Die Application
俺は、夜人の家から出ると、まだ家に帰るまで時間があったから、新しくダウンロードしたゲームで遊ぶことにした。
アプリを開けると、利用規約を読まなければいけなかった。 さっさとスクロール。もちろん、読むわけがない。長すぎる。
そして、「同意しますか?」という選択肢で、「はい」を押した。
すると、サイコロが出て来た。
「更新データを読み込んでいます。 もう少しお待ちください」
最悪。
俺のスマートフォンは3G回線だから読み込みが遅い。
1%、2%……。
俺は、画面をみるのが嫌になり、 空を見上げた。
すると、顔に何か冷たいものが当たる。
それは、雨だった。
やばい。 本降りになったら困る。
俺は、休む間もなく家に帰らなければいけなくなった。
走って家に帰ろうとすると、予想は的中。
本降りになってきた。
ばちばちと、結構新しい制服に雨が打ち付ける。
俺は、制服を守るために、鞄を傘にして走ることにした。
暫く走っていると、前には俺の家が。
安心して、家に入る。
「ただいまー」
そういうと、家の中から「おかえり」と優しい声が聞こえた。
母さんだ。
靴を脱いで、散らかしたままリビングへいく。
すると、母さんはリビングで座って音楽を聞いていた。
「靴、 ちゃんと並べた?」
母さんが、イヤフォンをつけたまま、俺をみる。
「うっ……ごめん」
慌てて玄関に戻ると、靴を並べる。
高校生になってもまだ並べる習慣がつかない。
自分でも、困ったなぁとは思うけど、まぁ仕方ない。
そして、またリビングに戻る。
母は、にこっと笑っていた。
俺にではなく、音楽を流す母のスマートフォンに向かって。
母は、優しいがこの頃、スマートフォンに向かっている時間が長くなった。たまに飯を作るのも忘れて音楽を聞いて、父と口論になることもある。
やはり、母もストレスが溜まるのだろう。
俺は、静かに二階の自分の部屋にいく。
「ふぅ……」
母もストレスが溜まるだろうが、母だけじゃない。
俺も父も、ストレスのせいで物に当たることが多くなってきた。
この家族の中で一番正常なのは、きっと俺だと思う。
俺は濡れている鞄をタオルで軽く拭いた後、スマートフォンをとりだす。
そして、もう一度アプリを開けると、更新は終わっていた。
早速、会員登録にかかろうとしたが、服が濡れたままだ。
これでは風をひくかもしれない。仕方なく、先に着替えることにした。
制服を脱ぐと、Tシャツと半ズボンに着替えた。
そして、脱いだ制服は洗濯機の近くにおいておく。
制服をおくと、自分の部屋に入る。
スマートフォンの電源をつけ、アプリを開ける。
会員登録の画面で止まったままだ。俺は、入力を始める。
「ニックネームを入力してください」
……うーん、ニックネームなににしようか。
後で変えられるらしいから、適当に「まー」にしておいた。
「メールアドレスを入力してください」
メールアドレスも書き込む。
もう一つの確認画面にも、メールアドレスを書き込む。
そして、最後にパスワード設定。
なににしよう。 と考えた末に「1234mkt」にしておいた。
「makoto」を略して「mkt」だ。「1234」に意味はない。字数を補うためにつけただけだ。
そして、OKボタンを押す。これで、登録完了だ。
「ゲームを始めますか?」
と、サイコロが喋る。俺は、「はい」を押す。
すると、サイコロがぴょーんと飛んで人生ゲームのようなマップの一番最初に止まった。
そして、ふきだしがでてきて説明をはじめた。
「まず、サイコロを振ります。 そして、でた目の数だけ進みます。 そして、止まったマスで敵と戦います。 負けたらコンティニューするか、ゲームオーバー。勝ったら、またサイコロを振ります。 それを繰り返して、最後のマスでボスと戦います。 そのボス勝ったら、ゲームが終わり、ゲーム成功ということになります」
サイコロは丁寧に説明してくれた。
そして実践。まずは一マス目で戦ってみる。
敵は、魚が女の子に擬人化したような可愛い奴だった。
俺のキャラクターのまーは、その女の子をナイフで切っていく。なんとも可哀想だが、ゲームだから仕方が無い。
ばんばん倒して行き、とうとうボス戦へ。
ボスは、魚が女に擬人化した奴を大きくしたような奴だった。これもまた、 ナイフで切っていく。
ずっと切っていると、突然相手が倒れた。
今までのやつは、倒したら消えていったのだが、ボスはなんとそこに倒れたのだ。
「あれ? これで終わり?」
画面がフリーズしたように動かない。でも、まー だけは動く。 周りは動かない。
そして、十秒位経った頃……クリア! と画面に大きな文字が表示された。
俺はホッとして、画面をタッチ。
すると、マップの画面からサイコロが沢山うつった場面へと変わった。
「突破おめでとう! 」
と表示されて、沢山のコインが手に入った。
ーー面白かった。これはいい。
そう、直感した。
ストレスをモノに当たって発散していた俺にとって、このゲームはちょうど良かったのだ。
このゲームは、俺のストレスを解消するためのいい道具となった。
それからというものの、このゲームをしてばかり。
母さんに「ご飯よー」と呼ばれても、「んー」と適当な返事をして、母に呼ばれてから一時間くらいはゲームばかり。
父の諌めも適当に聞いて、部屋に戻ったらまたゲーム。
飽きなかった、面白かった。
夜人もいないから、朝に外にでても誰もいない。
街のベンチに座って、一日ゲーム。
このゲームの日々は暫く順調に進んでいた。それに合わせてゲームもどんどんクリア。 難易度も上がってきていた。
しかし、ある日。 邪魔者が入ってしまったのだ。
「ねぇねぇ、もしかして真人?」
後ろから聞こえた声……それは、雪だった。
俺は振り返り、
「おぉ、雪じゃねぇか」
と返事を返した。
すると、雪は素早く俺の手からスマートフォンを取り上げるとゲームの画面をみた。
そして、ぽつり。「あ、これ夜人もやってた」と。
「え、まじか!」
それを聞いた時、俺は思った。
これは、フレンド機能があり、フレンド申請を送ることができる。 なら、雪は夜人のフレンドコードを知っていれば、夜人のスマートフォンにつなげる。
そして、それを思った後、(あの時、電話番号とかメールアドレス交換しときゃよかったー)とも思った。
自分が考えたことを雪に話すと、雪は、
「私、夜人のフレンドコードとか知らないよ……ごめん」
といった。
まぁ、当たり前。
あんな数字の羅列、覚えている訳がない。
まず、覚える必要がなかった。
俺は、その雪の言葉を聞いてから思い出した。
俺にゲームを紹介したのは、夜人。
なら、絶対にこのゲームはやっているはずだ。
なのに、今頃こんなことを思ったって意味がない。
でも、なんか夜人がいなくなった日の記憶が薄れているような気がした。
それは、気のせいなのだろうか。
しかし、昨日の晩御飯も言えるし、夜人がいなくなった日の晩御飯も言える。記憶力は良い方だ。あの放課後での記憶だけが薄れているのだ。
あの時、僕が話しかけたのは、教頭だっけ、担任だっけ?
目の前の雪は、少し申し訳なさそうな顔をしていた。