あやかし商店街(参) 七
それが気持ちいいのだろう。勇は目を瞑り喉をゴロゴロと鳴らしていた。
「それで、お前さんはあの猫の事が気になるのかえ?」
(うわー、率直に聞いたなぁ…菖蒲さん)
「あはは…」
と苦笑する真司。
勇は鳴らしていた喉を止め、今度はダラダラと冷や汗を掻き始めた。
(うわー…見てわかるぐらい動揺してる…)
「え、えええとですね、菖蒲様。こ、こここれはそそその…」
「ふむふむ。明らかに動揺してるのぉ。初心な奴め」
クスクスと袖口を口元に当てて笑う菖蒲に、勇は恥ずかしそうに顔を隠した。
まるで、両手で顔を洗っているみたいに見えた。
勇は落ち着く為に、軽く深呼吸をした。
「菖蒲様の言う通りです。俺は、あの美猫にほの字でございます。あぁぁぁぁ、言ってしまったぁぁぁ」
「美猫?へぇ、あの猫って美人なんだ」
真司がそう言うと、目をカッと見開いて真司に迫り、胸ぐらを掴んだ。
「お前の目は節穴か?!見たやろっ!?あの美しい横顔…憂いに満ちた瞳は月のような金色で…尻尾も滑らかで……ほぁぁ…」
うっとりとする勇に、真司は苦笑した。
すると、菖蒲が勇を抱っこし再び膝の上に乗せ、ホッとする真司。
「ほれほれ、声が大きいぞ?それに、ここは外。気をつけんしゃい」
菖蒲に言われ、ちょっぴりシュンとする勇だった。
「すみません…つい」
「それで、お前さんはあの猫に告白をするのかえ?」
「ええええ?!」
「あれ?しないんですか??」
「いや…そのぉ…なぁ?」
と、真司に問いかける勇。
(僕に、なぁ?って聞かれても…)
「あはは…」
「こりゃ、はぐらかすんじゃないよ」
「にゃぁ…」
しょんぼりと耳を垂らす勇。
「しかし、菖蒲様。俺は、彼女と話もしたことあらへんのです…」
「え、そうなんですか?」
真司の言葉にコクリと頷いた。
「話す機会が無かったのかえ?」
「はい…。彼女は見ての通り箱入り娘で、部屋から出た所を見たことあらへんのです」
「ふむ」
「それじゃぁ、告白も出来ないですね…」
真司は、考えている菖蒲をジッと見た。
「うむ!」
「「???」」
考えていた菖蒲は、自分一人が何かに対し納得し力強く頷いた。
真司と勇はお互い目を合わせ、菖蒲の頷きに首を傾げた。
(何か、いい案でも浮かんだのかな?)