あやかし商店街(参) 二
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すると、チリンチリンと店のドアが開く音がした。
「おや珍しい。お客様かえ?」
「僕が見てきます」
真司はそう言うと炬燵から出て、店の方へと向かった。
(うぅ、寒い寒い)
そして、店に続く可愛らしいトトロ柄の暖簾を潜り、店の中を見回した。
「あれ?いない??」
真司は首を傾げた。
「下だよ〜」「下下!」「足元だよ」
と、周りの骨董でもある付喪神達が言った。
「下?」
と真司は皆が言う足元を見た。
そこには、黒と茶色のブチ猫がちょこんと座っていた。
「ね、猫??」
(・・・猫が服を着ている)
そう、猫は紺鼠色に背中に"酒"と大きく書かれた甚平を着ていたのだ。
それだけじゃなく、猫は二足歩行でスクっと立ち上がったのだ。
「これはこれは、お初にお目にかかります」
猫がペコリとお辞儀をした。
「しゃ、喋った?!」
「そりゃぁ、喋りますよ〜。何せ、俺は猫又ですから!」
と、尻尾をユラリと揺らす猫。
真司は揺れた猫の尻尾を見た。
(た、確かに二つある・・・)
「俺は猫又の勇と申します。あ、因みに、この名は新選組の近藤様からお取りになったそうです」
「・・・はぁ。」
と、関西混じりの言葉で勇は喋り出した。
「で、早速なんですけど、菖蒲様はいらっしゃいます?」
「あ、はい。ちょっと待ってて下さい」
という真司の言葉を無視し、勇は大きな声で
「菖蒲様ーーー!!」
と菖蒲の名を呼んだのだった。
すると、ぽてぽてと歩きながら菖蒲は暖簾を潜り店にやってきた。
「これ、大きな声で人の名を呼ぶんじゃないよ。全く‥‥お前さんは相変わらずやの」
「いやはや、これは失敬失敬。にゃははは」
と頭を掻いて笑う勇。
「菖蒲さん、この猫は一体‥?」
「猫じゃねーって言ってるやろ?!猫又や、猫又!」
「あ、そうでした。すみません」
(というか、猫も猫又も結局は猫じゃ‥‥)
と内心思った事を、菖蒲は感じ取ったのだろうか?
「猫も猫又も同じではないか」
と、呆れながら言ったのだった。
勇は腰に手を当て、不貞腐れた顔で
「違いますぅ」と言った。
「で、用はあれかえ?」
「はいっ!あれです!」
「??」
真司は一人と一匹が言う"あれ"が分からず首を傾げた。
そして、菖蒲にアレとは何なのか聞こうとした時だった。
「勇ー!!ねこーー!!!」
「こ、こらっ、雪芽待ちなさいっ」
「ニギャァァァァァァ!……ガク…」
ドタバタと店の奥から走る音が聞こえると思ったら、お雪が勢いよく現れ、そのまま勇を潰すのではないかという勢いで勇を抱き締めた。
抱き締められた勇はというと、口から泡を吹いてお雪の腕の中でだらけていた。
「おやおや」
と、少しびっくりし勇の哀れな姿を見てクスクスと笑う菖蒲。
真司は、すっかり菖蒲にアレとは何なのか聞く事が出来ずにいたのだった。
そして、泡を吹いて死んでいる勇を嬉しそうに頬ずりするお雪を見て真司は苦笑したのだった。