6話
「あぁ……ようやく解放された」
午後1時を過ぎ。ようやく服を選び終えた由愛たちを連れてファミレスで馬皇はようやく人心地着いたのか思っていることを口にした。その言葉の意味が理解できないのか由愛は首をかしげる。
「何言っているんですか? 馬皇ちゃん。かなり充実していましたよ? 楽しかったじゃないですか」
馬皇の愚痴を言うが由愛は否定する。逆に馬皇に楽しかったと由愛は同意を求めるが馬皇は渋い顔しかしない。
「お前らだけがな……。ずっと見られるのはしんどかった」
「なによ。だらしがないわね」
馬皇に対して真央ははっきりとだらしがないと言う。
「そうは言うがな、毎回違う女物の服を着るたびにいろんなもんが削れる。特に精神が‼俺は男だ‼ 後、洋介。奢ってくれよ」
馬皇はまだあの時見捨てたことを覚えているのか恨みがましい視線で洋介を見る。じっと見つめ合うと洋介は根負けしたのかため息をついた。
「……はぁ。分かった。分かった。おごってやるから好きなもん頼みな。馬皇。ただ俺の手持ち内に抑えくれよ」
その様子に洋介は仕方ないなと馬皇の提案を受け入れる。
「分かってるよ。すいません」
馬皇が従業員を呼ぶと早速とばかりに開けたメニューから食べ物を注文していく。
「これとあれとこれ、ここからここまでお願いします」
馬皇が一括でいろいろと注文をする。明らかにこの全員で食べるには過剰に見える。さすがの洋介も遠慮がなさすぎる注文に慌てて馬皇に抗議する。
「ちょっ‼ 頼みす……‼」
「あ。これだけお願いします」
「○○が一点。××が一点。……。以上でよろしいでしょうか」
「はい」
「それでは少々お待ちください」
馬皇と従業員は洋介が文句を言い切る前に注文を終える。そして、従業員が去るの見て馬皇は洋介を見て言った。
「全員の分をおごってくれるんだろ? ついでにお前の分もいつもので注文しといた」
「ちげぇよ‼ 馬皇の分だけだからな‼」
洋介は馬皇の言葉にツッコミを入れる。その様子に申し訳なさそうに馬皇を除く全員が申し訳なさそうに言った。
「分かってますよ。私は払いますから」
「私もさすがに同級生におごられる気はないわ」
「私が今回は依頼したんだから私が払うわよ」
彼女たちの提案に洋介は心が揺れ動く。
「だ。そうだが?」
馬皇がたずねると洋介は決心したのか堂々と宣言した。
「ここまで言われて払わないわけにいかないだろ‼ ここは俺のおごりだ‼ 感謝しろよな‼」
「分かってるって。ありがとよ。洋介」
「ありがとう。田中君」
「ありがとうね。洋介」
「ありがとね」
「……なんだろう。この疎外感。こんなに女の子に感謝されているのに素直に喜べないこの感じ」
あっさりと手のひらを反しておごられることにする女性陣に洋介が釈然としない表情をしている間に馬皇は糸が切れた人形のように馬皇は机に突っ伏した。腕を伸ばしているために馬皇を前から見るとかすかに馬皇のわきが見えている。それに気がついた由愛が洋介を睨むと視線を逸らす。
今更であるが服装は最初に着ていた赤いチェックのワンピースである。あの後、プチファッションショーは続いて、女性陣がそれぞれ一種類ずつ気に入った物を選んで購入することになった。誰の選んだ服を着るのかで一悶着あり馬皇は散々詰め寄られたが馬皇は必死に抵抗して、何とか角が立たない最初の服のまま出ることに成功する。そのために馬皇は精神力を使い切ったのである。
「それにしても田中君も馬皇ちゃんに対して面倒見良いですよね。付き合いは長いんですか?」
由愛は純粋な目で洋介を見る。それに照れたのか顔を少しだけ赤くして視線を逸らす。
「いや、そんなにでもないな。せいぜい1年くらいだ」
「意外に短いのね」
意外と言った様子で真央が言った。もう少しぐらい長い付き合いなのかと思っていたようであった。
「でも、今の仲が良いやつらとはだいたいそれぐらいだな」
「出会いはどんな感じだったの?」
「それなりに面白い感じだったぜ。あの時は……」
「言うなよ。絶対に言うなよ」
リンが馬皇たちの出会いを聞くと馬皇がいきなり起き上がって洋介が言おうとするのを止める。
「別にいいじゃねぇか。そこまで恥ずかしい話でもないんだし」
「お前はな。いろいろとこっちは……むぎゅ‼」
「馬皇ちゃんは少し黙っていてください」
「何をする‼ 由愛‼ やめっ……わぷっ‼ そこはだめぇ」
馬皇が洋介に話をとめるようと割り込むがそれを由愛が馬皇を掴み抱いて膝に乗せる。そして、馬皇の口を物理的に手で塞ぎ、馬皇を撫でまわす。馬皇はしばらく抵抗を続けるが由愛が馬皇の身体をなでまわすのを続けているとそれに勝てなかったのか身をくねらせるのみである。やがて、馬皇は我慢できなくなったのか甘い声を上げる。それに気をよくした由愛がさらに手を激しく動かす。
「私も興味あるわ。その話」
手を動かしながら洋介に話しかける由愛。馬皇は抵抗を諦めされるがままであった。
「……んあっ‼」
「あいつは男だ。あいつは男だ。あいつは男だ。あいつは男だ。あいつは男だ。あいつは男だ……」
洋介は馬皇の様子を見て顔を赤くする。そして、その後に自己嫌悪なのか頭を抱えて馬皇は男であることを何度もつぶやき始める。
「田中君……いや、洋介君。詳しい話を教えてくれる?」
声色はいつも通りであるが妙に威圧感のある由愛の声が洋介を現実に引き戻される。洋介は由愛に戦慄しながらも言った。
「あ、ああ。それは去年の夏休みの時の話だ。あの時は―」
洋介はあの夏の出来事を思い返した。
おかしい。進めるつもりだったのに次回が回想回になった。とりあえず次回は馬皇と洋介たちの出会いを閑話として短くまとめてからなるべく本編を進めて行けるようにしようと思います。
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