プロローグ&二人は出会った
こんにちは。不定期更新ですがよかったら楽しんでいってください。
放課後の学校の屋上。授業も終わり用事が無ければ帰宅するか部活動に精を出すかでまず足を踏み入れないであろう場所。そんな人気のない場所で少年と少女はにらみ合っていた。
「先に言ったらどうだ?」
「そっちこそ?」
両者は短く言い合う。しばらくにらみ合うと無駄に威圧するようなポーズを取り始めた。そのポーズ自体には意味はないのか時々思い思いに自身の納得のいく姿勢や距離を変えてから相手をにらむ。しばらくすると納得いくポーズを見つけたのか2人は手の届く位置まで歩み寄り、両者は同じように両腕を組み仁王立ちで顔を近づけてにらみ合う。その姿は相対していると鏡合わせのように同じような姿勢を取っていた。
各々が納得いくポーズになると両者は動かなくなった。否、動けなかった。鏡写しのように同じような行動をしているので非常に不愉快であると言いたいことは分かってはいるのだが、先に変えるのはなんとなくお互いのプライドが許さない。そういった様子でそのポーズから固まったままそのまま我慢比べに突入する。
それがいつまで続いたのだろうか。異様に長く感じられる時間の中で、らちが明かないと思い始めた2人はどちらが先か分からないタイミングで言った。
「「このままではらちが明かない(わ)」」
「「マネすんなよ(しないでよ)」」
2人は同じことを呟くといつまでも続くであろうにらみ合いが再開した。
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運命と言うものがあるのならばこれが始まりであるだろう。始まりは中学2年の始業式の日。新しい学年。新しいクラス。校門の前には桜の木が満開で生徒たちを歓迎している。ある程度は慣れたと言っても160人弱が約30人単位でランダムにクラス分けがなされるために新しいクラスの教室では見知った顔と知らない顔が入り混じる。昨年は互いにクラスが違い関わることが無かったために気が付くことはなかった。
しかし、幸か不幸か。2人は出会ってしまった。お互いに気がついたのはHRの自己紹介。お互いに目が合った時から気がついた。いや、本能的に感じ取ったのである。こいつは敵だと。絶対に相容れない。戦うべき、打倒すべき相手であると。
「負毛 馬皇だ。約1名以外は今年1年よろしく頼む」
馬皇はぶっきらぼうにそう言うと座りなおす。本人の体格も相まって椅子に座るとイスが悲鳴を上げた。馬皇が中学二年生なのだが2mにも届きそうな大きさである。また、体の大きさと共にかなり体格は良い。髪は短く見た目はそれなりであるがどう頑張って見ても中学生には見えない。スーツを着せればどこぞで要人警護でもしていそうな風貌であり雰囲気も見た目通りに力強そうだった。
「真田 真央。趣味は読書。約1名以外はよろしく」
馬皇と同じように不機嫌そうな顔をして真央は自己紹介すると直ぐに座った。真央の体形は中学二年生女子の平均ぐらいであろうか。短く切りそろえられている髪とブレザーの上からでも分かるくらいの細さと整った容姿。大馬中学の制服であるブレザーと合わさっても普通であれば中学生らしい可愛らしさが引き立つものだが真央が着るとなぜかどことなく蠱惑的な印象を与えた。まず間違いなく美少女であるが目つきの鋭さから馬皇とは違った意味で少し近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
2人の間が険悪なのは明らかだった。どちらからも異様な威圧感を放ってお互いをにらみ合っている。2人の視線がわずかに交差すると周りの空気がさらに重くなる。その雰囲気は放課後まで続き、放課後に突入してもお互いに意識しているのか視界からは外さない。両者の仲のいい友人たちですら馬皇と真央の雰囲気から今は離れている。
そして、何度目かのにらみ合いをすると2人は何を思ったのか同じタイミングで教室を出る。そのまま人のいない屋上まで付かず離れずのまま早歩きで向かっていく。そこまででの会話はもちろんゼロ。
それが朝までの出来事である。屋上に到着すると馬皇が気に入らないという気持ちを抑えて、真央は先に先制した。
「それで、あなたはどうしてここにいるの?私を倒した勇者?」
真央の言葉に何を言っているのか分からないというように顔をしかめてから馬皇は頭をかしげる。その様子に同じように真央も頭をかしげる。
「はぁ?何をいっているんだ? お前こそあの時の勇者じゃないのか? 俺だ。魔王だ」
馬皇は自分を指さして魔王であると主張する。風が吹き一瞬だけ間が出来きそこからお互いの主張から同じことを考える。意見が食い違っていた。どういうことだ? と真央も眉をひそめて頭をかしげたくなるが馬皇の言葉をもう一度訂正させる。
