あやかし商店街(参) 十参
「どうぞー」
美希は、茶菓子をテーブルに置くと、丁寧な仕草で真司の前に紅茶の入った白いカップを置いた。
「有難う」
真司は微笑みながら言った。
「うん♪」
菖蒲も早速茶を手に取ると、茶を啜った。
そして、何故だか菖蒲だけは湯呑で日本茶だった。
美希は菖蒲と真司の前のソファーに座ると、勇を膝の上に乗せキラキラした目で菖蒲を見た。
「ねぇねぇ!怪我が治ったのってお姉ちゃんの魔法なん?」
菖蒲はゆっくりと湯呑を置いた。
そして、人差し指を口元に当てニヤリと笑った。
「秘密じゃぞ?」
その言葉に、女の子は更に目をキラキラと輝かせた。
「すごーい♪お姉ちゃんは、魔法使いなんやね!!」
「ふふふ」
「あははは…」
と、苦笑する真司。
「みゃー」
と、美希の膝の上に乗っている勇が泣いた。
美希は思い出したかのように、ハッとした。
「そうやった!ボルサノ!!お姉ちゃん達、ボルサノはこっちやよ」
そう言うと、勇を胸に抱き美希はリビングを出た。
菖蒲と真司は、お互い目を合わせるとコクリと頷いた。
そして、二人は美希の部屋へと向かったのだった。
✿
―ガチャ
「ここが、うちの部屋やよ」
美希の部屋に着くと、勇は美希の腕からストンと降りて、窓際のボルサノの傍に寄った。
「みゃー」
と、勇は照れくさそうに鳴いた。
すると、寝ていたボルサノの片耳がピクリと動いた。
そして、勇を認識すると
「みゃー」
と鳴いた。
その一鳴きに、勇は硬直してしまったのだった。
ボルサノはゆっくり起き上がると、勇の体に頭をすり寄せた。
「みゃーみゃー」
それを傍から見ていた美希は嬉しそうな顔をした。
「すっかり仲良しさんやね♪」
真司は、菖蒲の袖をチョンっと引っ張った。
すると、菖蒲は察したのか、真司の顔に耳元を近づけた。
その近さ、微かに匂う甘い花の匂いに、真司は内心ドキッとした。
「え、えっと…その…何だか、勇さん固まってませんか?」
何だか気恥ずかしくなったのか、ちょっぴり俯き気味でコソコソと喋る真司。
「うむ。猫語の事は、よう分からんが、緊張でもしてるかもしれんのぉ」
「だといいんですが……」
チラッと真司は勇を見た。
すると、勇はぎこちない動きで真司を見ると、真っ青な顔をして真司に飛びかかったのだ。
「うわっ!!」
真司は急に飛びかかって来た勇に驚き、勇を落とさないように抱き抱えた。
そして、小声で勇に話しかけた。
「どうしたの?」
「緊張でもしたかえ?」
勇は勢いよく頭を横に振った。
…どうやら違うらしい。
「ボルサノ、おいで〜」
「にゃー」
美希はボルサノをヒョイッと抱き抱えると、真司と菖蒲なボルサノを紹介した。
「この黒猫が、私のお友達で家族のボルサノやよ♪」
「ふむふむ。綺麗な毛並みじゃなのぉ〜」
ボルサノの顎を撫でる菖蒲。
「にゃー」
気持ちよさそうにするボルサノと反対に、真司に抱き抱えられている勇はプルプルと震えていた。
「ふふふ。何とも人懐っこい猫じゃ」
ボルサノは菖蒲の手に頬をスリ寄せたり、ペロペロと舐めていた。
「可愛いですね」
「うむ」
ボルサノは勇の事が気になるのだろうか、勇に近づこうと顔を近づけた。
勇はビックリしたかのように、毛を逆立てた。
美希は、そんなボルサノの事は気にぜず、ずっとニコニコ笑ってボルサノの腹を撫でた。
「もふもふ〜」
勇は真司の服をクイッと引っ張った。
「ん?どうしたの?」
真司は勇が何かを言おうとしているので、勇の顔に耳元を近づけた。
「は、はははよ帰ろう!今すぐ帰ろう!ていうか、帰りたいっ」
「え?どうして?」
「え、ええから、帰るんや!」
真っ青な顔をして慌てている勇に真司は「わかった」と言って、菖蒲に声をかけた。
「菖蒲さん…勇さんが」
菖蒲はそんな勇と真司を見て、軽く頷いた。
「うむ。美希よ。来たばかりで申し訳あらへんが、私らは、そろそろおいとまするよ」
「えー、もう?」
「ごめんね?どうも、猫の調子が悪いみたいだから」
真司はその場逃れの嘘をつき、美希の頭を優しく撫でた。
すると、菖蒲も美希の視線に合わせるようにして少し屈んだ。
「すまんの」
美希は少し頬を膨らませていたが、菖蒲を見るとニコリと笑った。
「ううん。猫さんの調子が悪いなら仕方ないよ。また、遊びに来てくれる?お姉ちゃん」
「うむ」
(…あれ?僕は?)
「お兄ちゃんも来てくれる?」
「え?!あ、うん!」
真司は、もしかして自分は忘れられてる?と思い苦笑したが、どうやらそうでもなくて心無しホッとしたのだった。
(それにしても、菖蒲さんって、やっぱり子供でも人気なんだなぁ)




