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あやかし商店街(参) 九

(まぁ、その方が助かるんだけどね…)


そう思い、真司は自身の右手首にある赤い数珠を見た。

中心には金の鈴に菖蒲の花が彫られていた。

そう…これは、真司が初めてあやかし商店街に来た時に、菖蒲がくれた物だった。

通常、あやかし商店街に行くには子の正刻(数字でいう0時)に橋を渡らなければいけない。

しかし、この数珠のブレスレットを付けると、朝でも昼でも夕方でも、どんな時刻でもあやかし商店街へと辿り着けるのだ。

真司は、辺りに人が居ないか、誰も見ていないかを再度確認すると、銀朱色(ぎんしゅいろ)の橋に一歩足を踏み入れた。

すると、"あかしや橋"という文字はユラリと視界が揺れるようにして"あやかし橋"へと変わり、橋の先には大きな朱色の鳥居が建っていた。

そして、橋を渡り鳥居を潜ると、ワッと一気に賑やかな商店街へと辿り着いた。

「今日も賑やかだなぁ~」

賑わう商店街通りを見て呟いたが、真司は他の妖しとなるべく目を合わせないように少し俯きながら、菖蒲の骨董屋へと歩いて行ったのだった。

そして、妖しが少ない細い裏道から行こうと曲がり角を曲がった途端、ドンっと何かにぶつかった。

「っ!!」

どうやら、ぶつかったのは人の姿をした妖しらしい。

挿絵(By みてみん)

「ご、ごめんっ!!だいじょ……」

お雪ぐらいの年の妖しに"大丈夫?"と声を掛けようとしたところで言葉は止まり、真司は目の前にいる人の姿をした妖しの瞳をジッと見つめてしまった。

正確には、見とれてしまったのだった。

目の前の妖しは、肌が陶器のように白く、髪は綺麗な金髪で前下がりのボブカットだった。

そして、真司が驚いたのは女の子か男の子か分からない中性的な容姿もそうだが、一番驚いた…否、見とれてしまったのは、その瞳だった。

つぶらな大きな瞳は、左右とも色が違うのだ。

所謂、オッドアイというやつだ。

右の瞳は、まるでブルートパーズみたいな透明感のある、硝子のように透き通った薄い青。それに対し、左の瞳は右よりも色は濃いが、しかし、それも淡い緑だった。宝石で例えるならアベンチュリンに似ていた。

淡い緑が、まるで自然の緑を思わせてくれるようで、見ていると心が和みそうだった。

「…あの…大丈夫だから……そこ、退いてほしい…」

「…え?あっ!!!ご、ごめんっ!!その、君の瞳が珍しくて綺麗だから…って、こんな事言っても困るよね?あはは」

と苦笑し、頭を掻く真司。

少年もしくは少女は、真司の言葉が嬉しかったのだろうか?少し頬が赤くなって口元の口角が上がっていた。

「そういえば、君もこの裏道を使うの?君も妖し…だよね??」

「…うん。でも…人が多い所は苦手…だから」

「そっか。なら、僕と同じだね」

お雪と話すように目線を合わして、真司は目の前の性別不明の妖しと話した。

「僕も、ここに来るのにはだいぶ慣れたんだけど、やっぱり…まだ少し、ね。だから、菖蒲さんのお店に行く時は、極力この道を通っているんだ」

妖しは、真司の"菖蒲"という言葉に反応した。

「あやめ?…もしかして、貴方は宮前真司さん…ですか?」

真司は、目の前の妖し名を呼ばれキョトンとした。

「え?う、うん。そうだけど…?」

「貴方が…そうですか。」

「???」

真司は訳がわからず首を傾げた。

「…僕…菖蒲様から迎えに行っておいでって言われて…」

「え、そうなの??…そっか。なら、早く行こうか♪」

真司は、目の前の妖しの小さな手を優しく握ると菖蒲の店へと歩き出したのだった。

「…………」

手を握られた妖しは、最初はびっくりし前を向く真司の顔をチラリと見上げた。

そして、また、口角を少しだけ上げたのだった。



―菖蒲宅(付喪神の骨董屋)



真司と例の妖しは、骨董屋の裏口を開けた。


―ガラッ


「こんにちは」

「いらっしゃーーい!」

「あ、雪芽、待ちなさいっ!!」

ドタバタとやって来たのは、お雪だった。

お雪は、いつもの恒例の衝突挨拶を真司にする。(本人に悪気はない)


―ドンッ


「げふっ!」

パタパタと小走りで雪芽を追いかけてやってきた白雪は真司の傍に来ると

「だ、大丈夫ですかっ?!」

と言った

「いつもの事なんで、あははは…」

お雪を受け止め、お雪の頭を撫でながら苦笑する真司。

そして、真司の後ろにいる子供の妖が「ただいま…」と小さな声で言った。

「星ちゃん、おかえりなさい」

恥ずかしそうに、黙ったまま頷く妖の名は"(せい)"というらしい。

そこで、真司は「ん??」と何かを思い出すように考え始めた。


(星…?どこかで聞いたような…)


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