23話
時間が少し巻き戻って中に入った洋介のターン
「くそっ‼ 複雑すぎだろ‼」
洋介は走っていた。ユミルの口の中は迷路のように複雑に分かれ道があるが先は全く見えない。この道で正しいのか不安に駆られるが真央が行く先々のポイントで指示を出す。
『洋介聞こえる?次はあんたから見て左から3番目』
「了解。なぁ?」
『何よ? 言っとくけどこの道以外に行くと大体トラップそれか中に住んでる魔物に遭遇。私とか馬皇ならともかく、あんたなら速攻で死ぬわよ』
「ちげぇよ。ってか、怖えよ‼ そうじゃなくて‼ どうやって声を届けてんだ?」
『ふふん。乙女のたしなみよ』
真央は答える気がないのか適当なことを言ってあしらう。それに対して洋介は胡散臭げな表情を隠さずに言った。
「マジかよ……」
『あっ。思いっきりジャンプしなさい』
「よっと」
真央の指示通りジャンプすると走っていた道にいきなり穴が開く。穴の下には透明な液体が詰まっており気分が悪くなるような酸っぱい臭いが充満する。助走をつけて跳んだために反対側に何とか着地する。着地すると先程と同じように走り出す。
『危なかったわね。多分、胃液の類かしら。あの液体に触れてたら骨も残らなかったわね』
「こわっ‼」
『でも、あと少しよ』
真央の言葉に洋介は冷や汗をかく。その後に真央のあと少しと言う言葉に洋介は走るペースを上げる。
『あっ。そこから先の二手に分かれる道。魔物との遭遇は避けられないわ。突入したら右よ』
「戦えってか?」
『死にたいなら別に止めはしないわよ。生きたいなら気づかれてもいいから走り抜けなさい』
「了解」
洋介の言葉と同時に何かがなく音が聞こえる。走り抜けた先に得体のしれない化け物が2体いる事を聞き取る。走り抜けた先には少しだけ広い空洞その入口で洋介は止まり中をうかがう。そこには二つの道を守る様に斧を持った牛頭の怪物が立っている。
「おいおい……。あれってミノタウロスって奴だよな。今更だけど訳わかんねえよ」
『あれはミノタウロスね。直線はそれなりに速いけど小回りは聞かないから逃げてギリギリの所で横に跳びなさい』
「無茶言うなよ‼ 無理だって‼ あんなもん‼」
『バカ‼ そんな所で大声出すと』
「ヤベッ‼」
洋介は巨人の中に住んでいる怪物を目の当たりにして悪態をつく。洋介のツッコミを聞き取ったのか牛頭の怪物は洋介の方を向く。洋介も気づかれないように動きを止めて陰に潜む。
「「ヴモオォォォォ‼」」
「マジかよ‼」
怪物は洋介が潜んでいることに気が付いたのか洋介のいる方向に向かって突進してくる。その様子に洋介は身の危険を怪物から逃げるように走るがすぐに追いつかれる。
「っひょ‼」
振り降ろされる斧に対して洋介は謎の掛け声とともにギリギリで避ける。真横にはギラギラとした鈍い輝きを持つ斧が洋介を映す。
「うわぁぁぁ‼」
洋介は命の危機を感じて必死に走る。振り向く余裕すら惜しいと全速力で言われた通りに右側の穴に飛び込んだ。
「今度は何だ‼」
右の穴に飛び込むと感じた事のない浮遊感に囚われる。
「うおっ‼」
それも一瞬の事ですぐにそれはなくなり洋介は落下した。大した高さでなかったためか落下したが大したことはなかった。尻から落下したためか洋介は尻をさすって立ち上がるとそこは無数の肉の柱がそびえ立っていた。
『良くたどり着いたわね。この中のどれかにあのいけ好かない男がいるわ。それだけは確かよ』
「どれか分からないのかよ?」
『距離がありすぎて細かいのは分からないのよ。洋介の視点から見えてはいるけどあくまで補助だから。それにあの巨人の中がダンジョンになってるから余計によ。あなたの方からは何か感じ取れない?』
「やってみる」
洋介は肉の柱に触ってみる。脈打っているの分かるがそれ以外には何も感じない。
「駄目だ。分からん」
『そら、1つだけ調べても違いなんて分かるはずないでしょ』
「それはそうだけどよ……」
『調べて行ったら別の反応をするものがあるはずよ』
洋介が面倒くさそうに言うと真央の呆れたという声が届く。洋介はたくさんある肉の柱にうんざりそうな表情をしながらも一つ一つ調べて行く。
「これはさっきのと同じだな。これも。これも。これも。……これも。これ、は?」
脈打つのは同じであるがなんというか脈打つのと一緒に何か別の音を感じ取る。
『洋介。それよ。私もあなたを通じて何かいるのを感じたわ』
真央は興奮気味に答える。
「よし。なら、これを壊して……あ」
洋介は違う反応をする肉の柱を壊そうと考えて肝心なことを思い至った。
「どう壊せばいいんだ?」
『はぁ‼』
ここまで走って助けに行く所までは考えていたがその方法までに至ってなかった洋介に真央も声を荒げる。
『近くに何かないの?』
「そんな都合よく近くになんかあるわけないだろ」
『その言い方止めて。なんか腹が立つわ』
「わるい」
『あんたの爪とか伸びたりしないの?』
「そんな都合よく伸びるわけ……のびた」
洋介は右手の爪を見て伸びるわけないと思って力を込めると鋭く爪が伸びる。そして、洋介が戻れと念じると元に戻った。
『出来るじゃない』
「マジかよ」
信じられないほど簡単に伸び縮みする爪を見て洋介は驚く。洋介が驚いていると今度は慌てた様子で真央が念話を飛ばしてきた。
『洋介急ぎなさい。それと、ちょっと外が不味いから私のサポートはここまでよ』
「分かった。外に出るまで無事でいろよ」
『分かってるわ。それじゃあ、健闘を祈るわ』
真央のとの会話の後洋介は爪を伸ばし肉の柱を切り裂いた。肉を切り裂く感触の気持ち悪さに洋介は顔をしかめるが今はそれどころではないと言い聞かせる。中にはあの時見た男が入っていたが完全に起きる気配はない。
「こいつを担いで走るのか……」
男を担ぐと洋介はもうここには用がないと走り始める。そして、出口を通るとそこには先程いた牛頭の怪物が待ち構えていた。
「やべ……。忘れてた」
硬直した洋介に怪物は斧を横に振りかぶる。男を背負ったままで躱せないと悟る。が、それでも死なないために思い切りジャンプして斧を躱す。しかし、もう一体の方がそれに合わせて斧を振っていた。空中で動くことのできず死が迫りくる中で洋介の周りは時が止まったかのように感じる。
(これが走馬灯か?)
洋介自身も躱そうと必死に動いているがまるで水の中を動いているみたいに動きが遅く感じる。
(力が欲しいか)
「は?」
どこから響いたのか分からない。洋介が聞いたことのある声ではない。しかし、はっきりと分かる力強い声がした。
ユミルの体内での話は後1、2話で予定してます。この章が終わったら修学旅行編を書くんだ……
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