18話
「それで? どうやってあいつを倒すんだ?」
真央の元へと着くと馬皇はたずねた。
「やることはシンプルよ。あんたがあの巨人、ユミルだっけ? あいつを足止めして誰かが中に入って食われたのを吐き出させればいいの。そうしたらデカいのを一撃喰らわせて終了よ」
「……おい。それ無茶苦茶言ってるの分かってるか?」
馬皇が真央の提案に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。馬皇の様子に実際にあの巨人を目にしたメンバーも同意を示すために頭を縦に振る。それに対して、真央は言った。
「そんなこと百も承知よ。でも、一回殺すんだったら私とあんたで時間を稼いでくれたら何とかなるけどもう一回と言われたら正直に言って短時間では厳しいわ」
「ねぇ? そんなに今回の相手って厳しいの? 私たちは実際に見ていないから判断が難しいわ」
「そうね。時間が経つにつれて大きくなっていって最大全長約1km。人を喰らうたびにその成長速度は上がっていくわ。そして、腕がちぎれようが首が落ちようが核が無事なら瞬間的に再生。眷属である本体より小さい巨人たちを生産しまくって本体も暴れまわる化物よ。さらに、喰らった生き物の情報や特性を取り込むわ。それに加えて命をストックできる。それがあと少しでやってくるって言ったらどう思う?」
真央の言葉が信じられないといった表情を見せるが、それでも真剣に菫は考えて答えた。
「……そんな相手なんてやってられないわね? むしろ、生物なの?」
「私もあれを生物なんて言いたかないわ。もはや、神話とかの怪物の方がまだ信憑性があるくらいね」
真央もやってられないと言った風に軽口を叩く。それに対して馬皇が言った。
「それでも実際に出てこられちゃ、こっちが詰むぞ?」
「そんなこと言われなくても分かってるわ。だから、さっき言った事が最初の山場ね。ここまではいい?」
真央がたずねると全員が納得したのかうなずく。それを見た真央は話を続ける。
「なら続けるわよ。まず、馬皇がユミルを足止めして頂戴。私がサポートするわ」
「おう。任せろ」
「ええ。入ってる人が出てくるまで抑えて頂戴。それで、鉄先生たちに関してなんだけど高確率で入った瞬間に大量の眷属が襲いかかてくるわ」
「それの駆除をすればいいんだな」
親部が真央の言葉に答える。それに対して真央は頭を下げた。
「お願いします。そして、馬皇に張り付かせないようにしてください。さすがに大量に張り付かれたら、あいつがいくら頑丈であってもまずいわ」
「俺からも頼む」
馬皇は一言そう言う。それに関しては馬皇も経験があるのか苦い顔をする。実際に馬皇は数の暴力で抑え込まれてユミルに止めを刺されそうになったことがある。本体よりもかなり小さく弱いとは言っても数で抑え込まれるとユミル本体を足止めすることはできない。
「分かった。こちらで何とかしよう。それで、内に入る人間はどうするんだ? 何も問題なければ私が行くが?」
「いいえ。取り込む特性を考えたらさすがに一時的とは言っても鉄先生取り込んじゃったら私たちじゃ抑えられないので止めてください。眷属たちの駆除の方をお願いします」
さすがに抑えきれないと真央が懇願する。それに同意するかのように馬皇たちもうなずく。あの巨体が鉄並の力を手にされたらそれこそ本末転倒である。
「了解した」
「じゃあ、誰が行くんだ?」
馬皇がたずねると真央はゆっくりと腕を上げ洋介を指さした。
「洋介。あんたがカギよ」
「俺?」
「おいおい‼ さすがにまずいだろ‼」
馬皇は抗議するが真央はそれを一言で制す。
「今は黙ってて‼ 確かに友人だから心配なのは分かるけど、彼が一番成功する可能性があると私は思っているわ」
「そんで仮に失敗してもまだどうにかなる範囲でもある、か?」
真央が言った事に加えて洋介は真央が考えているであろうことを答える。さすがに言い当てられたついては予想外だったのか真央は唖然としながらも答える。
「え、ええ。確かにそれも思っていたけどそれ以上に成功する確率が高いと思ったのは勘よ」
「勘?」
真央が言った事を洋介が繰り返す。
「そう。あなた、あの巨人を見た時に寒気がするって言ってたわよね?」
「ああ」
「でもね、普通はそんな事よっぽど戦闘に関わっているか明確な殺意を向けられることが無いと分からないものなの。実際にあの置田って男と由愛はあの巨人が目を覚ますまで何も感じてなかったようだったし」
「俺にもそんな異能が……」
真央の言葉を噛みしめるように洋介は自分の手を見る。
「そんな訳ないでしょ。異能ではないわ」
「……薄々気づいてたけどバッサリと言うのは勘弁してくれ」
期待していた言葉をあっさりと切り刻む真央に洋介はうなだれる。
「恐らく、あんたと混ざった獣が野生の本能とかそういう類のを引き出してるんでしょうね。だからこそ今回は必要になるの」
「どういうことだよ」
真央が意味深なことを言うと言っていることが分からず洋介は真央に聞く。それに対して待ってましたとばかりに真央が言った。
