あやかし商店街(参ノ伍) 二
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「ふふん。凄いやろ人間」
いつの間にか近くに来た勇は、自慢気に言った。
そして、相変わらずルンバは何故か勇をゴミ認識していて、ひたすら吸い取ろうと勇に向かって突進していた。
それを見た真司は
(あ、もう諦めたんだ)
と思い、内心苦笑したのだった。
「真司、猫又の事は知っとるかえ?」
「ええと…尻尾が2本?あって、人に化けれるっていうことしか…」
「うむ。猫又には二種類の生まれ方がある。」
「二種類ですか?」
「一つは、随筆等に描かれている猫の妖怪。これも、人の想いから生まれたものやのぉ。そして、もう一つは、人家で飼われた猫が年老いて化けるというものじゃ」
「なら、勇さんは後者の方なんですね」
「そうや」
勇は、今までみたいに自慢気に言うのではなく、少し遠い眼差しで天井を見て言った。
「俺はな、もう、かれこれ150年ぐらい生きとる」
「え?!ひ、150年?!?」
真司は、その驚きの数字に唖然としていた。
「そや。俺んとこの酒蔵を設立した日や。その初代当主、清兵衞の飼い猫やったんや」
真司はポカーンとしていた。
周りの者は当然知っているという感じなのだろうか?のんびりとそれぞれお茶を飲んだりお絵かきをしていた。
「俺はな、生まれは野良やった。喉が渇いて渇いてしゃーなかった時に、まだ酒作りして間もない清兵衞と出会って、まぁ、水と間違えて飲んでもうたんや」
あははは、と笑う勇。
「普通は匂いでわかるもんや。でもな、静水みたいに澄んでて、匂いもわからんかった。それだけ、あいつの酒は上等やったということやな。まぁ、酒を飲んだ俺は、当然咽るわな。それを見た清兵衞は大爆笑やったわ。んで、何だかんだで気に入られて、俺は石井家に住むことになった。」
「へぇ〜」
「俺はな、あいつの失敗するところも成功するところも、ずっと見てきた。最期の日はな、俺も一緒に逝くはずやっんや。だけど、あいつは俺に言ったんや。」
《勇。お前に初めておうた時、俺はな、お前には何かを持ってる気がしたんや。それが何かはわからへん。》
《やから、こんな事をお前に頼むのは場違いかもしれへん。勇…この酒蔵の事を頼んでもええか…?》
《いや、ちゃうな。勇……酒蔵とその後続く子孫の事を…どうか、守ってやってくれ》
「あの時、俺も年老いてた。ま、普通の猫にしちゃかなり長生きした方やけどな。」
勇は真司のお茶を横取りし、ズズズーと音をたてながら啜った。
お茶は温くなっていたのだろうか?猫舌のくせに何の問題なく飲んでいた。
「んでな、俺は酒蔵と石井の代を任された。せやから、俺は死ぬ事を止めて猫又の里を探して旅を始めたんや」