「何を言っているの? 私が魔王よ。あなたこそ勇者じゃないの?」
真央も自分で自分を指さして魔王だと主張する。真央の言葉でより混迷する。二人してどういうことか? 訳が分からないと首をかしげて同時に言った。
「「どういうこと(だ)?」」
2人は頭をかしげると馬皇から名乗り始める。
「俺はライトバルトという世界で魔王をしていたダリウス・イズバルドだ。お前そっくりの女勇者との闘争の果てにやられてこの世界に転生した」
「私はリーングランデという世界のマオよ。そこで魔王として過ごしていたけど侵略者であるあなたそっくりの勇者に殺されたわ」
お互いが前世の名前を出す。そこでようやくどうして食い違っているのかを理解した。あいつ(こいつ)は自分と倒した勇者に似ている。が、別世界から来た魔王なのだと。つまり全くの別人であることに。お互いに勘違いであることが分かったのだが、2人に謝るという選択肢はないのか馬皇が先に宣告をした。
「お前があの時の勇者ではないのは分かった。だが、それとこれは別だ。戦争だ」
「望むところよ」
売り言葉に買い言葉。馬皇の宣言と同時に真央は魔力を練り魔法陣が展開する。
「魔界の煉獄より生まれし業火の蛇よ今ここに」
少し遅れて馬皇は大きく息を吸う。同時に真央は詠唱を始めた。
「常しえより契約せし我が従僕よここに」
真央の足元が光だしてそれは幾何学模様の陣を創りだす。それは真央を中心に回転して魔力のこもった言葉に呼応する。対面の馬皇は口に溜めた力を吐き出すように解放する。
「がぁぁぁ」
「現れたまえ。ケロべロス」
力と力が今ぶつかり合う。
かに見えた。
「あれ?」
「えっ?」
馬皇の口からは確かに光が出た。だが、それはマッチの方がまだ太いと言えるような細さだった。目の前の光はバーナーのように真央に向かって伸びるが明らかに距離が足りない。伸びた炎の横合いから少し風が吹くと一瞬で消えて何も残らなかった。
一方、真央の魔法陣から出てきたのは陣の大きさとは対照的に小型犬のチワワが出てきた。今も身体を小刻みに震わせて飼い主であろう真央をじっと見つめている。しばらく可愛らしいつぶらな瞳による視線に耐えられなくなり真央はチワワをそっと抱きかかえた。
お互いにあまりにも残念な結果に互いにうつむき顔を真っ赤にして体を震わせる。羞恥のためか相手の壮大そうな詠唱の後の残念な結果のためか。先に言い出したのは真央だった。
「……っく‼ もう…ダメ‼ ブレス? ねぇ? それブレス? しょっぼ‼ まだマッチの火の方が役に立つわよ」
真央は耐えきれずに吹きだした。そんな真央を見て怒りのせいなのかそれ以外のせいなのか顔を赤くした馬皇は今もプルプル震えるチワワを指さした。
「お、お前こそ‼ ケロべロスを呼び出そうとしておいて出てきてるのは出てきてるの全く違うだろ‼ どこをどう見たらケロベロスになるんだよ‼ チワワじゃねえか‼」
怒りのせいではなかったようであった。馬皇も堪え切れず真央に言い返しすと声にこそ出してはいないが我慢の限界だったのだろう。大声で笑っている。真央も言われたことに動揺したのか慌てて言い返す。
「す、少し失敗しただけよ‼ この子は今世の下僕であるコアよ」
そう言って動揺していたのが悪かったのかと馬皇の炎と同じように抱きかかえたコアはあくびをするとひとりでに消えてしまった。
「チワワ……チワワか」
あまりにも呆気なく消え去ったコアを見た馬皇は少し同情したのか優しい顔つきでチワワを連呼した。それに真央はキレる。
「うるさいわね‼ 最近前世の事を思い出したからまだ本調子じゃないのよ‼ それでもあんたの役に立たない火種よりはマシだけどね‼」
「役に立たないとか言ってんじゃねぇ‼ ちょっと調子が悪かっただけだ‼」
「はっ‼ あれでちょっととか笑えるわ‼」
「なんだよ?」
「そっちこそ何よ‼」
二人はフンッ‼ とそっぽを向き意地を張り通す。が、お互いに不毛なことには気づいていた。しばらくちらりと目を合わせると同時にそらす。そして、どちらからかはともかく言い始めた。
「らちがあかねぇ」
「言わなくてもわかってるわ」
「そうか。なら、今回は引き分けにしないか」
「……まぁいいわ。そういうことにしといたあげるわ」
少し考えてからとりあえず馬皇の言葉に同調するが内心では何が引き分けよ。私の勝ちじゃないとか思っている真央である。その逆も同じことを考えているのであるが。真央の言い方に馬皇はイラッとするが大人の対応をしようと務める。
「そうか。勝負は次で決める。明日もこの場所に集合な」
「ええ。構わないわ。どこからでも掛かってきなさい。完膚なきまでに叩き潰した挙げるわ」
お互いけんか腰であるが今日の初となる戦いは引き分けで終結するのであった。