あやかし商店街(参) 参
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―居間にて、勇含め四人と一匹は炬燵に入りヌクヌク…というわけでもなかった。
白雪は、あれからお雪から勇を引きはがした後、勇に謝った。
「すみません、お雪が…」
「あはは~、まぁ、いつもの事なんで大丈夫っすよ、白雪姐さん」
「もう…この子は、あれほど言っているのに…はぁ、困った子だわ」
と、勇の尻尾で戯れているお雪を見て白雪は苦笑した。
(まるで、困っているお母さんみたいだなぁ)
「あはは…」
と、真司も苦笑した。
すると、菖蒲が人数分のお茶を持ってきて、炬燵の上に湯呑を置いた。
「お雪も、まだまだ子供やからの。ほれ勇。茶じゃ」
「おぉ!これはこれは、有り難うございます!」
勇は菖蒲から湯呑を受け取ると茶を飲んだ。
それを見ていた真司は、不思議なものを見るような目で勇を見た。
「猫がお茶を飲んでいる…器用だなぁ」
と、感心する真司に対して、勇は茶が熱くて飲むのに苦戦していたのだった。
「うにゃっち!!ふーふーふー」
(あ、やっぱり猫舌なんだ)
「ふむ。お前さんの分は少し温めにしたつもりじゃったんたが…加減は難しいのぉ」
「宜しければ、私が冷やしましょうか?」
「いえいえ!大丈夫です!!」
「ねーこ、ねこ♪ねこ♪ねこねこ~♪尻尾、尻尾♪」
「こら、雪芽。勇さんの尻尾で遊ばないの」
「は~い」
「おや、素直じゃないか」
「飽きた!」
「ぷっ…あ。」
つい笑ってしまった真司。
案の定、お雪•白雪•菖蒲•勇からジッと見られていた。
真司は恥ずかしそうに長い前髪を触った。
「す、すみません…」
「ふふふ、別に謝らんでもええ」
「ふふ、そうですね」
「いや、私からにしたら笑われても困りもんなんすけどねぇ」
「あははー♪」
何とも穏やかで賑やかな雰囲気なんだろう、と真司は思った。
そして、ふと、思い出した。
そう、例の"アレ"の事である。
真司は、今だ!と思い、雪中梅という、降り積もる雪の中で咲き誇る梅をイメージにして作られた上生菓子を食べている菖蒲に聞いてみた。
「あの、菖蒲さん」
「ふぁんふぁ?」
「あ、あはは…あの、食べ終わってからでいいです」
口元を袖で隠して、モグモグと口を動かす菖蒲。
ゴクリと飲み込むと
「なんだ?」
と真司に言った。
「あの、勇さんと話していた"アレ"って何ですか?」
「あぁ、それはじゃな」
「酒や!!」
と、話に入ってきた勇。
「え、お酒?」
勇は、ふふんと鼻を鳴らすと腰に手を当て胸を張って立ち上がった。
「聞いて驚くなよ?人間!」
「はぁ」
「俺の所は、酒を作っとるんや!むふふふ~、凄いやろぉ凄いやろぉ~♪褒めてもええでぇ~むふふふ♪」
「あ、何となく酒屋なのは分かってたました」
「にゃ、にゃにゃにゃにぃぃぃぃぃぃ?!」
一歩下がって無駄に驚く勇に、真司は勇の背中を指差した。
「だって、ここに大きく酒って書いているし」
すると、勇は眼光を開いて
「はっ!!!う、迂闊やった!!!」
と言った。
(あはは…)
と内心苦笑する真司。