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エピローグ -輪廻は終わらない-

【エピローグ】


 また、一日が終わる。

 明日は、俺が生まれてから89026日目。

 もう、嫌だなぁ。

――でも、もうそのカラクリは終了した。だから、俺が生きたのは89025日になるってことだ。――



『ねぇ、生きてる価値ってなんだと思う?』

“あの人”は、昔にそう聞いた。

 生きてる価値って、なんだろう。

 俺には、検討がつかなかった。

「んー。 わからないなぁ」

 苦笑いしながらそう言うと、“あの人”は、いつも愛らしく笑う。

『そーだよね。 分からないよねぇ。 ボクも分からない。 命って、本当に必要なのかなぁ』

 “あの人”は、すべてが正しい。あの人は、存在自体が正しいのだ。

「そーだな。 それよりもさ、“狂った子供(チルドレン)”はさ、自分のこと、どう思ってるの?」

 俺は、すっと話題を変えようとする。

 だけど、彼女はそれを許さない。

『んー、いきなり話題を変えるのは好ましくないね。 それから、異名で呼ぶのは良くない。 ボクには、ちゃんと名前があるよ』

「うーむ。 君は昔から難しいなぁ」

 ははは、と俺は笑う。あの人も、にこりと笑う。

 本当に、可愛いなぁ。あの人をみていると、とても癒される。

 あの人は、いつも赤いワンピースをきていた。毎日、同じ赤いワンピース。全部、真っ赤っか。レースの裏までぜーんぶ綺麗なほどに真っ赤だった。

 いつの日だったか、服装がなぜいつも同じなのか聞いたことがある。すると、あの人はこういった。

『あなたも、大切なものはあるよね? これが、ボクの大切なもの。 だから、この服が好きで、毎日着てるんだよ』

 彼女は、ワンピースを手で優しく撫でながらそう言った。




 こんな過去の記憶が、今更思い出される。もう、何年前のことか、見当もつかない。

 俺は死んだ。だから、もう、スマートフォンの管理画面を見ることもできない、“傍観者(ノーサイド)”にからかわれることもない。まぁ、普通の人間に戻った、って感じなのかなぁ。

 でも、それでもいいよなぁ。あの人が生きてるだけで、俺はもう幸せだ。

 俺は、あの人のために死んだのだから、異議などは唱えない。これは全て、あの人のためだから。


「ボクはね、あの男の子がなんか気になるんだよ、ほら、あの男の子」


 一年前に聞いたあの人の言葉。

 あの人が指差していたのは“傍観者(ノーサイド)”だった。

 “傍観者(ノーサイド)”は、昔から誰にでも好かれていたなぁ。

 確か、あの人が好いていたのは“傍観者(ノーサイド)”だけだったし。


 今でも、あの人を思い出すと、心が嬉しい気持ちでいっぱいになる。

 あの人は、本当に正しい。だから、人を幸せにしてくれる。

 もし、人が生まれ変われる、という言葉が本当だとしたら、今度もあの人と関係のある人間になりたい。

 


――あぁ、あの人にこんなにも洗脳されてしまったのはいつからだっただろう。――

 でも、きっと。洗脳なんていったら、あの人は、

「洗脳なんて、人聞きが悪いね。 その表現はよしてくれ。 正すならば、あなたがボクに惹かれた。 それでいいんじゃないか?」

とか、言うんだろう。

 だけど、もうあの人に皮肉も冗談もからかいも言えない。そう思うと、少し心が痛んだ。

 いい年して、そんなのっておかしいよなぁ。

 それでも、俺はあの人の為に、なんでもする。

 きっと、台本は“傍観者(ノーサイド)”が、所持しているだろう。それを、あの人が取ろうとして、また仲良さげに闘うんだろうなぁ。

 どっちが負けるんだろう。否、どちらも負けないね。

 二人が勝つ。もう、勝負の原理なんて、二人にはないんだろう。

「どちらかが勝って、どちらかが負ける」そんな原理は二人にはない。

「ボクが勝ったといえば、ボクが勝ったことになる。 それで、ボクがあなたも勝ったといえば、あなたも勝ったことになるんだよ。 だって、ボクはすべてが正しいんだからね」

 そんなことを言って、笑いあってることだろう。

 あの人が、なんであんな性格になったのか、俺には分からない。でも、昔はそんな子じゃなかったような気がするんだけどね。




 ところで疑問なんだけど。

 俺って、確か撃たれて死んだはずなのに、なんでここまで意思が持てているんだろう。

 身体の感覚も元通りになっているし……。なぜか、目を開けることができた。

 周りは、一面の花畑だった。

 そこには、一人の少女が立っていた。

「ねぇ、君」

 俺は、彼女に話しかけた。

 すると、彼女がゆっくりと振り返った。

「――――」

 彼女は、何かを言った気がする。

 だけど、俺には聞こえなかった。

 あぁ、俺は彼女を知っている。

 あの、憎たらしい、俺の最愛の人が、俺の目の前には立っていた。


 彼女が、俺に近づく。そして、俺の手をとる。

 それで、また、俺の人生は始まった。

 ――89026日の朝が始まる。――


「おはよう、時雨。 生きてるか?」

「あぁ、おはようございます。 生きてますけど……朝からその挨拶は心に刺さりますね」

「ははは、それもそうだね。 まぁ、それくらいの挨拶じゃないと、私の異名に合わないからね。 許してくれるかい?」

「はい、……分かりましたよ」











 ……あぁ、疲れたな。






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