渾身の一撃
外へと飛び出した馬皇たちが最初に見たのは光の柱が赤い輝きへと変貌を遂げている所であった。既に下半分は真っ赤に染まっておりその速度も心なしか早くなっているように見える。
「これは……少しまずいですね」
先ほどまでははっきりと向こうの世界が見えていたはずなのに赤い光に浸食された場所は大きく歪んでおりその歪みは時間の経過と共に酷さを増して先の方が見えなくなっていた。
「そんなにやばいの? ケイスケ」
ケイスケが冷や汗を流して呟いた言葉について真央は問い詰める。ケイスケも真央の指摘に少しだけ冷静になったのか軽く咳払いをすると話し始めた、
「真央様は世界をつなぐための装置に私が利用されていたことを知っていますね?」
「そう言えばあんたの頭だけがあの機械に取り込まれてたわね」
「どういう状況だよ?」
真央がしみじみと言うと馬皇は状況が理解できないのか真央に聞いた。
「別に分からなくてもいいわ。それよりも脱線したけど説明して頂戴」
「仰せのままに。私を利用していたのは私の脳から知識を直接取り出して座標の特定を補助していたのですよ。情報自体は私の研究の装置からそのまま流用したんでしょうね。そのために私がある間は奇跡的に安定していましたが途中で真央様が召喚しました。どうなると思います?」
ケイスケの言ったことに真央は顎に手を当てて考え込む。空間をつなげていた通路の座標がいきなり無くなり不安定になった空間が元に戻ろうとしている所まで真央は想像する。そして、それによって起こる被害も。
「なるほど。確かにそれはまずいわね。それで……装置の方には安全装置なんかも着いていたはずよね?」
「はい。確かに存在しますが……」
真央の問いかけに対してケイスケはばつの悪そうな顔をする。曖昧な返事をする彼をじれったく思ったのか若干苛立った様子で真央は言った。
「じれったい。早く言いなさい」
「世界と世界のつながった空間には常に空間の元に戻ろうとする力が働いています。それを利用して作られたのが安全装置です。10人程度が一斉に入れる穴まででしたら何とかなったのですがあそこまで大きくなると逆に世界と世界が接触し合って拡大してくんです」
「そう」
ケイスケは申し訳なさそうな顔をするが真央は想定通りだったのか淡白に返事をする。
「それで、どうするんだ? さすがに俺でも1人じゃ無理だぞ」
馬皇がそう言うと解決方法を考えていた真央は思考を邪魔されたことにいら立った様子で言い返す。
「ええい‼ 馬皇うるさい‼ 今どうすればいいか考えてるんだから‼ ……は? 今、なんて言ったの?」
馬皇の言葉の中に聞き捨てならないことが混ざっていたことに真央は気が付き馬皇の方へ詰め寄った。馬皇は真央が急に詰め寄ったことに少しばかり慌てた様子を見せる。
「だから‼ どうするんだ? って言ったんだよ」
「それより後‼」
「あ? 俺でも1人じゃ無理だって言ったが?」
「あれって修復出来るの?」
真央は空間の裂け目に対して指をさす。
「あ? 疑ってるのか? 世界の裂け目だろ? ああいうのは俺が魔王してた頃は結構頻繁にあったぜ?」
「マジで?」
「マジで」
真央の言葉に馬皇は同じ言葉で返答すると真央は力が抜けたのか肩を落とす。
「はぁぁぁ。なら、修復の方法を教えなさい。1人じゃ無理ってことは何人かいればできるってことよね?」
「やることは簡単だ。世界の境界に二つ以上の魔力をぶつければいい」
「……ちょっと待って。そんな事して崩壊しないの?」
馬皇の解決方法に真央はむしろ崩壊しそうなイメージしかできなかった。
「大丈夫だ。詳しい原理については学者じゃないから分からんが勇者とやった時にはこれで無事解決したから問題ない」
自信満々に馬皇は答えるが真央は疑問に思ったことを告げる。
「は? それだったら、あんたと一緒に行動した勇者は向かった先の世界に取り残されてない?」
「大体、転移系の魔法で帰ってくるから問題ないみたいだったぞ」
「なら問題ないわね。他に何かある?」
馬皇の言った解決方法に概ね問題ないためにその方法を実践するために馬皇に確認を取るが馬皇は渋い顔をする。