「中に入ってもあの大きさよ。絶対に探し回ることになるわ」
「ああ。そう言う事か」
真央が言いたいことを洋介は理解する。手短に探すことになるとしたら勘という要素であっても使えるものは利用するという事なのだろうと理解する。それに時間を短くするには足が速い方が良い。馬皇と鉄、真央が動けない現状で素早く動けるものと考えると確かに洋介は適任である。
「そう。見つける時間は短時間の方が良いの。でないとあんたも消化されるわ」
「さらっと怖いこと言うよな。真田さん」
「失礼しちゃうわ。必要だから言ってるんじゃない。それにあんたが私たちの変わりなんて無理よ。そうなったらきついのは中の人間もなんだから。それともそっちの方が良い?」
「え、遠慮しときます」
「賢明ね。それに私が並行してあなたをサポートするのよ。問題ないわ」
真央は胸を張るのを見ると洋介は胡散臭げに真央を見る。その視線を感じて真央は声を低くして言った。
「何か?」
「いえ。何でもありません。任せてください。マム」
真央の眼光と低い声に怯え洋介は敬礼する。それを見て苛立ちは収まったのかため息を吐くと次に勇次の方を見る。
「それと勇次」
「は、はいっす」
「馬皇が抑えたら私が氷の柱を作るからそれを異能使って口を固定して。洋介が入ってから出るまで。私が合図を送るから」
「任せてくださいっす」
「そのサポートには私が入るわ」
洋介が答えると菫が洋介のサポートを申し出る。
「そうね。そうなると勇次も手がいっぱいになっちゃうかもしれないからお願いするわ」
そのことには異論がないのか真央は菫に任せる。
「サライラは親部さんと一緒に馬皇を守るのよ」
「はい‼ 殲滅しますわ‼」
「……なんでこう。所々言い方が物騒になるのかしら?」
そう言って馬皇を見る。真央の視線に気が付いたのか馬皇は睨み返す。
「何睨んでんだよ?」
「睨んでないわ。失礼ね。……この親にしてこの娘ありね」
「失礼な奴だな‼」
「お父様とそっくりだなんて‼ そんな……」
馬皇と真央の間に険悪な雰囲気が生まれ始める。その傍らでサライラがよそには見せられないような表情を浮かべる。
「あぁ。はいはい。夫婦喧嘩はその辺で」
「「だれが夫婦だ‼」」
「……息ぴったりじゃねぇか」
洋介はいつもの2人の繰り返される言葉に呆れる。馬皇たちは話が逸れていた事を思い出すと真央が言った。
「そうだった。私も使い魔たちを呼ぶけど馬皇と一緒に足止めする役割ができる子が一体いたわ。今から呼ぶけどしばらく黙っててね」
そう言って真央は魔法陣を組みすぐに召喚する。
「常しえより契約せし我が盟友よ。ここに現れたまえユリウス」
魔法陣から強い光と共に澄んだ青色をした竜が現れる。いきなり現れた竜に鉄たちは驚きながらも臨戦態勢を整える。
「駄目よ。手を出したら」
真央が鉄たちにもう一度、今度は魔力の籠った声で言うと動けなくなる。それとは別に馬皇とサライラは別の意味で動きを止める。
「何の用だ? 悪魔の小娘?」
竜は低く機嫌の悪そうな声で真央にたずねる。
「戦いよ。力を貸しなさい」
「あんな無茶苦茶な呼び方をして何を言うか‼ それで来て見れば貧相になり追って‼ 今の貴様は人間の小娘ではないか‼ そんな軟弱者に力なぞ貸すものか‼」
正直な所、呼び出された竜の言い分の方が正しい。いくら転生前の力を取り戻したと言っても使っていなかったブランクもあり前世の姿の時間も全力で1時間持てばいい方である。しかし、ユリウスのその言い方に怒りが抑えきれないのか真央は額に青筋を立てて挑発する。
「そう。なら試してみる?」
「望むところだ‼」
竜が真央の挑発に乗って腕を振り降ろす。真央は余裕な表情で障壁を張るが、さすがに馬皇は見るに見かねて竜と真央の間に割って入った。
「お前らいいかげんにしろよ。本番の前に消耗する気か?」
「止めないで‼ 馬皇‼ 久々の召喚で調子に乗ってるだけだから調教するだけよ」
「小娘の言葉に同意するのは癪だが止めないでもらおうか」
「ええい‼ うるさい‼ 真央もそうだがユリウスも煽るな‼」
馬皇が竜をしかる。人間に指図されるのが気に入らないのか竜は激昂する。
「小僧が‼」
「俺は落ち着けと言ったはずだが? ユリウス・リンド?」
「何故‼ その名を‼」
驚愕と共に竜は馬皇を見る。そして、空気を読まずサライラが無言のまま馬皇の背中にしがみ付く。そして、背中からユリウスと呼ばれた竜に対して殺気を向ける。その様子を見て竜はあの人間をよく観察する。そして、内包している魂を見て誰であるが理解して驚愕する。
「ま、まさか‼」
「ようやく思い出したか? ユリウス?」
「ダリウス様‼」
「そうだ。久々だな。ユリウス」
「お久しぶりですわ。ダリウス叔父様」
竜は真央の時とは打って変わって喜びに満ちた声を上げる。
「は?」
真央は訳が分からないまま口から言葉をこぼし呆然とする。馬皇とサライラは真央とは対照的に呼び出された竜・ユリウスとの再会に喜びの声を上げるのであった。
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