表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話  作者: 紗倉 悠里
終わりと共に輝く黒いモノ
17/25

赤く咲き乱れる梅の花(梅子 目線)

 私は昔、人を殺した。

 そりゃあもう、たくさん。数えきれないくらいに。だけど、私に罪の意識はない。

だって、相手が悪いことをしたんだから、仕方ないよね。

 超売れっ子の男性俳優とか、冷徹な女子高校生とか、明るい少年とか。全員、悪いことをした。

彼らは、私に殺された。みんなは、私じゃなくて寿樹さんが悪いっていう。だけど、違う。 私が悪いんだ。

 私にとって大切なのは「体裁」だった。 台本を手にいれてから、いえ、もっと前からそうだった。 体裁よりも大切なものなんてなくて。

あるとしたら、「命」くらいかな。

 夫も大切だったけど、友人も息子も大切だったけど、結局体裁を前にしたら、彼らは全て「要らないモノ」に変わった。

 そして、私は最低。

人をモノ扱いして、まるでチェスの駒のように自在に操った。青い駒と、赤い駒。そして、黄色い駒。この黄色い駒はクイーン。 私のこと。

あとの二つは必要のないもの。 名前をつけられる価値さえもない。

 前の、私の名前は坂本 日子だった。

今は、白野 梅子。世界が変わる時に、私と寿樹で考えて、自分に名付けた。

「白い野に咲く一輪の梅の花」なんて、ロマンチックなことを考えた。 でも、実は白い野に梅が咲くはずなんてなかった。

「白い雪の野に咲いた、赤く染められた雑草の小さな花」実際は、こんな意味が正しかった。

 一人ぼっちで、雪が積もった野原に生えた雑草。それの花が開いたとき、人の手によって汚染されて赤く染められてしまった。

 ね?私にピッタリ。私はこの名前が大好き。

 そして、寿樹は自分の名前を「高川 時雨」に変えた。

「川の上流の方から時雨が降っているように見える」

そんな感じの意味。 この国でしか実現できないことだ。

 なぜなら、この国は川の流れがとても急だからだ。 山が急なのも、それの川の流れが急なことの理由の一つだろう。

 寿樹は、自然が好きな人だった。 たとえば、庭を、四季の花で埋め尽くした。 それに世話も、自分できちんとした。 絶対に、使用人には触られさえしなかった。

 唯一、自分の息子だった「光」には触らせてやっていた。 水やりなどのやり方を手取り足取り教えてやっていた。

 しかし、私には触らせてくれなかった。




 まぁ、だから嫉妬したってわけじゃないけどね。

 世話の甲斐もあってか、花はとても綺麗に咲いた。特に、春の一面のチューリップと菜の花は感動した。寿樹って凄いな、って心から思った。

 まぁ、寿樹の話はここまでにしよう。


 私は、目の前にいる男の子を見下げた。彼は、真人くん。夜人の大事な親友だった子。とてもイイコだった。私のいうこともよく聞いてくれたし、雪の相手もしてくれたし。

 でも、もろいよね。 女の握力で死んじゃうなんて。 私の握力なんて35キログラムくらいなのに、それだけで死んじゃった。人間って、本当にもろい。

 私……本当は殺したくなかったけど、殺さなきゃだめだったみたい。真人くんは、知っちゃったし、夜人のことも思い出しちゃったから。まぁ、私がそう仕向けたんだけどね。


 Die Application。 このゲームアプリは普通ではない。明らかに、現実や当たり前のことを超えてしまっている。私が作ったものながら、あり得ないものだ。

 その機能は、表面はただのRPG系で、サイコロを利用したゲームだ。

 でも、本当の機能はそんなものじゃなかった。簡単にいえば、「このゲームのプレイヤーを殺す」ってゲームなわけ。それだけでは分からないと思うし、今から、詳しく話そうと思う。


 このゲームでは、まずプレイヤー全ての本名とメールアドレスを管理人の名簿に登録される。これは、登録の時の利用規約に書いてあるけど、読んで居ない人が多いんだろうね。沢山のプレイヤーが居るから。

 そして、その名簿に書かれたプレイヤーは、ランクが30を超えると生贄リストに登録されるの。そして、ここで出て来た「生贄リスト」。これにも大切な意味があるの。っていうか、これがこのゲームの本質の全てなんだ。


「生贄。 本当にいい響きの言葉」


 このゲームのプレイヤーは、ゲームに負けるごとに、そこのボスとよく似た現実の人間に、いじめられたり殺されたりするの。 真人くんなら、剛くんとか殺人鬼のことかな。そして、そのプレイヤーが何らかの理由で殺された時に、その人は生贄となる。

