私の選択
雑誌は立ち読みをせずに買え! と私は思う。
店の収入になるし、その先には作品を描いた作家がいる。
立ち読みをされてボロボロに敗れた雑誌でも、ちゃんとお金を支払って購入してくれる人もいるのだ。
文句も言わず悪態もつかずにボロボロの雑誌を購入してくれる人に対して、とても申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
漫画雑誌がなくて気落ちしている少年は、紙パックのお茶と駄菓子を買って店を出た。
お茶と駄菓子のために使ったお金で漫画雑誌を買えばいいのにと思いつつ、少年の背中を見送っていると、お客さんが立つ気配を感じた。
チラリと視界に入ったのは、パンと紙パック入りの野菜ジュース。
「いらっしゃいませ」
笑顔を作って購入者の顔を見た私は、胸中で毒づいた。
年齢はさっきの少年と変わらないと思う。
しかし、性別はどっちだ。
黒い短髪に、化粧をしていない中性的な顔立ちが憎らしい。
バーコードを読み取るPOSシステムを起動させるにあたり、購入者の大雑把な情報を入力しなければならない。
マーケティングや商品開発などの参考にされる、統計を採取するための大切な情報源。
目の前にいる購入者をどちらの性別で入力するか、大勢に影響はないだろうけれど、見分けがつかないとムズムズする。
胸のふくらみも、上に羽織っているジャケットのせいでどちらとも受け取れる。
あとは、声で判断するしかない。幸い、この人が買おうとしているパンは温めても美味しいという代物だ。
「パンは、温めましょうか?」
購入者は頷いた。
見当が外れた。この購入者は喋らない。
電子レンジの温めを押し、次なる手段を考える。
まつ毛は、長い。肌の色も白く、肌理が細かい。ファンデーションも付けていないのにサラッとしている肌が、私はとても羨ましい。
顎は細く、唇は小ぶりで少しプックリとしている。リップは塗っているようだけど、男性も女性もリップクリームを塗る時代なのだから判断材料にはならないと思う。
電子レンジが音を鳴らす。
時間を引き延ばす手段がなくなってしまった。
ああもう、こんなにカッコイイんだ。独断と偏見どんと来い!
長く感じた葛藤の時間に判決を下す。
この購入者は、男性だ!
POSシステムに情報を入力して金額を告げ、温めたパンをビニール袋に入れる。お釣りを手渡して笑顔を作り、ありがとうございましたと、お決まりのフレーズを口にした。
「どうも、お世話になりました」
会釈と同時に購入者の放った声音の音域は、紛れもなく女性のソレ。
どっと敗北感が押し寄せた。
仲間内で書いているお題作品です。
今回のお題が『コンビニ』でした。