親友の存在
俺は、手にもったスマートフォンを眺める。そして、電源をいれてみた。
パッと画面が明るくなって、ロック画面がでてきた。初期設定は母がしているのだろうか。
そういえば、箱を開けた時に梱包材は入っていなかった。なら、母が一度開けたのだろう。まぁ、そういうのはきにしない。あの人はいつもあんなものだ。
でも、困った。パスワードを聞いていなかった。とりあえず、思い当たるパスワードをいれてみる。
「makoto」と入力。
すると、画面に「パスワードが違います」と黒い文字が表情された。
次は、「MAKOTO」と大文字で入力。
そしたら、見事クリア。ロック画面がホーム画面へと変わった。大文字か……すごく簡単じゃないか。まぁ、いいや。
俺は、スマートフォンの画面をいじりながら、街を歩く。
「よぉ、真人! お前、いいもん持ってんじゃん!」
後ろから突然声がした。本当、突然だった。
この声は、確か白野 夜人だ。俺の数少ない友人で、幼馴染。
黒い髪に、黒い目。の筈なのだが、本人が「かっこいいだろ!」といって茶色いカラコンをいれている。服装は、もちろん制服。今から学校に行くのだろう。
制服姿のこいつに会って……いや、遭ってしまったらもう学校へ行くしかない。
「はぁぁ……」
と、俺はため息を吐く。
夜人は、
「なんだよー、俺みてため息つくとか傷つくぞー」
とかなんとかいっている。
(傷ついて、できれば、寝込んでくれ。そして、俺を不良にさせてくれ。)
なんて、つまらないことを思いながら、今まさに学校へいこうとしていたんだ、という表情で夜人の横につく。
「まー、いーよ。 一緒に学校いこーぜ! ついでに、そのスマフォ見せろ」
「一緒に行くのはいいが、スマフォを見せるのは嫌だ」
「お前に否定する権利はない!」
夜人は、器用に画面をスライドさせている。
あいつ、なにをやってるんだ? 俺は、首を傾げる。
「なぁ、そういや妹は?」
あいつのやってることも不思議だが、いつも一緒の妹がいなければ、少しは気になるものだ。
「あぁ、雪? あいつ、風邪で寝込んじゃってさー
」
あはは、と苦笑いしながら俺にいう夜人。
へぇ、馬鹿は風邪をひかない、というのは嘘なのか。
つまり夜人の妹、つまり雪は、美少女だ。黒い肩までのショートカットヘアーに、澄んだ黒い目をしている。肌は白い。丸菜学園の白いセーラー服がとても似合う高校生。だが、残念な美少女のタイプ。なぜなら、馬鹿だからだ。
頭の悪さは俺でもびっくりだ。 一月は何日あるか、そんなことも曖昧だし、難しい文章題なんかは読めやしない。
夜人も、あまり頭はよくないが、ここまでではない。まぁ、落第とかそんなものには絶対にならない。
俺も、悪くない。学校は、夜人に遭わない日は大体休んでいるが、夜人に遭わない日の方が少ない。あ、ちなみに会う、じゃない。夜人の場合は、正に“遭う”なのだ。
俺は、遭わないように気はつけているが、何故か行くところ行くところにこいつがいるのだ。だから、学校まで行くわけだ。
「おい、真人。 いいこと教えてやろーか?」
夜人が、“聞いて、聞いて”という犬のように目を輝かせて言う。
「いや、別に教えなくていいよ」なんて言えたら、楽なものだ。だけど、それは流石の俺もできない。
こんなに話したそうにしているのに、聞かない、なんていう選択肢はないのだ。
「なんだ? 」
俺は、さらりとGOサインを出す。すると、夜人は嬉しそうに笑うと、話しはじめた。
そういうと、夜人は俺の手からスマートフォンを取り上げた。俺は、もう一度「はあぁ……」とため息をついた。
そんな声は、夜人には聞こえていないようだ。
「このアプリ、知ってるか? 有名なアプリなんだぞ?」
と言って、夜人は、俺に画面を見せる。
画面には、「Die Application」という名前のアプリと、その詳細が表示されていた。
サイコロの絵が書かれていて、確かに面白そうだ。
「へぇ、どんなやつ?」
俺は、聞いてみる。
夜人の説明はとても長かった。その長い長い夜人の説明を短くすると、このゲームは、まず、人生ゲームのようにサイコロをふる。次に、出た目の数だけ進み、そのマスにいる敵と戦う。そして、最後のマスでボスと戦い、勝ったらダンジョン突破、というシンプルなゲームらしい。
聞いてみると、興味が出てきた。
詳細は、大体夜人から聞いた分だけだろう。
俺は、詳細はあまり気にして読まずにダウンロードすることにした。
「パスワードを入力してください」
と黒字が画面に表示される。
今度は、慣れた手付きでパスワードを入力。
「OK」と画面に表示されたかと思うと、ダウンロード開始だ。
ダウンロードが始まったので、画面から目を離す。
すると、目の前にはもう丸菜学園高校がどーんと建っていた。
「ちぇっ、 もーちょっと話すことあったんだけどなー。 まー、いっか。 放課後、会おうぜっ」
夜人は、口を尖らしながらそういう。そして、走って門に入って行った。
夜人を見送ったあと、画面をみる。
「ダウンロードが完了しました」
と表示されている。
俺は、それを確認すると電源を切り、鞄にスマートフォンを押し込む。
そして、学校にはいっていった。