 そして、生贄リストに赤字で表示されるんだ。

 なんでそれが生贄と呼ばれるか。 それも大切。 それは、プレイヤーの残りの寿命が私と時雨のものになるから。


 さっき、真人くんに出した質問。

「どうして私がこんな若い姿でいられるか?」っていうやつ。正解は、これだった。


私と時雨は、沢山のユーザーから寿命をもらってた。だから、容姿もこのままで、ある意味不老不死。

 だけど、その仕掛けだけじゃうまくいかない。だって、そうでしょ?「そのゲーム利用者が次々と謎の死」とかなったら、もう利用者はいなくなっちゃう。

 だから、私はまた台本の力を借りた。 ゲーム利用者が生贄になったら、 自動的にその人と関わった全ての人からその人の記憶を消すの。

 夜人の時もそうだったでしょう?それに、柊さんのときも。 真人くんからも、夜人や柊さんのデータは消えちゃった。 台本の力は、友情や愛情ももみ消してしまう。

 この仕組みのおかげで、利用者は減らないし、私たちは不老不死になってるんだ。

 私の年齢は、本当は今は59歳になる。だけど、このアプリのおかげで30〜40代の人生を続けられていた。

 時雨も、私と同じ人生をおくっていた。


 だけど、私たちはある契りを結んでいた。

「光の生まれ変わりである雪を殺さないこと。 そして、雪を悲しませることはさせないこと」だった。

 雪は、ゲームの本質について知っていた。彼女は知っていたから、夜人の時も悲しまなかった。 泣きそうな演技をしただけ。

 光も、演技が得意だったから。特に、青髪の女の子を死に物狂いで助けようとした演技なんて、本当に最高だったわ。 笑っちゃいそうなくらいに。





 でも、私は破ってしまった。その契りを。私は、雪を悲しませてしまったのだ。雪は、夜人が死んだ時は演技で、悲しんでた。 でも……真人が死んだ時は、違ったみたい。

 なんでそれを私がわかったか。それは、振り返ったらわかること。

「日子さんっ!!」

 うしろから、大きな女の子の声が聞こえた。彼女の声は、間違えなく雪のもの。

 多分、時雨さんが何処かに隠れてて、この様子を雪に教えたんだろうね。もし教えなかったら、雪からも記憶が消えてたのに。はぁーあ、残念。私が契り破ったことになっちゃったじゃん。

「ん、なぁに?」

 私は、ゆっくりと振り返った。そして、驚いた。だって、彼女……泣いていたんですもの。

 物心ついてから今まで、滅多に泣かなかった、いつも笑っていた、彼女が泣いていた。

「ひっく、なんで、まこと……ぐすっ……なんで、ころしたっ……のっ!」

 とめどなく溢れてくる涙を拭いながら、雪は私にそう言った。

  彼女は、怒っている。 親の私が今まで一度も見なかった彼女の憤怒の表情。それを今、彼女は私に見せていた。

「なんでって……必要があったからよ」

 私は、動じないように冷たく答えた。ここで彼女に何かしら感情を込めて喋ったら、罪悪感が増しそうだから。

「……ぐすっ、うっ……ひっく」

 彼女が泣いている。長年育ててきた娘の泣き顔なんてやはりみたくなくて。私は目を逸らした。

 そして、彼女の足音がした。 次の瞬間、彼女は私の目の前にいた。

 彼女は、真人くんの体を激しく揺すっていた。

「真人っ! 真人、起きてよっ!」

 なんで、そんな一生懸命なんだろう。

 私にはわからない。ここまでに一生懸命、彼を揺する彼女の気持ちが。 真人くんは他人なのに、なんで……。

「そんなことしても無駄よ。 もう死んでるわよ」

 私は、そんな彼女に冷たい言葉を投げかけた。すると、雪は私の方を向いた。

「なんで? なんで、そんなこと言うのよっ……」

「事実ですもの」

彼女の言葉を遮って、冷たい言葉。私には彼女の気持ちはわからないから、こんな言葉しか投げかけることができない。

「日子さんは……寿樹さんが死んでも今のままでいられるの?」

「……っ!?」

 私は、雪の言葉に戸惑った。


『寿樹』。


 私にとって、一番大切な人。彼よりも大切な人なんて一人もいない。彼が私の全て。

 彼がもし死んでしまったら? そんなこと、考えたくもない。 彼の不幸なんて、想像したくない。

 雪の言葉は、完璧に私の予想を超えていた。彼女がこんな反抗的な言葉を出すなんて思ってもみなかった。

 どう返せばいいのか……わからない。

「居られ……ない、と思うわ」

 私は、小さな声で正直に答えた。すると、わずかに……本当わずかだけど、彼女の怒りの表情が緩んだ。

「でしょ? なら、私も一緒なのよっ!!」

彼女は、もう一度涙を拭った。 もう、目に涙は浮かんでいなかった。

……雪も一緒。

なら、雪は真人くんが好きなんだ。 彼を、この世で一番愛してるんだね。

「そう、なのね」

 私はふふっと微笑んだ。優しさじゃなくて、残酷な……微笑み。


 とても、愉快に思うの。

 彼女の感情をぐちゃぐちゃに壊す。彼女を壊してしまうことは、すっごく楽しい。多分、今までの人生最高に。人を殺すのは楽しいけど、生殺しの方がもーっと楽しい。「契り」があるっていうスリルが最高。

 真人くんが大切な人なら、彼女の周りの人もいっぱい消して、彼女を不幸のどん底に突き落としたい。



 ――この子が光の生まれ変わりじゃあなかったら、きっと私はこの子の人生をぐちゃぐちゃに壊していただろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