「ただな……」
「ただ、何よ? まだ何かあるの?」
歯切れの悪そうな言葉を出す馬皇を真央は問い詰める。
「勇者の話だと、どうにも戻ってくる時の魔力の消費量が跳ね上がるらしいんだ」
「えっと……なに? この空間の境界をふさいだ後に無事に帰ってこれるのか怪しいって訳?」
「そう言うことだな」
真央はデメリットについて確認すると清々しいまでの馬皇の肯定に堪忍袋の緒が切れた。
「そう言うことは先に言いなさいよ‼ それは重要なことでしょうが‼」
「今思い出したんだから仕方ないだろ‼」
「「なにをっ‼」」
「はいはい。2人共落ち着いてください。それどころではないでしょう」
馬皇と真央が頭をぶつけて睨みあう。それをケイスケがそれを止めると息ぴったりに言葉が重なる。
「「だって、馬皇(真央)が」」
「仲が良いのは分かりましたから……。ごちそう様です」
ケイスケがそう言うと馬皇と真央は2人してひそひそと話し始めた。
「まずはあいつからどうにかした方が良いんじゃないか?」
「それもそうね」
馬皇と真央はケンカをしそうだったとは思えないくらい意見を一致させていらないことを言ったケイスケにどう報復するか話し合おうとする。
「聞こえてますから変なことしないでくださいよ」
「「分かってる(わ)よ」」
「っく‼ このお2人様はぁ‼」
さすがのケイスケも腹が立ったのか言葉の端々に怒りが漏れる。そうこうしている内に境界の侵食は進んでいるのか4分の3は真っ赤に染まっていた。
「っと。そんなことしてる余裕なんてなかったわね」
「そうだな。焦らなきゃいけないのに遊びすぎた」
「このまま考えてもらちが明かないわ。少し行ってくる」
真央は軽い買い物に行くような軽さで馬皇に言った。
「すぐ帰ってこいよ。待ってるからな」
「ええ。あんたと決着付けるのは当たり前でしょ? だから、すぐに戻ってくるわ。ケイスケ‼ 手伝いなさい‼」
「かしこまりました。真央様は魔力を温存してください。馬皇さん。私たちが合図を出しますので合わせてください」
「任せろ‼」
お互いに何を言う訳でもなく役割分担をあっさりと決めると真央とケイスケは侵食されていないリーングランデに繋がる道を通るために上へと飛び上がっていく。それに合わせて馬皇もいつでもブレスを放てるように力を溜める。
「おっと‼ 忘れる所でした。ブラスト・ランス」
魔法陣の中からケイスケは装置の方へ光の槍を放つ。槍は一直線に装置の元へ刺さり爆発する。
「これで装置が空間を拡大し続けるという事はないでしょう。合図は念話で送ります」
真央たちが侵食の速度が上がった道を急いで通っていくと境界は完全に赤く染まった。それと同時に世界は揺れ始めた。
「これは少しだけ不味いな」
『馬皇さん。聞こえますか?』
「ああ」
『良かった。つながった。真央様の準備が整いました。どうにもこちらの世界も崩壊しそうなのでやってしまってください』
「了解‼ はぁぁぁぁぁぁ‼」
ケイスケの合図と共に馬皇は目を閉じ腹の底から力をひねり出すように集中して魔力を限界まで引き出す。
「まだだ‼ まだいける‼」
限界にまで達した魔力からさらに力を込めて引き出す。引き出された魔力が小さな黒い竜である馬皇を黄金色へと染め上げる。
「来た‼」
その時は来た。馬皇は目を開けると限界を超えて溜めた力を解き放った。光の奔流は赤い境界だけでなく地球をも黄金の輝きで染め上げる。そして、境界の境になるところで真央の魔法とぶつかり合い拮抗する。その拮抗によって大量に拡散される魔素が崩壊していた境界を時が逆戻りするかの様に小さくなっていく。やがて、裂け目は馬皇のブレスよりも小さくなると飲み込まれブレスが貫通する。
「へっ……。やってやったぜ。だから、早く帰ってこいよ。真央」
真央の名前を呼んだ馬皇はそのまま力尽きたのか意識が真っ黒になりまっさかさまに落ちて行った。
入れない様に気を付けていたけど、忘れてなければ馬皇が真央の名前を呼んだのは初めてのはず。
いつも読んで下さりありがとうございます。
感想、批評、指摘、ブックマークなどしてくれるとうれしいです。




