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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話  作者: 紗倉 悠里
終わりと共に輝く黒いモノ
22/25

ボク、可愛いから(???)


 あははははははははははははははははははははははははははははっ!

 時雨って、本当に面白いね、最高。

 でも、ボクに殺されるなんてまだまだだね。

 彼は到底、ボクには勝てないよ。

 でも、梅子さんを殺すのは、本当に最高だったよ。あり得ない展開、どんでん返しってやつかなぁ?

 言葉で表すならば、滑稽な悲劇。言葉が矛盾してる?ううん、矛盾してないよ。

 いつでもボクは正しいから。どんなことがあっても、ボクが一番だから。

 わかりにくい?うーん、例えるなら……“傍観者(ノーサイド)”よりかは正しいかなぁ。あいつも強いし正しいけど、ボクには勝てない。

 みんな、ボクに勝ちたがるけど、彼がボクに勝てるはずがないよね。だって、その前にボクに勝つ資格がないんだから。資格が無いのに勝つ必要なんてない。

 例えるなら、テストに名前を書かずに問題を解くのと同じ。それって、0点だよね?だから、彼も0点、勝つ資格がないね。

 え?例えがわかりにくい?うるさいなぁ、だからボクは正しいんだって。それを認めてよ。

 でも、時雨と梅子さんが死んじゃったらこの世界って、どうなるの?

 どんなに正しいボクでも、それは分からないし、その答えは作れない。きっと、“傍観者(ノーサイド)”でも無理なんじゃない?

 もし、あいつとボクが手を組んだら、世界は変えられるのかな。

 あ、それは、興味深いかも。

「ねー、時雨。 台本はどこにあるの?」

 目の前で横たわってる時雨を蹴る。

 でも、彼は返事をしない。

 なに、それ。ボクに逆らうの?

 それって、許されないよ。

 どれだけボクが優しくても、それは赦されない。

 でも、ボクは可愛い。

 だから、許してあげる。

 赦されないけど許してあげる。

 矛盾してるね、はははははははははははっ、それって面白いね。

 もう一度、ゲシって蹴りつける。

 でも、やっぱり返事をしない。

 面白いけど、面白くないなー。

 動かなかったら、面白くないじゃんか。

 最悪、サイテー。

 ボク、楽しいのは好きだけどさ、楽しく無いのは嫌いだよ?赦さないよ?ダメだよ?

 だから、もう時雨の出番は終わり。幕が閉まって、時雨は舞台の裏に隠されるんだよ。

 だけど、折角だから。ボクが、最期に演出をしてあげる。

「バンッ、バン、バンッ、バンッ!」

 見事に銃を連射。

 うるさいくらいに、銃声が響く。

 周りには人がいた。たくさんの人たちが私の周りに集まってくる。銃声に反応して、ギャーギャー泣き叫ぶ子供達に、怒鳴ったり、泣いたりしてる野次馬、救急車を呼んでる人や、警察を呼んでる人。

「あなたたち、ボクになにがしたい?」

 ボクは、首をかしげて聞いた。

 なにがしたいのか、ボクには分からない。

 救急車なんて呼んでも、今更じゃん。もう、時雨はしんでるよ。それは、確定した事実。

 警察なんて呼んでも、当てにならないじゃん。ボク、銃を持ってるんだよ?


