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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話  作者: 紗倉 悠里
終わりと共に輝く黒いモノ
16/25

考えたくないな



「てことは……」

 とても嫌な、考えたくないものが脳裏に浮かぶ。

 あたまを振って、その考えを消そうとしているのに、それは消えてくれない。あたりまえのように俺のあたまに居座っていた。すぐさま消えて欲しかった。

 そしてーー

「うん。 わたしが殺したわけ。 夜人とか、梢とか」

この目の前にいる女にも消えて欲しくなった。

 梅子さんはそんな人じゃなかった。

 いつも優しくて気さくで、俺の愚痴も聞いてくれて、ルックスも良くて。なのに、なんでこんな女になったのだろう。

 《台本》のことは、本当に信じたくない。 だけど、それは俺の目の前に立っている。実際、梅子さん……いや、梅子はそれに汚染された。それに、穢されたのだ。

 そんなこと、あり得ないのに。俺の平凡は壊されてしまった。そして、あたりまえのように非現実が目の前に現れた。 きっと、俺もその台本に汚染されている。二度と抜け出せないのだ。

 俺は、絶望した。 からだから力が抜けて、そのままへたり込んでしまった。

「ふふ。 善い世界ばっかりみてるから、そうなるのよ」

 梅子がこちらに歩いてきて、俺を見下ろした。

 なぜか楽しそうに、微笑んでいた。その顔は、あまりにも怖かった。

 この世のものとは思えなかった。

「あ……う」

 俺は怯えているのだろうか。 上手く声が出なかった。声を搾り出そうとしても喋られない。

「せっかくだから、 最期に教えてあげる。 あなたの父さんと母さんが喧嘩した理由」

 そういって、梅子は微笑んだ。 はるか昔の、柔らかな優しいあの笑顔。 もう、みることは出来ない『梅子さんの』笑顔。

 そして、俺の首に彼女は手をかけた。

「それはね、 君だよ」

ぐっと、力を入れられた。

「うっぐ……あ」

 息ができない。 喋りたいのに、反論したいのに。

 意識が遠のいていく。

(俺って、こんなに脆かったっけ?)

ぼうっとした頭でそんなことを考える。

「君がね、学校にもいかないから。 親に反抗ばっかりするから。 本当は咲子さん、君のこと大っ嫌いだったんだよ? 朔さんの方はね、まだ優しかった。 君のこと、よく気にかけてたから。 でも、君は勘違いしたよね? どうせ、咲子さんや朔さんどころか、『俺のことを気にかけてくれる人はいないんだ』みたいなこと考えてたんでしょ?」

 梅子が淡々と話す。確かに、その通りだった。彼女のいうことは、俺のすべてだった。

「それともう一つ」

 梅子は、さっきよりも手に力をいれた。

「あのスマホ、私が贈ったんだよ。 君にね」

そんなことを言われた気がする。

その時、既に俺は意識を手放していた。





ーー「生」って、なんだろう。

 俺にはもうわからないんだ。

 心臓が動いていて、息をしている。それが「生きる」ってことなんだろうか。なら、他人から見捨てられて、孤独死しそうになっていても、心臓が動いていて息をしているからその人は「生きている」というのだろうか。

 確かに、そうなんだろう。 昔、雪とふざけて「生きる」と、「死ぬ」を時点で調べたことがある。

 完璧には覚えていないが、確か生きるの意味は、「人・動物が命を持つこと」と書かれてあったはずだ。そして、死ぬの意味は、「呼吸や息が止まり、命を失うこと」とあった。

 しかし、その下に、もう一つ「死ぬ」には意味があったのだ。その意味は、「活気がなくなる。 生気を失う」。

 その通りに考えると、「生きる」とは、「活気がある。 生気がある」という意味になる。

 そうしたら、俺は死んでいたのではないだろうか。

 俺は既に生気なんてなくしていたはずだ。しかし、俺自身も、そのことになかなか気づけなかった。だけど、あの時に気づいた。

『君は勘違いしたよね?』

 梅子の言葉だった。

 もう俺は、誰にも愛されてなんかいなかったのだ。柊さんとか、夜人とか……雛とか。 彼らは愛してくれなかった。

 いや、きっと彼らは俺を愛してくれていたのだろう。だけど、それにも俺は気がつかなかった。

「これが当たり前。 平凡な毎日」。俺はそう思い込んでいたから。

 だから、わからなかった。

 もし俺が、こんな不幸の塊じゃなかったら。親孝行で、友達もたくさんいて、学校は皆勤賞をとれる全出席で。そうしたら、未来は変わっていたのだろうか。

 俺がこんな男じゃなかったら、夜人たちは死ななかったのだろうか。

 どんどん、頭がこんがらがってきた。脳が混乱する。頭が痛い、身体中が痛い。苦しい、辛い。


 誰かに、それを分かってほしい。

でも、身体のどこかが分かって欲しくないといっている。

 矛盾している。全て、矛盾している。

 結局、俺がなにを求めても、それは与えてもらえなくて、俺がなにを信じても、周りは平気で嘘をつくんだ。

 でも、それは被害妄想。


 わるいのは、全部「俺」なんだ。



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