
洋介はそのまま巨人・ユミルの口を貫通し外へと飛び出した。
更新しました。次回から本編に戻ります
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