 そんなことを思いながら、銃に新しい銃弾を詰め込んだ。




 ボクは、「あなたたちは、なにがしたい?」って、周りの人に聞いたよね。

 なのに、誰もボクに返事をしなかった。

 うーん、それはダメだよね。時雨じゃないし、梅子さんでもないから、許さないよ。 二人なら、厳重注意だけで許してあげたけど。

 そんな時、誰かが後ろからボクの腕に触れた。ボクはさっとそちらを向いた。

「ねぇ、なんてその男の人、倒れてるの?」

 可愛らしい女の子だった。どこかで見たことある人に似てるような。まぁ、そんなのはどうでもいい。

 この子、すごく可愛いね。でも服が白いワンピースは、模様がないからちょっと足りないなぁ。ボクが、それに模様、つけてあげるね。

「バンッ!」

「キャァァァァァァァァァァッ!」

 ボクが撃ったのと同時に、女の人が悲鳴をあげた。耳を劈くような高い声で。

 うるさい。なんでそんな声を出すの、煩わしいよ。

 目の前では、女の子が時雨に寄り添うようにして倒れた。ワンピースは、真っ赤になってる。

 うん、そっちの方が絶対に似合ってるね。

 “傍観者(ノーサイド)”に見せたら、絶対に喜ぶだろう。

 写メでも送ってあげようかなぁ。あ、でも、“傍観者(ノーサイド)”のメールアドレスは知らないなぁ。

 今度、教えてもらおう。

 そんな時だった。頬を痛みが走る。

「痛っ……!」

 ボクを叩いたのは、あの女の子の母親だった。涙で顔を汚しながら、ボクを叩いたのだ。


 ……カチッ。


 ボクの中のスイッチが入る。

「だめだよね、今のは流石に。 どれだけボクが可愛くても、優しくてもそれは許されないよね。 ボクは絶対的正義だからさ、あなたの今の行為は許されないよ」

 ボクはにっこり笑う。

「子供が死んだら、お母さんは必死なんだね。 でも、私には通じないよ。 私は、時雨よりも“傍観者(ノーサイド)”よりもね、狂ってて正しいから」

 そして、母親に静かに銃を向けた。

 母親の顔が引きつる。興奮して赤くなっていた彼女の顔がみるみる青くなっていく。

「バンッ!」

 小気味の良い音がしたら、母親の白いブラウスが真っ赤に染まる。そして、彼女は時雨の近くに倒れた。

 あはははははははははっ。

 三人が並ぶと、まるで家族みたいだね。

 とても、面白い。

 “傍観者(ノーサイド)”に教えたいなぁ、今の最高な気分を。

 三人を見下ろした後、視線を変える。 

「ねぇ、“傍観者(ノーサイド)”。 今、どこにいるの?」

 ボクは、空をみて呟いた。

 そして、歩き始める。

 後ろから、パトカーの音がしたけど、無視して歩いて行く。 

「止まりなさい、そこのあなた!」

 警察の声がする。

 カチンときて、つい立ち止まってしまった。




 失礼だなぁ、ボクに敬語を使わないなんて。それに、あなたって名前は嫌だなぁ。ボクには、ちゃんと名前があるよ。

 ボクは、振り向くと、時雨の頭の上に靴をのせた。そして、軽く体重も、のせる。

「やーだよっ。 ボクは、誰よりも正しいから。 あなたたちとは違うんだよ。 それからね、ボクには名前があるんだから。 そんな『あなた』なんて名前じゃないんだからね。 それだけだよ。 じゃーね」

 本当は、かっこよく銃を撃ちたかったんだけどね。もう、弾がきれちゃった。

 弾を詰めてる間に追いかけられたら嫌だから。

 ボクは、愛らしく微笑んで、その場を後にした。

 

 なぜか、後からは誰もついてこなかった。

 何でかなぁ、それを考えるのも面白いかも。

 あはっ、私って狂ってる。

 そんな毎日って面白いよね。

 

 ボクは、銃をしまうと、白いスマートフォンを取り出した。そして、あるゲームの管理画面に。

 そこの「生贄」の赤字のリストを何気無く眺める。

 上の方には、「白野 梅子」「高川 時雨」の文字が書かれていた。


 あれぇ?おかしいなぁ。笑えちゃう。

 なんで、管理者の二人が生贄になっちゃったの?

 あ、そっか。

「雪ちゃんが死んじゃったから、契約は破棄されちゃったんだね。 多分、“傍観者(ノーサイド)”がやったのかなぁ」

 あははははははははははははははっ!!

 なんて面白いの。

 雪ちゃんって、本当にすごいね。

 この世界の鍵を握ってたんだ。

 へぇ、面白いね!


 だけどさ、二人が死んじゃったら、誰が世界を終わらせるの?

 ボクは一瞬、そう思った。

「ま。 また、“傍観者(ノーサイド)”が何とかしてくれるよね」

 そう呟いた後で、ボクはスマートフォンの電源をきって、またポケットにしまった。


――ボクが頼れるのは“傍観者(ノーサイド)”だけ。彼は、ちゃんと狂ってて、正しいから。――



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